そろそろ金曜日に更新何とか戻したいのになかなかできないよごめんなさいの捏造クエストシリーズこと追加クエストもどき。「ふくろ」って、確か天使界で渡されたよね?ということで、今回の話となりました。バカップルがまたイチャついておりますが、よい子の皆様、くれぐれもサンディのように深読みせず、額面通りにお読みくださいまし。そう書くとかえって深読み続出な気がしてドツボにはまるような気もしますが(笑)
冒険後は、使った道具の補充や武器防具の手入れ、そして道具袋・装備品袋の整頓をする。それが旅をするようになってからずっと続く、ミミの習慣だった。師匠の教えだから、というだけでなく、結果的にそうしておいた方が後々楽だし、緊急時に慌てずに済む。
そしてその教えの主の、元師匠は今、彼女の傍らに座って、装備品の点検を引き受けていた。天使界由来や神々の武器防具等の特殊な装備品ならば、傷んだり汚れたりとは無縁だが、人間界の装備品にはやはりチェックは欠かせない。ミミの方は道具袋の点検をして、それから手持ちのアイテムの補充を始めた。「せかいじゅのしずく」は、まだ数に余裕がある。「超ばんのうぐすり」も大丈夫そうだ。
手持ちアイテム入れの傷みや汚れもきちんと手入れし、それからミミは、道具袋と装備品袋を不思議そうに眺めた。見た目は、さほど特別に大きな袋という訳でもないのに、信じられない分量の荷物をそれぞれ入れることができる。考えてみればこれらも、天使界の不思議な素材のひとつに違いない。
「イザヤール様、この袋ふたつ、便利ですけれど考えてみたら不思議ですよね」
ミミが呟き、イザヤールも頷いた。
「そうだな。・・・備品担当の天使に、作り方を聞いておけばよかった。確か、袋に魔力をかけて、中に異次元空間を作り出すと聞いたことはあるが、詳細はわからない」
「サンディの部屋みたいなものでしょうか」
「かもな」
点検もすっかり終わり、後は眠くなるまで自由時間。
「イザヤール様、ご予定は」
ミミが尋ねると、イザヤールは僅かにいたずらっぽい顔で答えた。
「許しが出るなら、ここに居る可愛らしくて色っぽい踊り子と、飲もうと思っている」
「え・・・私・・・?」
「他に誰が居る」
自分に色気があるか甚だ疑問だったが、褒められて嬉しくて、ミミはほんのり頬を染めて瞳を輝かせた。
「色っぽいって、ルイーダさんみたいな人のことを言うのだと思うけれど・・・」
「おまえにはおまえ独特の色気がある。・・・気付いてないのか」
どれだけ誘惑しているか、飲みながら教えてやろうか。艶かしい笑みと共に言われた言葉に胸をどきりとさせ、イザヤール様の方が私よりよっぽど色っぽいの、と彼女は内心呟いた。
しばらくしてミミたちが階下のルイーダの酒場に降りていくと、どことなく沈んだ雰囲気の冒険者のパーティが居た。
「あの人たち、どうしたの?」
ミミがこっそりルイーダに尋ねると、ルイーダも声をひそめて答えた。
「『魔獣の洞窟』に行ったら、ヘンなおどるほうせきに、持ち物袋を取られちゃったんだって。お財布も取られちゃって、ポケットに入ってた少しのお金で何とか泊まってるみたいよ」
「じゃああの人たちが飲んでるのは?」
「最初の一杯は私の奢りだけど、あとのはお水」
「酒場で飲めるのが水だけとはきつかろうな」
ちょっと同情的な口調でイザヤールが呟いた。
と、三人の会話の内容を察したのか、そのパーティのリーダーらしい若者が近寄ってきた。
「キミたちも冒険者みたいだね・・・」声に全く元気がない。「魔獣の洞窟には近付かない方がいいよ。あそこに居たおかしな『おどるほうせき』に、持ち物と財布をみんな取られちゃって」
「追いかけなかったんですか?」
ミミが尋ねると、若者はぶんぶんと頭を振った。
「追いかけたさ!だけどヤツは異様に逃げ足が速くて!凄腕の武闘家が『武闘家の証』を装備でもしてないと、とても無理だ!」
ミミとイザヤールは、顔を見合わせてから、頷いた。武闘家の証なら、転生とロクサーヌの店での購入でいくつか持っている。
「もしよかったら、そのおどるほうせき、捕まえてきます」
それを聞いて若者の仲間たちも駆け寄ってきて、お願いします、と頭を下げた。ミミはクエスト「ふくろ帝国の逆襲」を引き受けた!
