セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

危険な日用品研究

2013年05月24日 23時59分49秒 | クエスト184以降
今週ギリギリ更新捏造クエストシリーズこと追加クエストもどき。ドラクエワールドの「手癖の悪い勇者」に悩まされている魔物や一般家庭は多そうです。確かドラクエ4コマ栗本先生でそんなタンスネタあったな。

 初夏の好天の陽気は掃除日和である。部屋に置いてある大きな宝箱型の箱を磨きながらミミは、ふと箱や壷や樽やタンス等の、冒険には付き物の備品について思いを馳せた。彼女自身は壷や樽をやたらに割ったり、家主の許可なく他人のタンスを漁ることはないが、冒険がちょっとしたブームの今、ちいさなメダル等を求めて、にわか冒険者たちが壷や樽を割ったり、勝手にタンスを開けたりするのが問題になっているらしい。
 樽や壷だって、ガリレーさんのような職人さんが一生懸命作っているのに・・・。と、ミミは悲しくなった。旅は素晴らしいものだけど、旅先で狼藉をするなんてもっての他というルイーダの言葉はもっともだと、つくづく思う。
 ここでミミは、リッカの宿屋の近所の老人に、納屋の整頓の手伝いを頼まれていたことを思い出した。もうすぐ約束の時間だったので、少々慌てて出かけた。
 老人の家の納屋に着くと、彼は何やらたくさんの思い出に浸っているらしく、納屋の床は一見何だかわからない物で埋まっていた。人によってはがらくたにしか見えないそれらも、おじいさんにとっては大切な思い出の品々なのだろうと、ミミは微笑ましく思った。
「おお、ミミさんや。よく来てくれたのう。・・・すまんのう、先に少しは進めておくつもりが、かえって散らかしてしもうた」
「いいえ。とりあえず、要る物と要らない物を分けましょうか?」
「そうじゃの。・・・まずはそこの木箱じゃが、虫が食ってもう使い物にならないんじゃが、むかし孫が描いた可愛いラクガキがあってな。どうしたもんかのう」
「絵の部分だけくり貫いて、簡単な額縁を付けて、お部屋に飾ったらどうでしょう?きっといいインテリアになりますよ」
「なるほど!それはいい考えだのう。さすが若いお嬢ちゃんじゃ、ハイカラなあいであじゃの」
「いえ、そんな・・・」
 大したことではないのに褒めてもらって、ミミは照れた。そしてさっそく注意深く大切な思い出のラクガキを切り取った。
 そんな風なのんびりお片付けは、いつ終わるともしれなかったが、夕方になる頃にはあらかた片付いた。老人はミミに、タンスの肥やしになっていたちいさなメダルや魔力の種の他に、蝶の羽やよごれた包帯や風きりの羽など、錬金の材料になりそうな物をたくさんくれた。
「何だか、ガラクタまで引き取ってもらうようで悪いのう」
「いえ、私には本当に必要なので嬉しいです。それに、すごい価値の物もありますよ。本当にいいんですか?」
「種のことなら、売っても大した額にならんでな。それならお嬢ちゃんに使ってもらった方がいい」
「ありがとうございます!」
 ミミの花開くような笑顔に、老人も幸せそうに微笑んだ。
「お手伝いしてくれた他にそんな可愛い笑顔までしてくれて、嬉しいのう。・・・冒険者がお嬢ちゃんみたいな子ばかりなら、わしの友人も変な研究を止めてくれるんじゃろうが」
「変な研究?」ミミは眉をひそめた。
「わしには年下のちょっと変わった学者の友人がおるんじゃが、そいつが自宅のタンスや樽や壷を触られるのがイヤなばかりに、壷や樽やタンスを『ひとくいばこ』のような魔物に仕立て上げようと熱心な研究を初めてしまってなあ。研究の失敗を願うのは通常悪趣味じゃが、今回ばかりは失敗を願わずにはおれん」
 ミミの瞳の陰影が、憂いで濃くなった。宝箱だけでなく、日用品である筈の壷や樽や果てはタンスまでモンスターになってしまったら、手癖の悪い盗賊だけでなく、罪無き一般人も困るだろう。
「そんな顔しなさんな。そうそううまくいくもんではないでな。それより、婆さんと息子夫婦と孫がそろそろ帰ってくるから、一緒にお茶でもどうかの」
「はいっ」ミミの顔に愛らしい笑顔が戻る。
「そうそう、その顔じゃよ。お嬢ちゃんの婿さんになる人は幸せもんじゃのう」
 そう言われて、花開くような笑顔に、恥じらいの薔薇色が加わった。

