シドニーの風

シドニー駐在サラリーマンの生活日記です。
心に映るよしなしごとをそこはかとなく書き綴ります…祖国への思いを風に載せて。

朝鮮半島情勢(上)

2009-03-03 23:08:04 | あれこれ
 このところ朝鮮半島の三月危機説が囁かれて来ました。六ヶ国協議で進めてきた対北エネルギー供給支援が中断される可能性がある三月に、報道されている通り北朝鮮の「テポドン2号」またはその改良型の発射準備が整うためでした。最近、北朝鮮のミサイル技術者が、2月2日に行われたイランの人工衛星打ち上げに協力していたことが米情報筋から明らかにされ、北朝鮮の動きを牽制しています。テポドン2号の射程は約6000キロ(アラスカやハワイ周辺まで到達)ですが、改良型であれば1万キロ(米本土も射程圏内)にもなり、北朝鮮の弾道ミサイルが長射程化する脅威が現実化しつつあることが懸念されます。北朝鮮は人工衛星の実験通信衛星「光明星2号」を運搬ロケット「銀河2号」で打ち上げるための準備を進めているだけだと白を切っていますが、もとより誰も信じておらず、衛星とミサイル発射の技術はほとんど変わりはなく、北朝鮮に弾道ミサイル関連活動の停止を求めた2006年7月の国連安保理決議に違反していると日・米・韓ともに非難しています。
 今回の動きは、どうやらオバマ新政権を意識しているという見方が専らです。飽くまで六ヶ国協議を通じて北朝鮮の核兵器と核開発計画の放棄を検証可能な形で達成することを目指すアメリカに対して、北朝鮮は核廃棄より対米関係正常化が優先されるべきであり、その後、核軍縮交渉で朝鮮半島の非核化を実現するという立場、いわば「核保有国」として米国と対等な交渉を行なう立場を主張し、完全にすれ違っています。今回の長距離ミサイル誇示は、米国への脅威を演出することで、イラクやアフガニスタンに向けられがちなオバマ政権の目をあらためて北朝鮮に向けさせる作戦でしょう。
 飽くまで外交カードとして散らつかせているに過ぎないので、実際に日本やアメリカ本土に向けてミサイルを打ち込むことはないでしょうが、前回のように海に向けて発射する可能性は極めて高い。経済的に行き詰っている北朝鮮としては他に手段の取りようがない瀬戸際外交の現実、2005年の六ヶ国合意で核廃棄を約束したにもかかわらず、テロ支援国家指定解除や重油供給支援をタダ取りするだけで核査察を拒否したまま現在に至る不埒な国が、いまだにすぐ間近にいる北東アジアの国際政治の現実は、拉致問題だけをクローズアップしたがる日本人として、冷徹に理解しなければなりません。
 朝鮮半島は伝統的に大陸勢力(ランド・パワー)としての中国の勢力下にあり、朝貢関係を結ぶことによって朝鮮半島の国家は独立を維持して来ました。日本から見た場合、朝鮮半島は、元の時代を除いて大陸勢力が朝鮮半島全土を直接支配することがなかったという意味で、大陸勢力が南下することを阻止するバッファ・ゾーンとして機能して来たと言えます。日清・日露戦争は、この朝鮮半島の覇権を巡る、ランド・パワー(清国並びにロシア)とシー・パワー(英国及び英国を後ろ盾とする日本)との争いだったと見る人もいます。1920年代後半以降、日本は朝鮮半島を足がかりに大陸進出を本格化させ、今度はシー・パワーとしてのアメリカの大陸政策(中国権益の確保)と対立を深め、結局、日本は支配した領土を全て放棄し無条件降伏する形で決着したのは、歴史が示す通りです。戦後は、ランド・パワーのソ連と新たなシー・パワーとしてのアメリカが朝鮮半島で対峙し、朝鮮戦争はさながら両者の代理戦争の様相を呈しました。地政学的に見て、これほど重要な朝鮮半島に、かつては肩入れしていた大日本帝国が、戦後、大・帝国の文字を抜かれたら牙も抜かれたようで、日本になった途端、戦略性を全く感じられないのが、不満であり不安でもあります。