翌朝、ミミとイザヤールは、さっそく武闘家に転職して「魔獣の洞窟」に向かった。
「おどるほうせきって、確かに逃げるときの逃げ足速いけれど、そんなに速いなんて不思議」
ミミが呟くと、サンディが腕組みをして、笑いながら言った。
「職業盗賊のおどるほうせきよネ、きっと」
「魔物にも職業あるのかなあ・・・」
この洞窟は穴から落ちた方が地下に入る近道だ。武闘家になったことでより身軽な二人は、ひらりと華麗に飛び降りた。
着地したその途端、いきなりおどるほうせきに出くわした。通常のおどるほうせきより、気のせいか魔力が強い気がする。
戦闘になるかと思いきや、予定外のことが起きた。なんと、そのおどるほうせきは、問答無用にいきなりミミたちの装備袋と道具袋を盗んだ!そしてはぐれメタルよりも素早く逃げ出した!ミミとイザヤール、そしてサンディは慌てて後を追う。武闘家の証装備は伊達ではなく、おどるほうせきとの距離はぐんぐん縮んでいく。
と、ここでそのおかしなおどるほうせきは、いきなり止まった。そして袋を取り返そうとミミたちが飛びかかる前に、怪しげな呪文を唱えた。
するとなんと、ミミたちの手持ちアイテム袋が勝手に動き出し、おどるほうせきのところに飛んでいってしまった!あまりのことに一瞬呆然とする二人だったが、おどるほうせきを挟み撃ちする体勢で素早く身構えた。
「みんなから奪った袋を返して」
必殺の扇を構えながらミミが言うと、おどるほうせきは、ただでさえも人を馬鹿にしたような顔を、更におどけさせて答えた。
「イヤザーンス!袋たちも、中身も、みーんなアタシのモノザーンス!」
「中身はともかく、袋にいったい何の用だ?!」
イザヤールが厳しい顔で尋ねると、おどるほうせきはゲラゲラと笑った。
「袋が肝心なんザンス!今こそ、ニンゲンにこき使われるばっかりの我々袋たちの、逆襲の時ザンス!・・・さあ、袋たちよ、あいつらをやっつけるザンス!」
すると、おどるほうせきの周囲にあるたくさんの袋たちが、ぴょんぴょんと跳ね始めた。そして襲いかかってきた!飛んできた装備品袋を、イザヤールは蹴りで叩き落としたが、服の入っている部分で受け止めたのか、蹴りの衝撃は吸収されてしまった。
ミミの方には道具袋が飛んできて、袋の口がいきなり開き、ミミに「さえずりのみつ」をぶつけてきた!素早く身をかわしたが、瓶が割れて辺りが滑りやすくなった。
「貴重品なのに~」嘆くサンディ。
「君が嘆いている場合か!」
イザヤール、サンディにツッコミを入れながらも、装備品袋が次々吐き出す武器をかわすのに必死だ。だが、辺りが狭いので避けきれなくなった。ミミとサンディをかばおうと避けずに受け止めたため、毒蛾のナイフが彼のむき出しの上腕をかすった。
「イザヤール様!」
ミミは慌ててイザヤールの手を引き、一時その場から離れた。
とりあえず魔物が入って来られない水に囲まれたスペースに逃げ込み、ミミはイザヤールの傷口を調べた。大した傷ではないが、毒蛾のナイフの傷では、早く治療をしないと痺れが起きてしまう。
「超ばんのうぐすりを・・・あ」
ここでミミたちは、手持ちのアイテム袋も取られてしまっていることを思い出した。二人とも武闘家だから、解毒魔法も使えない。一刻の猶予もならないと、ミミはイザヤールの傷口に唇を当てて、血と一緒に毒を吸いだそうとした。
「!・・・ミミ」
やわらかな唇が腕に触れる感触に鼓動を早めながらも、イザヤールは腕あての紐を一部裂いて、それで傷口の上部を縛り、毒がそれ以上回らないようにした。
