石川与太読書紀行

ドロップアウト、オーガニック・ブンガク

地獄のアングル

2007-03-27 18:28:45 | エッセイ
「地獄のアングル―プロレスのどん底を味わった男の告白」永島勝司・著 2004年


元新日本プロレス専務だった人がプロレスの裏側を語る。

まず全日との交流戦の交渉/武藤移籍の裏側が語られる。
プロレス好きなら堪らないネタで始まる。文書のテンポも良いのでスラスラと読める。あまりに軽過ぎてシリアスさが薄まっている気もするけど、逆にプロレスに関わっている人間の胡散臭さを感じた。

猪木との確執などから退社してWJの旗揚げまでの資金集めは興味深い。業界の裏にいるタニマチの顔がチラリ。
選手の離反、死亡事故、会場キャンセルなどのトラブルの数々は冗談みたいな面白さ。・・・でも、ボクは北朝鮮での興行、Uインター対抗戦の詳細こそを知りたい。

★★

冤罪

2007-03-27 18:15:38 | ルポ本(国内)
「冤罪―JR浦和電車区事件をめぐって」武藤功・著 2005年


JR東労組の組員七名が逮捕される。これは左翼に対するデッチ上げの不当逮捕だ・・・読み終えて、そう思った人は、これでマインド・コントロール/オルグ、一丁上がり。って感じ。

問題は著者の視点にある。つねに左翼側にあること。被害者に対する罵倒ぶりには鼻白む。加害者が匿名で、被害者が実名って・・・。それも事件のキッカケが敵対組織のメンバーとキャンプに行ったから、って。

しかし、そんな些細な事件利用して家宅捜査をする公安のやり方は悪質だと思う。その部分だけをクローズアップするべきだったのに、著者の<身贔屓>ぶりが著書のランクを下げてしまっている。

★★

悪魔の医師

2007-03-24 18:42:43 | ルポ本(国内)
「悪魔の医師―病院内60人連続殺人」ジェームス・B. スチュワート・著 2001年邦訳


これは凄まじいルポ本。読んでいて何度も背筋凍った。

好きな映画は「羊たちの沈黙」と言うように、医師は自分がレクター博士になったつもりだったのだろうか?毒薬を注射して次々に患者を殺して行く。それは仕事仲間にまで向かう。重圧に耐えられず婚約者は自殺までする。

本書の優れている点は、病院側の対面を重んじる裏側も抉り出している点。緻密な取材の賜物。

実刑受けて出所してからの医師の行動は異様でしかない。アフリカへ飛び、ここでも患者の殺して行く。ただ客観的な事実の積み重ねが、最後章で精神科医のコメントが挿入されて台無しになるけど、確かに医師の内面に踏み込んで<動機>を知りたいと思う気持ちは分かる。

★★★★

統一教会とは何か

2007-03-24 18:28:30 | ルポ本(国内)
「統一教会とは何か―追いこまれた原理運動」有田芳生・著 1992年


ちょっと時期遅れですけど。宗教問題に詳しい著者らしい切り口は、政治への接近を危惧する所で発揮される。選挙運動協力することで、政治家との繋がりを作る裏側が暴露される。

逆に退屈なのは元信者の告白ページ。実はページ埋め?とすら思った。このせいで本題の主張が薄まった気がした。
こんなことよりも、宗教=ビジネスに徹する<宗産複合体>をもっと掘り起こしてほしかった所。

★★

橋龍が愛した女

2007-03-23 18:59:20 | エッセイ
「橋龍が愛した女」金沢京子・著 1996年


発売はもちろん鹿砦社。元総理・橋本龍太郎の一夜妻の暴露本。

銀座のホステス時代の出会いから肉体関係を持つまでなら、良くあるスキャンダルだけど、著者の行動は以後は狂気を帯びて来る。そこには全く同情の余地が無い。
ほとんどストーカーの域で、結局は作家志望で出版社の紹介&パトロンの目的が適わずに逆ギレしているようにしか見えない。

でも、こんな所で自分のアナル嗜好を暴露されるとは、お気の毒です。

★★

死体を探せ!

