1974年、待ちに待ったサド・ジョーンズ/メル・ルイス・ジャズオーケストラの初来日、見たことのない若い歌手が郵便貯金ホールのステージにいた。スキンヘッドでナオミ・キャンベルみたいな体型、荒削りながらたしかな歌唱力。それがディー・ディー・ブリッジウォーターだった。いやァかわいかったなぁ、年上だったけど。
なんだかドタバタな来日公演で、どんなメンバーで来るのかも分からず、歌手を帯同するなんて情報もなかったように記憶する。結果的には無名のすごい歌手を連れてきたぞと話題になり、ディー・ディーのレコードデビューにつながっていった。『アフロ・ブルー』はかなりのセールスを記録した。
その後ディー・ディーはわたしの守備範囲でない方向へ行ってしまった。ジャズに帰ってきたのは15年ほど経ってからじゃなかったかな。写真の紅ジャケは2000年リリースのライヴ。もはや「かわいい」なんてもんじゃなくて、サラ・ヴォーンやエラ・フィッツジェラルドの最盛期なみの安定感。ことにスキャットのうまさ、面白さは大先輩に負けないレベルに達している。
Dee Dee Bridgewater: Live at Yoshi's
01. Undecided
02. Slow boat to China
03. Stairway to the stars
04. What a little moonlight can do
05. Sex machine
06. Midnight sun
07. Cherokee
08. Love for sale
09. Cotten tail
Dee Dee Bridgewater, vocals
Thierry Eliez, piano & organ/ Thomas Bramerie, bass
Ali Jackson, drums & percussion
-Recorded 1998
Verve Records
有名曲ばかりのメニューはスロー、ミディアム、アップと変化に富む。スキャット全開の『アンディサイデッド』から『中国行きのスローボート』『星への階(きざはし)』『月光のいたずら』ときてジェームス・ブラウンの『セックス・マシーン』がご愛嬌。ここでディー・ディー、かなり踊っているはずである。聴衆の喜びぐあいからして、ブラウンの真似したりしてたかも。
再びジャズ名曲集になってジューン・クリスティの十八番『真夜中の太陽』をしっとり聴かせると、次は怒涛の『チェロキー』が待っている。ティエリー・エリスのオルガンが炸裂する。最大の聴きものは『ラヴ・フォー・セール』14分。こういう自在の境地を示すほどにシンガーとして、ライヴパフォーマーとして成熟したんだなと思う。ハコが小さいのを活かした、目の前の客の反応をとりこみながらの引き延ばし。お嬢ちゃん歌手にはできない芸当だろう。でもって最後がスキャット雨あられの『コットン・テイル』。飽きさせないというか飽きようがないというか、
伴奏トリオがむちゃくちゃうまいが、ピアノとオルガンを弾いているエリスはとびきりすごい。テクニックが抜群なだけでなく、アグレッシブにぐいぐい音楽を昂揚させていき、イマジネーションもゆたか。歌伴とは思えない(ある意味うるさい)全力投球のソロでたたみかける。それに負けないディー・ディーもすごい。ヴォーカルとピアノトリオっていう編成からはちょいと想像できない迫力だ。