とりあえず全身に回る心配がなくなると、彼は思わずミミの顔にみとれた。少し眉間を寄せ、長い睫毛を閉じて、必死に吸い付いているために頬が愛らしく紅潮している。自分を毒から守ろうと懸命な彼女がいとおしい。だが、ミミが傷口から唇を離さないので、毒の混じった血を誤って飲まないか心配になった。
「・・・ミミ、飲むなよ。吐き出せ」
その声に彼女ははっと顔を上げ、顔を背けて毒混じりの血を吐き出した。それからすぐにまた傷口に顔を寄せ、今度は舌でなるべく優しく傷口をなめ始めた。
「ん・・・くっ」
傷に優しい異物が走る、痛みとくすぐったさ混じりの快感に思わず息が漏れた。その声に、痛かったかとミミが慌てて顔を上げると、彼は微笑んで首を振って囁いた。
「大丈夫だ。・・・もういいぞ、ありがとう」
「ほんとに・・・大丈夫?」
「ああ」
彼は腕を動かしてみた。おかげで毒は抜け、傷もほとんど気にならない。その腕を伸ばして、頑張ってくれた可愛い唇を、感謝を込めて親指でなでた。
「ん?どうした、サンディ?」
ふと顔を上げたイザヤールは、サンディの顔も何故か少し赤いことに気が付いて首を傾げた。
「何か・・・アブナイわよアンタら・・・ここはよい子も大丈夫な場所ヨ!」
「?いったい何の話だ?」
「だいたいさあ・・・アンタら、解毒するならスキル『ふとうふくつ』あるじゃん」
「・・・あ」
気が付かなかった。今度は、バカップル二人が顔を赤らめた。
ここで気を取り直して、作戦会議となった。
「どうやら、魔力で袋を操っているようだな」
「武闘家だと魔力封じできませんね、どうしたら・・・」
「ではミミ、おまえがダーマのさとりで賢者に転職して、凍てつく波動を使ったら、袋にかかっている魔力も消えるかもしれないぞ。私がおまえを抱えておどるほうせきを追えば、充分追い付ける筈だ」
「その方法、良さそうですね。では、お願いします」
ミミは賢者に転職し、イザヤールは傷を負っていない方の腕で彼女を軽々と抱え、再びおどるほうせきの追跡を始めた。
おどるほうせきは、ミミたちが逃げ出したと思ったのか、すっかり余裕で上機嫌で、操っている袋たちに整列させて、番号確認をしていた。途中でミミを片腕で抱き上げたイザヤールに気が付いた。
「懲りないヤツらザンス!かかれ~!」
袋たちは再び次々襲いかかってきたが、ミミはすかさず凍てつく波動を放った!袋たちはぼたぼたと地面に落ちた。
「くそう!」
おどるほうせきは再び怪しげな呪文を唱えたが、ここで、ミミたちの装備品袋と道具袋たちが、いやいやをするようにぷるぷると震えだし、ミミたちの方に跳ねて行って、ペットのようにイザヤールの足元にすり寄った。
「もしかして・・・操られても私たちの味方をしてくれるの?」
ミミが目を潤ませて尋ねると、袋たちは同意するように跳ねた。
「さすがは天使界産の袋だ。いつまでも魔物に操られるほど柔ではないという訳か」
イザヤールは感心して呟くと、装備品袋から素早く棍を取り出して、電光石火の速さでおどるほうせきを仕留めた!
おどるほうせきはひっくり返り、その拍子に幻魔石を一つ落とした。その途端に魔力を失ったのか、操っていた袋たちは動かなくなり、おどるほうせきは普通のおどるほうせきになってしまったようだ。
「くそ~、せっかく、大怪像ガドンゴの魔力を長年かかって集めたのに!悔しいザンスー!」
おどるほうせきは叫んで、袋たち全部と、幻魔石を置いて逃げ出した。
こうしてミミたちは、冒険者たちの袋も取り返し、ルイーダの酒場に戻った。
「本当に助かったよ、ありがとう!取り返してくれなかったら、今夜は危うく野宿になるとこだった!」
依頼人たちは大喜びで、お礼にと「まりょくのたね」をくれた!
