はしきやし

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ディー・ディー円熟ライヴ

2009-07-21 | Vocal

Deedee1 1974年、待ちに待ったサド・ジョーンズ/メル・ルイス・ジャズオーケストラの初来日、見たことのない若い歌手が郵便貯金ホールのステージにいた。スキンヘッドでナオミ・キャンベルみたいな体型、荒削りながらたしかな歌唱力。それがディー・ディー・ブリッジウォーターだった。いやァかわいかったなぁ、年上だったけど。
 なんだかドタバタな来日公演で、どんなメンバーで来るのかも分からず、歌手を帯同するなんて情報もなかったように記憶する。結果的には無名のすごい歌手を連れてきたぞと話題になり、ディー・ディーのレコードデビューにつながっていった。『アフロ・ブルー』はかなりのセールスを記録した。

 その後ディー・ディーはわたしの守備範囲でない方向へ行ってしまった。ジャズに帰ってきたのは15年ほど経ってからじゃなかったかな。写真の紅ジャケは2000年リリースのライヴ。もはや「かわいい」なんてもんじゃなくて、サラ・ヴォーンやエラ・フィッツジェラルドの最盛期なみの安定感。ことにスキャットのうまさ、面白さは大先輩に負けないレベルに達している。

Dee Dee Bridgewater: Live at Yoshi's

01. Undecided
02. Slow boat to China
03. Stairway to the stars
04. What a little moonlight can do
05. Sex machine
06. Midnight sun
07. Cherokee
08. Love for sale
09. Cotten tail
Dee Dee Bridgewater, vocals
Thierry Eliez, piano & organ/ Thomas Bramerie, bass
Ali Jackson, drums & percussion
-Recorded 1998
Verve Records

 有名曲ばかりのメニューはスロー、ミディアム、アップと変化に富む。スキャット全開の『アンディサイデッド』から『中国行きのスローボート』『星への階(きざはし)』『月光のいたずら』ときてジェームス・ブラウンの『セックス・マシーン』がご愛嬌。ここでディー・ディー、かなり踊っているはずである。聴衆の喜びぐあいからして、ブラウンの真似したりしてたかも。
 再びジャズ名曲集になってジューン・クリスティの十八番『真夜中の太陽』をしっとり聴かせると、次は怒涛の『チェロキー』が待っている。ティエリー・エリスのオルガンが炸裂する。最大の聴きものは『ラヴ・フォー・セール』14分。こういう自在の境地を示すほどにシンガーとして、ライヴパフォーマーとして成熟したんだなと思う。ハコが小さいのを活かした、目の前の客の反応をとりこみながらの引き延ばし。お嬢ちゃん歌手にはできない芸当だろう。でもって最後がスキャット雨あられの『コットン・テイル』。飽きさせないというか飽きようがないというか、

 伴奏トリオがむちゃくちゃうまいが、ピアノとオルガンを弾いているエリスはとびきりすごい。テクニックが抜群なだけでなく、アグレッシブにぐいぐい音楽を昂揚させていき、イマジネーションもゆたか。歌伴とは思えない(ある意味うるさい)全力投球のソロでたたみかける。それに負けないディー・ディーもすごい。ヴォーカルとピアノトリオっていう編成からはちょいと想像できない迫力だ。

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フランクフルトの魚フライ

2009-07-08 | Vocal

《閉鎖ブログ『歩きながら話そう』より転載(一部改変)》

Poindexter 「おや、ご隠居、今日はヴォーカルだね」
「うむ、アニー・ロスとポニー・ポインデクスターの共演盤だ」
「ポニーポイン?馬のおっぱい?」
「ポニー・ポインデクスター。熊さんがそんなこと言うから大箸虚船を思い出したなぁ」
「昔えらいセンセイだったってぇあのヒトかい?」
「センセイは昔、自分のラジオ番組をもっておられてな、そんなかでこのレコードをかけたことがあるんじゃ」
「センセイ何か言ってやしたか」
「こんなヘンな名前のヤツがいるわきゃない」
「へへぇ、それで?」
「サヒブ・シハブかだれかが変名で参加しているにちがいないとな。センセイのお言葉じゃから信じた人もいたんじゃないかねぇ」
「そのサシブシサブとかいうのも十分変わってると思いやすけど。で、ご隠居はスレてたから信じなかったと」
「おいおい」

