セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

オラの天女サマ

2013年07月05日 23時59分31秒 | クエスト184以降
時間も文字数もギリギリ更新です。七夕ネタ?です

 いよいよ夏本番とも言うべき季節がやってきた。こんな季節はさらりとした上質の白麻の服が涼しい。そんな麻素材で、飾りは肩紐の結びだけの、ノースリーブの簡素で足首まで覆うくらい長いワンピースが、今セントシュタイン城下町で流行っていた。もちろん発信地はロクサーヌの店である。
「ミミ様に着て頂いてあちこち歩き回って頂いて大正解ですわ☆ミミ様が綺麗に着こなしていらっしゃるから、たくさんのお客様が『あのワンピースください』ってお問い合わせくださいますの♪」
 読みが当たって嬉しいロクサーヌは、ミミにエンジェルスマイルと言いたいくらいに眩しい笑顔で微笑んだ。
「え・・・私じゃなくて、ワンピースが綺麗だから流行っているんだと思うけれど・・・。でも嬉しいな、ありがとうロクサーヌさん」
 ミミは照れて頬を染めながら微笑んだ。このワンピースは、シンプルなだけに、一緒に身につける小物を変えることで、様々な表情を付けることができる。着る者の趣味ごとにいろいろなテイストになるので、それもまた流行っている一因らしい。
「さあミミ様、そのお姿でイザヤール様のお迎えにいらして、また宣伝をよろしくお願い致しますね☆」そう言いながら、ロクサーヌはミミの肩に「にじいろのぬのきれ」をふわりと巻いた。「まだ夜は少し冷えますから、これをショール代わりにどうぞお持ちください」
「綺麗・・・。ありがとう、ロクサーヌさん」
 白い生地に角度によって変化する虹色がよく映える。イザヤール様も、気に入ってくれたら嬉しいな。ミミは弾むように軽やかな足どりで、黄昏の町に出た。

 黄昏の淡い光と微風をはらんでふわりとする虹色と白の布は、羽衣のように幻想的な印象を与える。遠くからミミの姿を見つけたイザヤールは、気に入るどころか、それこそ天使に会ったかのように息を呑み、みとれた。そして微笑んで更に歩調を速めた。
 だが、みとれていたのは彼だけではなかった。
 如何にも純朴そうな顔に、実用一点ばりの服と麦わら帽子の若者が、口をあんぐり開けてイザヤールと同じ方向を見つめていた。イザヤールは彼の側を通りかかったので、若者の独り言を辛うじて聞き取れた。
「ほえ~・・・都会の女のコっちゅーのは、みんな天女サマみたいなんか?・・・けどオラの天女サマの方がキレイだあ~」
 愛する女を一番美しいと思う男の気持ちは、イザヤールもよくわかるが、いやいや、ミミの方が絶対に綺麗だと、仲間たちに聞かれたら「彼氏バカ」といっせいにツッコミを受けるであろうセリフを内心呟く。とはいえ、だからナンパ危険は無かろうと安心していたので、いきなり若者がミミの方へ全力で突進していったことに仰天した。
「ちょいと、そこのおじょーさーん!!」
 ミミは自分のことだとはゆめにも思っていなかったが、ものすごい必死の形相で誰かが前方から走ってくるのを見て、濃い紫の瞳を見開いて慌てた。
 彼女も充分避けられただろうが、その前にイザヤールが風のように疾走してミミの前に立ち、走ってくる若者に足払いをかけた!だがさすがに転ばせるようなことはせず、腕を伸ばして彼を支え、とりあえず走らせることを止めさせた。
「彼女に何か用か?それにしたって、いきなりそんな猛スピードで走ってこなくてもいいだろう。ぶつかってケガでもしたらどうする」
 おそらくミミが避けてケガをするのは君だろうが、という後半のセリフは口に出さず心にしまっておくイザヤール。
「あわわ・・・ごめんよう。いやオラは、このお嬢さんに聞きてえことがあって・・・」
 ミミはあっけにとられてイザヤールと若者の顔を見比べていた。イザヤールに思ったより早く会えて嬉しいのと、突発的な危機?をイザヤールが防いでくれて嬉しかったのと、イザヤール様、いつの間に?!という驚きと、見知らぬ若者に突進された驚きが複雑に絡み合って、すぐに口がきけなかったのである。
「あの、私にご用ってなんでしょうか?」
 ようやく喋れるようになったミミは、長い睫毛を瞬かせながら若者に尋ねた。
「え~と、お嬢さんが着ているのは、『水のはごろも』かい?」
 若者はにじいろのぬのきれを見ているようだ。
「え?いいえ、これは虹色の布で、羽衣ではないんです。水のはごろもをお探しなんですか?」
「ん~、実はそーなんだよ」
「水のはごろもは、ナザム村かドミールの里で売っていますけれど、ここセントシュタインにはないかも・・・あっ、ロクサーヌさん在庫持ってないかなあ・・・。友達が扱っているかもしれないから、聞いてみましょうか?」
「ホントかい?!助かるよう」
「・・・その前に、不躾で悪いが何故必要か聞いてもいいか?」
 イザヤールが用心深く尋ねると、若者は顔を赤らめてぽりぽりと頭を掻いた。
「いやその・・・実は、天女サマに頼まれて」
「天女さま?!」
 ミミとイザヤールは驚いて声をハモらせて叫んだ。
「実はさあ・・・オラ、家の近くの泉で、帰れないってしくしく泣いてるえらいべっぴんの女のコを見つけただよ。ワケを聞いたら、彼女は天から遊びに来た天女サマで、羽衣が無いと帰れないって言うんだ。『水のはごろも』が無いと飛べないんだと。だからオラ、街まで出てきて買いに来たんだ。都会ならなんでもあんじゃねえかって思ってよう」
 ミミとイザヤールは顔を見合わせた。星ふぶきの夜以前だったら、その「天女サマ」は、もしかしたらミミたち同様「天使界から落ちてしまった天使」の可能性を疑ったかもしれない。しかし、今天使が空から落ちることはまず無い筈だし、天使以外で天空に住む種族は、少なくともこの世界では見たことがない。天使だった自分たちの知らない、未知の場所が天空か高山にでもあるのだろうか。それは実に興味深い。ぜひ「天女サマ」に会ってみたい。
「よかったら、水のはごろも探しのお手伝いします」
「私も及ばずながら力を貸そう」
「ありがとう!ぜひ頼むだ!」
 ミミはクエスト「オラの天女サマ」を引き受けた!