ミミたちは自室に帰り、自分たちの袋の中身の点検をした。それからミミは袋たちを抱きしめて囁いた。
「私たちの味方してくれてありがとう♪」
袋たちの次はもちろん、少々袋たちを羨ましそうに眺めていた愛しい人を、優しく、強く抱きしめた。〈了〉
冒険後は、使った道具の補充や武器防具の手入れ、そして道具袋・装備品袋の整頓をする。それが旅をするようになってからずっと続く、ミミの習慣だった。師匠の教えだから、というだけでなく、結果的にそうしておいた方が後々楽だし、緊急時に慌てずに済む。
そしてその教えの主の、元師匠は今、彼女の傍らに座って、装備品の点検を引き受けていた。天使界由来や神々の武器防具等の特殊な装備品ならば、傷んだり汚れたりとは無縁だが、人間界の装備品にはやはりチェックは欠かせない。ミミの方は道具袋の点検をして、それから手持ちのアイテムの補充を始めた。「せかいじゅのしずく」は、まだ数に余裕がある。「超ばんのうぐすり」も大丈夫そうだ。
手持ちアイテム入れの傷みや汚れもきちんと手入れし、それからミミは、道具袋と装備品袋を不思議そうに眺めた。見た目は、さほど特別に大きな袋という訳でもないのに、信じられない分量の荷物をそれぞれ入れることができる。考えてみればこれらも、天使界の不思議な素材のひとつに違いない。
「イザヤール様、この袋ふたつ、便利ですけれど考えてみたら不思議ですよね」
ミミが呟き、イザヤールも頷いた。
「そうだな。・・・備品担当の天使に、作り方を聞いておけばよかった。確か、袋に魔力をかけて、中に異次元空間を作り出すと聞いたことはあるが、詳細はわからない」
「サンディの部屋みたいなものでしょうか」
「かもな」
点検もすっかり終わり、後は眠くなるまで自由時間。
「イザヤール様、ご予定は」
ミミが尋ねると、イザヤールは僅かにいたずらっぽい顔で答えた。
「許しが出るなら、ここに居る可愛らしくて色っぽい踊り子と、飲もうと思っている」
「え・・・私・・・?」
「他に誰が居る」
自分に色気があるか甚だ疑問だったが、褒められて嬉しくて、ミミはほんのり頬を染めて瞳を輝かせた。
「色っぽいって、ルイーダさんみたいな人のことを言うのだと思うけれど・・・」
「おまえにはおまえ独特の色気がある。・・・気付いてないのか」
どれだけ誘惑しているか、飲みながら教えてやろうか。艶かしい笑みと共に言われた言葉に胸をどきりとさせ、イザヤール様の方が私よりよっぽど色っぽいの、と彼女は内心呟いた。
しばらくしてミミたちが階下のルイーダの酒場に降りていくと、どことなく沈んだ雰囲気の冒険者のパーティが居た。
「あの人たち、どうしたの?」
ミミがこっそりルイーダに尋ねると、ルイーダも声をひそめて答えた。
「『魔獣の洞窟』に行ったら、ヘンなおどるほうせきに、持ち物袋を取られちゃったんだって。お財布も取られちゃって、ポケットに入ってた少しのお金で何とか泊まってるみたいよ」
「じゃああの人たちが飲んでるのは?」
「最初の一杯は私の奢りだけど、あとのはお水」
「酒場で飲めるのが水だけとはきつかろうな」
ちょっと同情的な口調でイザヤールが呟いた。
と、三人の会話の内容を察したのか、そのパーティのリーダーらしい若者が近寄ってきた。
「キミたちも冒険者みたいだね・・・」声に全く元気がない。「魔獣の洞窟には近付かない方がいいよ。あそこに居たおかしな『おどるほうせき』に、持ち物と財布をみんな取られちゃって」
「追いかけなかったんですか?」
ミミが尋ねると、若者はぶんぶんと頭を振った。
「追いかけたさ!だけどヤツは異様に逃げ足が速くて!凄腕の武闘家が『武闘家の証』を装備でもしてないと、とても無理だ!」
ミミとイザヤールは、顔を見合わせてから、頷いた。武闘家の証なら、転生とロクサーヌの店での購入でいくつか持っている。
「もしよかったら、そのおどるほうせき、捕まえてきます」
それを聞いて若者の仲間たちも駆け寄ってきて、お願いします、と頭を下げた。ミミはクエスト「ふくろ帝国の逆襲」を引き受けた!