 その晩、イザヤールとグラスを傾けながら、ミミは老人の友人の危険な研究のことを話した。
「壷の魔物の話は、古文書や異世界の魔物についての本に載っていた記憶がある。一説によると、壷に悪魔が宿ったもので『悪魔の壷』と呼ばれていたそうだ。また、本棚に潜む本の魔物もかつて存在したらしい」
 イザヤールの言葉に、ミミは驚きで目を丸くした。
「そんな、町の中にある壷や本が魔物なんて、防ぎようがないのに・・・」
「心配するな、少なくとも今は居ない。私も守護天使になってから一度も、そんな魔物は見たことはない。それほど長い間存在しない魔物を、すぐに作り上げることができるとは思えないしな」
 そう言って彼はミミの頭を優しくなでたので、彼女の表情は明るくなり、またほんのり頬が染まった。
 しかし翌日。ミミは、心配になった老人に今度はお使いを頼まれたのだった。
「昨日はああ言ったが、やはり研究が進行していないか気になってのう。すまんが、ちょいと様子を見てきてくれんか。そして万が一研究が成功していたら、わしの為に止めてくれと伝えておくれ。それも聞かなかったら、気の毒だが研究成果を壊してきてほしい」
 老人はミミに学者の住んでいる位置を示した地図を渡した。ミミはクエスト「危険な日用品研究」を引き受けた!