 ミミとイザヤールは、さっそく若者と一緒にロクサーヌの店に向かい、水のはごろもの在庫が無いか尋ねた。リッカの宿屋スタッフが美人揃いなのを見て、若者はまたもやあんぐりと口を開けた。
「都会ってべっぴんさんだらけだや~。でもやっぱりオラの天女サマの方がべっぴんさんだっぺよ」
「その天女さまって方は、今あなたの家で待っているんですか?」
 ミミが尋ねると、若者は頷いた。
「んだ。掃除してくれたり、シチューやパイを作ってくれたりして、それがまたとっても旨いんだあ」それから、彼はぼそりと小さな声で付け加えた。「羽衣が見つからなかったら、ずっと傍に居てくれるんかな・・・」
 だが若者は、慌ててぶんぶん頭を振り、叫んだ。
「いや、そったらこと考えちゃダメだー!天女サマをお家に返してやらんと・・・」
 そんな様子を見て、優しい人なんだとミミは微笑んだ。それにしても、シチューやパイを作ってくれるなんて、ずいぶん人間的な天女さまだ。まさか本当に天使か、それとも未知の種族なのだろうか。
「天女さまには、翼か何かは付いているか?」
 イザヤールが尋ねると、若者は頷いた。
「んだ。だからオラ、びっくりして・・・。白鳥の羽みてーなでっかい翼だっぺよ」
 それを聞いて、彼は一瞬顔を緊張と驚きで引き締めた。本当に星にならなかった天使か、それとも、書物で読んだことのある伝説の天空人やリファ族が、この世界に実在するというのか?と。しかし、イザヤールは悲観主義者では無いが極端な楽観主義者でもなく、人間を長いこと見守ってきた経験かつ合理的な思考力も持ち合わせる男である。未知の種族というロマン溢れる結論よりも、もっと現実味溢れる結論を内心念頭に置いていて、こっそり気の毒そうに男を眺めた。
 あいにくロクサーヌの店の水のはごろもは、明日の入荷待ちだった。熱帯夜対策に急速に売れてしまったのである。
「それなら、私たちが錬金した方が早そう。イザヤール様、使っていない『まほうのほうい』、確か装備袋に入っていましたよね」
 ミミは小声でイザヤールに囁いた。
「ああ。『あまつゆのいと』や『せいれいせき』も余っていた筈だ」
 ミミたちはさっそく、水のはごろもを一着錬金した。そして若者に渡した。
「これが水のはごろもかあ~。確かに天女サマが着そうなキレイなものだなあ。ありがとよう、お代はいくらなんだい?足りなきゃ死んだオヤジの畑を売ればもっと出せるだよ」
「使ってない物で作ったから、お代はいりません」ミミは言った。「その代わりに、私たちも天女さまに会わせてくれませんか」
「それでいいのかい?きっと天女サマも喜ぶべよ!」 善は急げと、若者はさっそくミミたちと一緒に帰宅することにした。