翌朝、ミミとイザヤールは、さっそく武闘家に転職して「魔獣の洞窟」に向かった。
「おどるほうせきって、確かに逃げるときの逃げ足速いけれど、そんなに速いなんて不思議」
ミミが呟くと、サンディが腕組みをして、笑いながら言った。
「職業盗賊のおどるほうせきよネ、きっと」
「魔物にも職業あるのかなあ・・・」
この洞窟は穴から落ちた方が地下に入る近道だ。武闘家になったことでより身軽な二人は、ひらりと華麗に飛び降りた。
着地したその途端、いきなりおどるほうせきに出くわした。通常のおどるほうせきより、気のせいか魔力が強い気がする。
戦闘になるかと思いきや、予定外のことが起きた。なんと、そのおどるほうせきは、問答無用にいきなりミミたちの装備袋と道具袋を盗んだ!そしてはぐれメタルよりも素早く逃げ出した!ミミとイザヤール、そしてサンディは慌てて後を追う。武闘家の証装備は伊達ではなく、おどるほうせきとの距離はぐんぐん縮んでいく。
と、ここでそのおかしなおどるほうせきは、いきなり止まった。そして袋を取り返そうとミミたちが飛びかかる前に、怪しげな呪文を唱えた。
するとなんと、ミミたちの手持ちアイテム袋が勝手に動き出し、おどるほうせきのところに飛んでいってしまった!あまりのことに一瞬呆然とする二人だったが、おどるほうせきを挟み撃ちする体勢で素早く身構えた。
「みんなから奪った袋を返して」
必殺の扇を構えながらミミが言うと、おどるほうせきは、ただでさえも人を馬鹿にしたような顔を、更におどけさせて答えた。
「イヤザーンス!袋たちも、中身も、みーんなアタシのモノザーンス!」
「中身はともかく、袋にいったい何の用だ?!」
イザヤールが厳しい顔で尋ねると、おどるほうせきはゲラゲラと笑った。
「袋が肝心なんザンス!今こそ、ニンゲンにこき使われるばっかりの我々袋たちの、逆襲の時ザンス!・・・さあ、袋たちよ、あいつらをやっつけるザンス!」
すると、おどるほうせきの周囲にあるたくさんの袋たちが、ぴょんぴょんと跳ね始めた。そして襲いかかってきた!飛んできた装備品袋を、イザヤールは蹴りで叩き落としたが、服の入っている部分で受け止めたのか、蹴りの衝撃は吸収されてしまった。
ミミの方には道具袋が飛んできて、袋の口がいきなり開き、ミミに「さえずりのみつ」をぶつけてきた!素早く身をかわしたが、瓶が割れて辺りが滑りやすくなった。
「貴重品なのに~」嘆くサンディ。
「君が嘆いている場合か!」
イザヤール、サンディにツッコミを入れながらも、装備品袋が次々吐き出す武器をかわすのに必死だ。だが、辺りが狭いので避けきれなくなった。ミミとサンディをかばおうと避けずに受け止めたため、毒蛾のナイフが彼のむき出しの上腕をかすった。
「イザヤール様!」
ミミは慌ててイザヤールの手を引き、一時その場から離れた。
とりあえず魔物が入って来られない水に囲まれたスペースに逃げ込み、ミミはイザヤールの傷口を調べた。大した傷ではないが、毒蛾のナイフの傷では、早く治療をしないと痺れが起きてしまう。
「超ばんのうぐすりを・・・あ」
ここでミミたちは、手持ちのアイテム袋も取られてしまっていることを思い出した。二人とも武闘家だから、解毒魔法も使えない。一刻の猶予もならないと、ミミはイザヤールの傷口に唇を当てて、血と一緒に毒を吸いだそうとした。
「!・・・ミミ」
やわらかな唇が腕に触れる感触に鼓動を早めながらも、イザヤールは腕あての紐を一部裂いて、それで傷口の上部を縛り、毒がそれ以上回らないようにした。
とりあえず全身に回る心配がなくなると、彼は思わずミミの顔にみとれた。少し眉間を寄せ、長い睫毛を閉じて、必死に吸い付いているために頬が愛らしく紅潮している。自分を毒から守ろうと懸命な彼女がいとおしい。だが、ミミが傷口から唇を離さないので、毒の混じった血を誤って飲まないか心配になった。