「アニー・ロスってぇのは『へそ曲がり』歌ってた姐さん」
「それを言うなら『トゥイステッド』。えげれすの人じゃな。これは1966年にフランクフルトのジャズ祭で録音したものじゃ」
「いいねぇ、ソーセージ食いてぇ」
「そっちへ行くのか」
「歌もよくねぇな、『土曜の晩の魚フライ』だの『家庭料理』だの」
「食い物ばかり見るな。ブルーズの名曲もやってるし十八番の『トゥイステッド』もあるじゃないか」
「そりゃそうとフランクフルトでやってるのにベルリンオールスターズってぇのは解せねぇ」
「こういう名前のバンドがあったんじゃよ、ベルリンに。ただベルリン生まれはドラマーのジョー・ナイだけらしいが…」
「場内?築地か。鮨食いてぇ」
「その連中がアニーとポニーの伴奏を努めたというわけだ」
「レオ・ライトがいるけど」
「レオはシュトゥットガルトに住んでおったかな」
「カーメル・ジョーンズもいるねぇ」
「カーメルはMPSデビューした頃だろう」

Annie Ross & Pony Poindexter with the Berlin All Stars
01. Saturday Night Fish Fry
02. All Blues
03. Home Cookin'
04. Jumpin' at the Woodside
05. Moody's Mood for Love
06. Goin' to Chicago Blues
07. Twisted
Annie Ross, vocals
Pony Poindexter, alto sax & vocals
Carmel Jones, trumpet/ Leo Wright, alto sax & flute
Fritz Pauer, piano/ Andr� Condouant, guitar
Jimmy Woode, bass/ Joe Nay, drums
-Recorded 1966
MPS Records

「この男の声はだれで」
「ポニーじゃよ。アルトサックス吹いたり歌ったり大活躍じゃ。歌が意外にうまい」
「なーるほど、二人で歌ってる曲もあるわけだ。あのランバート、ヘンドリクス&ロスのひとり足りないヤツだな」
「ああ、そんな感じもあるな。ヘンドリクスの歌詞で歌ってるのもあるし」
「お、マイルズの『オール・ブルーズ』やってらぁ。これにも歌詞がついてるんだね。カーメルはいい音出してるし、なによりこのベースが粋だねぇ」
「ジミー・ウッドだからな」
「ピアノのプリッツとかいうのもうまいねぇ、パリパリッとした歯ごたえが」
「フリッツだよ、フリッツ・パウアー」
「昭和41年てぇとアニーはもうおばさんのはず…」
「『トゥイステッド』から14年も経っているが、なかなかどうしてカワユイのぅ」
「ほっぺたが弛んでるよ、ご隠居」
「ポニーはやはり歌よりアルトのほうがうまいか。しかしアニーが久しぶりにLH&Rのレパートリーをやってて楽しそうじゃ。これだけソロたっぷりの『トゥイステッド』が聴けるのもいいのぅ」
「たしかに8分もやってら」
「だから発奮したんじゃ」
「………」

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薄幸の美女

2009-06-29 | Vocal

Dandridge_2 Dorothy Dandridge: Smooth Operator
 Dorothy Dandridge, vocals
 Oscar Peterson, piano, celesta
 Herb Ellis, guitar/ Ray Brown, bass/Alvin Stoller, drums
 and with Unknown orchestra*
 -Recorded 1958 & 61*
 Verve Records 314 547 514-2

 しばらく忘れていたアルバムを、マイケルの訃報で思い出した。ドロシー・ダンドリッジ(1922-1965)の『スムース・オペレータ』。1999年リリースのコンピレーションアルバムで、上記のようにオスカー・ピーターソンとの共演を含む。

 「薄幸の美女」というベタなタイトルにしてしまったけれど、ドロシーは華やかな世界に身を置く不幸せな女という印象が強い。どんな生涯だったのかというと…。

 ドロシーの生まれる前に両親は離婚。スタートからついてなかった。芸人だった母親の指導により、ドロシーは姉ヴィヴィアンとともに「ワンダー・チルドレン」として舞台に立つ。学校などまともに通えない生活が続いた。成長してチルドレンでもあるまいってことになり、「ダンドリッジ・シスターズ」と改名。やがて「コットンクラブ」や「アポロシアター」などハーレムの名のある舞台で歌い踊るチャンスがめぐってきた。
 ステージを重ねるうち、美貌のドロシーには映画出演の話が舞い込む。マルクス兄弟の映画に出演したのは15歳のとき。その後も映画の仕事は続いた(姉妹で、あるいは単独で)ものの、役柄といえば当時の黒人のステロタイプ、つまり劣った人間、野蛮な人間としてのそれであった。よくてメイド、悪けりゃ犯罪者…。転機は1954年の映画『カーメン・ジョーンズ』。あの『カルメン』の舞台を米国に置き換えた黒人が主役というこのミュージカル映画で、ドロシーはアカデミー主演女優賞にノミネートされたのだ。