 若者の家は広大な森を開墾した畑の奥にあった。道中、牧場もあって、若者はふと足を止めて言った。
「動物たちの様子も見てやらにゃ。・・・あんたたち、悪いが先にオラの家で待っててくんないかい。ただ天女サマを驚かすといけないから、裏庭のベンチでゆっくりしててくんろ」
 家畜小屋に向かう若者の背中は、心持ち元気が無い。帰って水のはごろもを天女に渡せば、すなわちそれがお別れの時だから、それが辛くて、少しでも先に引き延ばしたいのだろう。ミミとイザヤールは若者の気持ちを考えて、彼の言う通り先に行くことにした。
 家に着いて、言われた通りそっと裏庭の方に回ると、意外にも、家の中ではなくそこのベンチに、一人の少女が座っていた。確かに美しい顔立ちをしていたが、幻想的な容貌を構成しているのは、明らかにメイクの力に因るものが大きかった。そして若者が言っていた翼は、彼女の背中ではなく、何故かベンチの傍らに寄りかけてあった。着け翼、的なものらしい。
 ミミとイザヤールが気配を殺して様子を見守っていると、少女は大きく伸びをして呟いた。
「あ~あ、この翼着けんの、肩凝るのよね。変な像をモデルになんかしなきゃよかった。でも水のはごろもを手に入れる為には、ガマンしないと。今なら町で高く売れるし。この家シケてて、金目のもん何も置いてないし、財布はアイツがいつも持ち歩いてるし、そうでなきゃこんなめんどくさい芝居しなくていーのに・・・」
 少女がひとしきりぶつぶつぼやいて、黙ったところで、ミミとイザヤールは少女の前に立った。ミミは悲しそうな顔をし、イザヤールは厳しい表情で呟いた。
「なるほど、やはりそういうことか。カモになりそうな男を芝居で騙して、金目のものを巻き上げる、古典的な手口だな」
「な、何よあんたたち!・・・バレちゃ仕方ないわね、あーあ、もう少しで巧くいくとこだったのに」少女は翼を放り投げると、二人を睨み付けた。特にミミに鋭い目を向けた。「小さい頃から頼るもんが無くて飢え続きだったら、あんただってアタシみたいになるのよ。そんな哀れみの目で見ないでちょうだい。さあ、さっさと警備兵のとこにでも連れていきなさいよ」
 ミミがためらっていると、少女は翼を拾い上げ、ぽつりと呟いた。
「アイツには・・・アタシが天に帰っちゃったとでも、言っといて。あのおバカさん、ホントに信じてたみたいだから・・・」
「あなたは・・・」
 それを聞いてミミは瞳を潤ませた。彼女なりの優しさを、感じたから。
「・・・いんや、よかったら、ずっとここに居てくれて構わないよ」若者の声がして、三人ははっと振り向いた。「天女サマでなくて、よかっただ。もう会えないと思って、オラは・・・」
 その言葉に少女は顔をくしゃりと歪めた。そして、幼子が泣くようにえぐえぐとしゃくりあげ始めた。若者は優しく彼女の背中をさすった。ミミとイザヤールは顔を見合わせて微笑み、その場を後にした。

 残ったのは、使わなかった水のはごろもだけでなく、ほのぼのした思い。
「彼女が天女さまでなくてよかったです」
「ああ」
 ここでふと、イザヤールは思い出したように呟いた。
「そうだ、ミミ、クエストのどさくさで言いそびれていたが・・・」
 とても綺麗だ。囁かれてミミは、頬を染めて彼に腕を絡めた。〈了〉
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