 イザヤール、それにサンディも加わって教えられた場所に行くと、小さな二階建ての家があった。とりあえずダンジョンなどではなくれっきとした人間の住む家である。
「ごめんください」
 ミミはドアをノックし、丁寧に声をかけた。しかし、中から人の気配はするのに、返事はない。
「どなたかいらっしゃいませんか」
 声をかけながら、ミミはおそるおそるドアを開けた。すると、玄関の先はがらんとしたワンルームで、壷と樽が一つずつ、それに立派なタンスが一竿、如何にも調べてくださいと言いたげに、これ見よがしに置いてあった。それぞれにご丁寧にも「覗くべからず」と書いてある。
 ミミたちはそんな壷やタンスをとりあえず無視して、階段を見つけたので上がってみた。すると、二階には気難しそうな顔をした中老の男が机に向かっていて、何やら熱心に書き物をしていた。彼はミミとイザヤールが上がってくると、二人をじろりと睨んで、挨拶もそこそこに言った。
「あんたらは冒険者だね。・・・下の壷や樽は覗かなかったのかね」
「はい。『覗くべからず』と書いてありましたから」
 ミミが答えると、男は眉を片方吊り上げた。
「おやおや。今どき珍しい素直な人だね。その素直さのご褒美に、階下の壷や樽、そしてタンスの中身を全て進呈しよう。・・・まあご覧の通り貧乏学者だから、大した物は入ってないがね。さあ、どうぞ」
 こう勧められると、かえって気味が悪い。ミミは、その勧めを辞退して、用件を告げようと思ったが、イザヤールが袖を引いて小さく首を振った。そして言った。
「ミミ、ご厚意に甘えよう」
 階段を降りる足音に紛らせて彼は囁いた。
「用件を伝えても素直に応じてくれるとは限らない。むしろ我々を帰した後に、他の者で実験される方が厄介だ。だから・・・」
 わざと罠にかかってみようとイザヤールは言って、なるほどとミミは頷いた。
「そーよミミ!みんながアンタみたいな素直なお人好しばかりじゃないんだかんね!」
 サンディも言って、戦闘記録を記入すべく、キラキラなデコレーションだらけのペンを取り出した。
 まず二人は、壷の前に立った。通常なら覗き込むところだが、もしかしたら魔物の可能性があると最初からわかっている今回、イザヤールはバトルマスターの力をフルに使って、いきなり壷を持ち上げて逆さまにした。
 すると、壷の中から悲鳴じみた声が聞こえた。
「きゃー、頭に血が上る、落ちるー!何するのさー!」
 それでもイザヤールは無視して壷を逆さにし続けていると、遂に堪えられなくなったのか、壷の中から何かがでろりと流れ出た。なんとジェリーマンが現れた!イザヤールの回し蹴りで、ジェリーマンはあっさりのびてしまった。
「あ、壷を直接魔物化するんじゃなくて、中に魔物を入れただけの改造なのね。よかった~」
 ミミがほっと息を吐き出すと、サンディが呆れたようにツッコミを入れた。
「それ、よかったワケ?」
 じゃあ樽も中に何か入っているのかな?とミミが何気なく呟くと、イザヤールはニヤリと笑って言った。
「剣を刺して、試してみるか?」
「いきなりソレはヤバくない?聖水注げばいーと思うんですケド」とサンディ。
 樽は独りでにぶるぶると震えだした!やはり魔物が入っているらしい。
「じゃあとりあえず聖水を・・・」
 と、ミミが瓶を取り出すと、樽の蓋が弾けるように空いて、はぐれメタルが飛び出し、逃げ去ってしまった。
「人選ミスならぬ魔物選ミスだな」イザヤールが呟いた。
「この調子じゃあタンスも大したコトないかもね~」とサンディ。緩い空気が醸し出され始めた。
 しかし油断は禁物である。ミミとイザヤールはそれぞれタンスの横に立ち、両側から一斉にタンスの取っ手を引いて、タンスが開いても扉の陰に居られるように開けた。これなら不意討ちの攻撃がいくぶんでも防げる。サンディはもちろんミミの後ろに隠れている。
 タンスの中からマッドブリザードが現れた!マッドブリザードはいきなりザラキを唱えた!「まよけの聖印」を装備しておけばよかったとミミは少し後悔した。特別な命の石を二人で装備していたとはいえ、作ったばかりのペアアクセサリーが壊れてしまっては悲しいのである。・・・のんきなと叱られそうだが。
 幸い二人ともザラキは無事に遣り過ごしたが、マッドブリザードはまたタンスの中に潜って二人の反撃をかわしたりして、かがやく息を吐き出して大ダメージを与えてきた。ミミはベホマズンを唱え、イザヤールはさすがに屋内でギガブレイクはためらわれたので、はやぶさ斬りでマッドブリザードを倒した。
「タンスはシャレになんなかったんですケド・・・」サンディがぼやく。
 学者は階段の上から様子を窺っていたが、全て失敗したのを見て、悔しそうな、だがどこかほっとしたような顔をしていた。
 そんな彼を責めることなく、ミミは静かに言った。
「お友達のおじいさんから伝言です。わしの為に止めてくれ、と言ってました」
 学者はぶっきらぼうに、だが確かに頷いた。それを見届けて、ミミたちは家を後にした。

 それからミミとイザヤールは、セントシュタインに戻って老人に事の顛末を報告した。
「お嬢ちゃんたちを危険な目に遭わせてしまったのう。だがありがとうよ、これでヤツも少しは反省するじゃろう」
 これはお礼だと、老人は「いけない水着」をくれた!
「うちのばあさんに若い頃プレゼントしたが受け取り拒否されたものでな。諦めきれず取っておいたが、やはり若いもんに使ってもらった方が良いでな」
「あ・・・ありがとうございます・・・」
 いいのかなと思いつつミミは受け取った。このお礼が今年の夏活躍するか否かはまた別問題話である。〈了〉

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