 ドロシーは有名女優になった。そこそこの富も手に入れた。しかし幸福になったわけではなかった。彼女は20歳でダンサー兼シンガーのハロルド・ニコラスと結婚、脳に障害のある娘を出産した後、29歳で離婚、娘の養育に追われていたのだ。ニコラスは立ちはだかる人種の壁を避けて弟とともにパリに拠点を移したが、ドロシーは米国に残り、白人が牛耳る世界で生きていくことを選んだ。
 有名にはなったが(あるいはなまじ有名になったために?)仕事はなく、イタリアやフランスの映画に出演した後再婚。これもうまくいかなかった。生活のためハリウッドの自宅を売り払い、安アパートに転居。それでも映画の仕事は減り続け、劣悪な条件のステージを続ける日々。1965年、42歳の死は薬物依存が原因だったとされる。

 この死因に異を唱えていたのがマイルズ・デイヴィス。かれは自伝の中で、1960年代に薬物依存で亡くなったとされる映画俳優やミュージシャンは医師の安易な薬物処方のせいで命を縮めたのだという。当時開発された向精神薬の一種を無責任に与え、まともな治療を施そうとしなかったせいだと。かれは何人かの「犠牲者」の名を挙げ、その中にドロシーも入れている。
 ミュージシャンもダンサーも一日3回の長いステージをほとんど休憩なしでこなし、ギャラはわずかというのが通例だったという。ツアーのハードスケジュールも当たり前。マイルズはみずから交渉してワンステージを短くさせ、ギャラの値上げも勝ちとっていた。しかしこれは例外。ショービジネスの多くの人々が身も心もすり減らすハードワークを強いられていた。そんな中での薬物であった。本人の意志の弱さのせいではないと、マイルズは主張するのである。

 

01. It's easy to remember
02. What is there to say?
03. That old feeling
04. The touch of your lips
05. When your lover has gone
06. The nearness of you
07. I'm glad there is you
08. I've grown accustomed to your face
    09. Body and soul
10. How long has this been going on?
11. I've got a crush on you
12. I didn't know what time it was
13. Somebody*
14. Stay with it*
15. It's a beautiful evening*
16. Smooth operator*

 さて、このアルバム、ピーターソンとの12曲はバラッド集。歌唱は決して安定感のあるものではないが、アンニュイでセクシーな歌声はそれなりに心地よい。曲がスタンダードばかりなせいもあって、12曲もあると飽きてしまうのが難点。最後に入っている4曲ではキュートな面も味わえ、タイトル曲はご機嫌なノリを聴かせる。

 ドロシーの姿を見たい人はYouTubeでかなりの数の映像が見られるので検索をお奨めする。映画“Carmen Jones”も含まれている。

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コニー・エヴィンソンのひ・み・つ

2009-05-26 | Vocal

Evingson_1 Connie Evingson: The Secret of Christmas
 Connie Evingson, vocals
 Doc Severinsen, trumpet/ Dave Karr, woodwinds
 Mary Louise Knutson, piano/ Robert Everest, guitar
 and others
 -Released 2002
 Minnehaha Music MM2004

 何年も前にコニー・エヴィンソンのサイトで試聴し、衝動買いしたかったアルバム『クリスマスの秘密』。なぜか国内市場では見つからず、いつのまにか忘れていた。それが数年後に店頭で見つけたとき、忘れていたはずの歌声と秀抜なアレンジが甦ってきた。意識下の記憶が呼び覚まされたのだ(あれ、なんだか今日は難しいぞ)。
 試聴したのは『くるみ割り人形小組曲』(5)だった。チャイコフスキーの『くるみ割り人形組曲』を思い切り縮めたもの(6分40秒)で、コニーはそれに歌詞をつけて歌っているのだ。むちゃくちゃ面白くてお洒落。これを聴いたら普通の人は買わずにはいられないはずである(どういう断定だ)。