「・・・ミミ、飲むなよ。吐き出せ」
その声に彼女ははっと顔を上げ、顔を背けて毒混じりの血を吐き出した。それからすぐにまた傷口に顔を寄せ、今度は舌でなるべく優しく傷口をなめ始めた。
「ん・・・くっ」
傷に優しい異物が走る、痛みとくすぐったさ混じりの快感に思わず息が漏れた。その声に、痛かったかとミミが慌てて顔を上げると、彼は微笑んで首を振って囁いた。
「大丈夫だ。・・・もういいぞ、ありがとう」
「ほんとに・・・大丈夫?」
「ああ」
彼は腕を動かしてみた。おかげで毒は抜け、傷もほとんど気にならない。その腕を伸ばして、頑張ってくれた可愛い唇を、感謝を込めて親指でなでた。
「ん?どうした、サンディ?」
ふと顔を上げたイザヤールは、サンディの顔も何故か少し赤いことに気が付いて首を傾げた。
「何か・・・アブナイわよアンタら・・・ここはよい子も大丈夫な場所ヨ!」
「?いったい何の話だ?」
「だいたいさあ・・・アンタら、解毒するならスキル『ふとうふくつ』あるじゃん」
「・・・あ」
気が付かなかった。今度は、バカップル二人が顔を赤らめた。
ここで気を取り直して、作戦会議となった。
「どうやら、魔力で袋を操っているようだな」
「武闘家だと魔力封じできませんね、どうしたら・・・」
「ではミミ、おまえがダーマのさとりで賢者に転職して、凍てつく波動を使ったら、袋にかかっている魔力も消えるかもしれないぞ。私がおまえを抱えておどるほうせきを追えば、充分追い付ける筈だ」
「その方法、良さそうですね。では、お願いします」
ミミは賢者に転職し、イザヤールは傷を負っていない方の腕で彼女を軽々と抱え、再びおどるほうせきの追跡を始めた。
おどるほうせきは、ミミたちが逃げ出したと思ったのか、すっかり余裕で上機嫌で、操っている袋たちに整列させて、番号確認をしていた。途中でミミを片腕で抱き上げたイザヤールに気が付いた。
「懲りないヤツらザンス!かかれ~!」
袋たちは再び次々襲いかかってきたが、ミミはすかさず凍てつく波動を放った!袋たちはぼたぼたと地面に落ちた。
「くそう!」
おどるほうせきは再び怪しげな呪文を唱えたが、ここで、ミミたちの装備品袋と道具袋たちが、いやいやをするようにぷるぷると震えだし、ミミたちの方に跳ねて行って、ペットのようにイザヤールの足元にすり寄った。
「もしかして・・・操られても私たちの味方をしてくれるの?」
ミミが目を潤ませて尋ねると、袋たちは同意するように跳ねた。
「さすがは天使界産の袋だ。いつまでも魔物に操られるほど柔ではないという訳か」
イザヤールは感心して呟くと、装備品袋から素早く棍を取り出して、電光石火の速さでおどるほうせきを仕留めた!
おどるほうせきはひっくり返り、その拍子に幻魔石を一つ落とした。その途端に魔力を失ったのか、操っていた袋たちは動かなくなり、おどるほうせきは普通のおどるほうせきになってしまったようだ。
「くそ~、せっかく、大怪像ガドンゴの魔力を長年かかって集めたのに!悔しいザンスー!」
おどるほうせきは叫んで、袋たち全部と、幻魔石を置いて逃げ出した。
こうしてミミたちは、冒険者たちの袋も取り返し、ルイーダの酒場に戻った。
「本当に助かったよ、ありがとう!取り返してくれなかったら、今夜は危うく野宿になるとこだった!」
依頼人たちは大喜びで、お礼にと「まりょくのたね」をくれた!
ミミたちは自室に帰り、自分たちの袋の中身の点検をした。それからミミは袋たちを抱きしめて囁いた。
「私たちの味方してくれてありがとう♪」
袋たちの次はもちろん、少々袋たちを羨ましそうに眺めていた愛しい人を、優しく、強く抱きしめた。〈了〉
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