2007-03-23 18:43:39 | エッセイ
「死体を探せ!―バーチャル・リアリティ時代の死体」布施英利・著 1993年


医師でもある著者が<死>が即物的である現実を語るエッセイ。

<死>に対して必要以上に感情を込めないクールさが、さすがはプロと思わせる。個人的にはダヴィンチの解剖図の緻密なデッサンから目が離せなかった。

意欲が走り過ぎた<アート>を論じる部分は余計だった。<現代アート>と<死>とは全くリンクしていないと思う。どうして本筋と離れてまで、自分のインテリジェンスをひけらかそうとしたのだろうか?
論客としての限界を見てしまった。

★★

日の丸を腰に巻いて

2007-03-21 12:56:43 | エッセイ
「日の丸を腰に巻いて―鉄火娼婦・高梨タカ一代記」玉井紀子・著 1984年


戦時中に中国・韓国・インドネシア・マレーシアへと慰安婦として従軍した女性の赤裸々な半生の聞き書き。
原住民&朝鮮人の虐待など、教科書では教えてくれない歴史の裏側が曝け出される。と言っても、それは薬味でしかない。

何よりも娼婦・タカのポジティブな姿が圧倒的。悲惨さの欠片も無い。生きることの貪欲さのようなモノが伝わってくる。
曰く「稼いだ金で家を建てた」「自慢は客に惚れなかったこと」と豪語する力強さには、清々しさすら感じた。

著者のスムーズに展開する編集もイイ。

★★★★

日本怪死人列伝

2007-03-16 13:44:55 | ルポ本(国内)
「日本怪死人列伝」安部譲二・著 2002年


これを<トンデモ本>と言えないのは、著者が裏街道を歩いて来た本物だから。

著者はヤクザ時代に実際に偽装殺人犯してたことを告白してるし。だから説得力が半端じゃない。新井将敬、国鉄総裁の自殺の推理は自分自身の過去を重ねてるに違いない!

大鳴戸親方のをコミカルに落とし、力道山では出所した犯人から真相を聞き出し、豊田商事会長と日航機墜落事故では返す刀でマスコミを批判してみせる鋭さ。赤報隊での推理はスリリングだった。快著になっています。

★★★

性釈日本昔話集

2007-03-16 13:17:57 | エッセイ
「性釈日本昔話集 エロスの根っこを掘る」金子登 ・著 1976年


童話や伝説にはセクシャルが暗示されていることは、既に指摘されてること。だからコレを奇書とは思わないけど、かなり強引な解釈も見受けられる。
民俗学者・柳田國男の説を否定するのは意欲があり過ぎかも。

それでもボクは本書を愛したい。それは自由自在に自分の<妄想>の仲を泳ぐ著者の姿勢に好感を持つから。
だいたい<正解>が無いのだから、それまでの説を否定したって問題はないのだ。

★★★

戦後日本の政財界をダメにした四人の首領

2007-03-15 15:22:32 | ルポ本(国内)
「戦後日本の政財界をダメにした四人の首領」青谷和久・著 1978年


政界のフィクサー/右翼の大物・笹川良一、小佐野賢治、児玉誉士夫、萩原吉太郎の四人の戦前の軍部の繋がりを指摘し、戦後の自民党の裏で暗躍する姿をネチネチと掘り起こして、ロッキード事件を終着駅にしての4者4様ぶりをルポする。

それぞれが押す政治家の思惑、駆け引きが興味深い。四人の微妙な人間関係や暴力団との繋がりも書いてある。
出たがり笹川とフィクサーに徹する課目な小佐野、児玉の対比も面白い。

これと「東京アンダーグラウンド」を続けて読み返したくなった。労作です。

★★★★