 『くるみ割り人形組曲』はロバでも知っている。しかしそれに歌詞がつくなんて誰も予想しないだろう。その予想外のことをやらかすことで、親近性と新奇性を持った作品が生まれる(また難しいことを)。問題はバランスであって、曲をあまりデフォルメすると親近性が失われる。『くるみ割り』が『くるみ割り』に聴こえる範囲でやるのがミソなのだ。
 コニーとデイヴ・カーはそこいらへんをうまくコントロールしている。かなり大胆なアレンジだが何の曲を歌っているかは分かる。そして分かるからこそスリルが味わえる。『金平糖の踊り』も『アラビアの踊り』『花のワルツ』も、えらく新鮮な姿で立ち現われ、聴き手を思わずニヤリとさせるのだ。

 言うまでもないと思うがこれはクリスマス・アルバムである。『くるみ割り人形』はクリスマスのできごとを描いている。ほかに超有名(メル・トーメの『クリスマス・ソング』とか)から珍しいところまで、コニーのアルバムに共通するひねりの効いた選曲。(2)はウクライナの曲だというが賛美歌『あめにはさかえ』のフレーズを混ぜたりの変化(へんげ)が面白い。(3)はコープランドが『アパラチアの春』で使った米国の伝承曲。ラテンリズムの(7)は『幼子イエス』である。
 アレンジはコニー自身とメンバーの共同作業。ゲストのドク・セヴェリンセン以外はバックに有名どころはいないが、どうしてどうしてレヴェルの高い連中ばかり揃っている。かれらのでしゃばらないソロは粋である。

01. Snowfall/I Love the Winter Weather
02. Carol of the Bells
03. Simple Gifts
04. The Christmas Song
05. The Nutcracker Petite Suite
    06. Some Children See Him
07. Gesu Bambino
08. The Secret of Christmas
09. A Cradle in Bethlehem
10. Silent Night

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ねぇ、お大尽

2008-05-26 | Vocal

Lee_pass Lee_spender

Peggy Lee: Pass Me By/Big Spender

Peggy Lee, vocals
-Released 1965 & 66
Capitol Records 7243 5 35210 2 8

 もう死語なのかも知れないが、「お大尽」というのはしょうもないことに大枚をはたく人物のことをいう。これをそのまんま英語にすると“big spender”となるわけで、非常に解りやすい。ペギー・リーの最もリクエストされた曲といわれる『ビッグ・スペンダー』(16)は、そういうお大尽に呼びかける内容。ミュージカル『スウィート・チャリティ』の中で、セクシーなホステスさんたちが悩ましく身体をくねらせながら歌うものだった。ここで鼻の下をのばすとおカネをたんまり吸い上げられる仕掛け。ミュージカルの原作はニール・サイモン、挿入歌はサイ・コールマン、ドロシー・フィールズのコンビ。15曲くらいあったと思うが、この曲だけが飛びぬけて有名になった。
 ペギーが歌うと、当然ながら軽薄そうなお姉さんたちとは雰囲気がちがう。実際ペギーが歌わなきゃこれほどヒットしたかどうだか…。という詮索(?)はともかく、“Hey! Big Spender, Spend a little time with me.” なんていわれてその気になると、おカネどころか魂まで吸いとられてしまいそう(怖)。いや、そこまで考えなければえらくかっこいい曲であり、アレンジであり、歌唱である。
 ほかにも『晴れた日に永遠が見える』(12)などのミュージカルナンバー、映画では『シェルブールの雨傘』(19)の曲があり、切れ味のいいビッグバンドに支えられた明るくノリのいい歌が楽しめる。詳細は分からないがデイヴ・グルーシンとビル・ホルマンがアレンジを分担しているようだ。ポール・ホーンじゃないかと思えるフルートも聴こえる。

Pass Me By:
01.Sneakin' up on you/02.Pass me by/03.I wanna be around/04.Bewitched/05.My love, forgive me/06.You always hurt the one you love/07.A hard day's night/08.Love/09.Dear heart/10.Quiet night/11.That's what it takes
Big Spender:
12.Come back to me/13.You've got possibilities/14.It's a wonderful world/15.I'll only miss him when I think of him/16.Big spender/17.I must know/18.Alright, okay, you win/19.Watch what happens/20.You don't know/21.Let's fall in love/22.Gotta travel on

 左の『パス・ミー・バイ』はルー・レヴィのピアノを中心とするコンボがバックをつけている。ビートルズ(7)はオリジナルにわりと忠実だが、ジョビン(10)はあまりボッサしていない。ナット・キング・コールの『ラヴ』(8)もペギー流のスウィングだ。ソウルフルな曲とペギーらしい気だるい姉御ふうのくずしが効いた曲があって飽きないアルバム。

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