セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

女心とインナー

2011年09月06日 05時07分19秒 | 本編前
 ウォルロ村の守護天使イザヤールは、天使界の書庫の片隅で、いささか所在無さげに座っていた。書記係の上級天使ラフェットと、その弟子と、そしてイザヤール本人の弟子であるミミが、リボンやレース類等の小物を広げて、ガールズトークに興じていたからである。
 イザヤールもそういう細々した物の美しさは理解できるものの、女性たちが何故そこまで夢中になるのか、そちらは未だにいまいち理解不能なのだった。
 まあ、ミミは綺麗なものが大好きで、嬉しそうだから、よしとするか。だが、ラフェット、頼んだ資料はいつ出すつもりだ。
「さて、と」ラフェットは立ち上がった。ようやく仕事に戻る気になったか、とイザヤールがいくらかほっとすると、彼女は無情にもこう言った。
「インナー類をここで広げるのはなんだから、私の部屋に移動しましょうね」
 まだ終わらないのかー!イザヤールの眉間にさすがに溝が入った。
「何よ、イザヤール、その顔。資料なら自分で勝手に探して」
「それが図書担当の書記係の言うことか」
「女性にとって、インナー選びはとても大切なのよ。見えないところに気を配るのも、たしなみなんだから。ステテコパンツだけで間に合う殿方にはわからないでしょうけどね」
 別に、ステテコパンツなどではなく、シンプルでオーソドックスなトランクス、いわゆる短パンだ、と、大人げない反発をすることもできたが、次のラフェットのとどめの一言がそれを押さえ込んだ。
「それならミミのインナー選びを、今からあなたに任せたっていいのよ。女性の肌着のことはわからないから、ラフェット、頼む。そう言ってきたのは、どこの誰だったかしら」
「・・・」
 そう言われた彼が渋面になって立ち尽くしたのを後目に、女性陣はラフェットの私室へと移動したのだった。

 そんな訳でイザヤールは自分で、必要な資料を膨大な書物の群れから探し、ようやく目当ての物を見つけて自室に戻った。
 部屋に戻りながら彼は、こんなときだけは女の子の弟子は困るものだな、と、ひとりごちた。
 まあラフェットに任せておけばいいだろう。日頃の自分への言動はともかく、彼女の趣味の良さと心遣いは一応信頼できる。ミミにも良いものを選んでくれるだろう。
 そう考え、弟子の服のことはとりあえず頭から追いやったイザヤールだったが、その後間もなく、激しい動揺を味わう羽目になるとは、夢にも思わなかった。

 それから間もなく、ミミが戻ってきた。
「イザヤール様、私がラフェット様のお手を煩わせたばかりに、イザヤール様にまでご迷惑をかけて、申し訳ありませんでした」
「いや、気にするな。ラフェットの言う通り、体に合った服は大切だからな」そう言って彼は微笑み、そしてこう付け加えた。「特に、成長期の子供にはな」
 そう言った途端に、ミミの顔が僅かに曇った。長い睫毛はすぐ伏せられて、その憂いは隠されたが。
(やっぱり、子供だって思われてる、私・・・)
 だからこそ弟子として傍に居られるのだけれど。そう自分に必死に言い聞かせても、彼女の胸は痛んだ。イザヤールが、彼もまた秘めた想いの為に、無理やりそう思い込もうとしているとは、夢にも知らずに。
 少し涙が堪えられなくなりそうで、彼女は慌てて呟いた。
「あ・・・選んで頂いた下着類、寮に置いてきます」
 涙目を隠そうと、衣類の詰まった袋に顔を押し付け、ミミは部屋を飛び出していった。
 ラフェットが選んでくれたデザインは、可愛いらしく清楚だが、どこか大人っぽい雰囲気も漂うものだった。これなんかどう?ミミにとっても似合うと思うわ。そうラフェットに言われた時は、大人として認められたようで、とても嬉しかったのに。
 イザヤールは、ミミが飛び出して行ったのを、暫し呆然と見つめていた。何故かはわからないが、ミミを悲しませた、それは、わかった。
 そのことが、彼を酷く動揺させ、心を噛んだ。

 それからしばらくして、抑えてはいるが、とても怒っているらしいラフェットが、イザヤールの部屋にやってきた。手には、先ほどミミが抱えていた袋を持っている。
「イザヤール!あなた、いったいミミに何を言ったのよ!?」
「何の話だ?!」
「ミミが、これ一式返してきたのよ!やっぱり私には似合いそうもないからお返しします、って、悲しそうな顔して!」
 怒りながらラフェットが袋の中身を取り出したので、イザヤールは僅かに顔を赤らめて、目を逸らした。しかし彼に対してものすごく怒っているらしいラフェットは、容赦なく若い男の前で可愛らしい布切れを振った。
「絶対似合うって保証したのに、返してきたってことは、あなたがデリカシーのないことを言ったとしか考えられないわ!」
 それは誤解だと、先ほどのミミとの会話をイザヤールが伝えると、ラフェットは溜息をついた。
「ああ、やっぱり。年頃の女の子を子供扱いするなんて、それは傷つくの当たり前よ」
 まったく、と睨み付けるラフェットに、イザヤールは感情を押し隠した、だが隠しきれない低い声で呟いた。
「・・・ミミは、まだ子供だ」
「子供じゃないわ、もう一人前の女性よ」
「子供だ」
「何ムキになっているのよ」
「ムキになどなっていない」
 とにかくこれは私が後で改めて渡しておく、と、彼はラフェットを押し出すようにして部屋から出し、それから机の前に座り込み、額を肘をついた腕にもたせかけた。

 わかっている。そんなことは、わかっている。ミミは、もう子供などではないと。だから、私は・・・苦しんでいるのだ・・・。

 ミミが戻ってきたらしい足音で、我に返った。イザヤールは、袋から出ていたものを無造作に戻し、立ち上がった。
 ミミは、もういつもの落ち着いた表情に戻っていた。
「ラフェットに叱られた」彼もまた淡々とした声と顔で、呟いた。「すまなかったな、子供扱いをして。・・・せっかくラフェットがおまえの為に選んでくれたのだから、着なさい」
「・・・はい」
 ミミはうつむいて答えた。そんな彼女に、彼は決して言えない言葉を飲み込む。

 きっと、似合う筈だ。・・・おまえは、綺麗だから。

 その言葉の代わりに、彼はそっと袋を渡した。まるで、中に入っているものが羽でもあるかのような、優しい手渡し方だった。
 受け取って、ミミはいくらか恥ずかしそうに、だが憂いは消えた顔で師を見上げ、微笑んだ。

 本当に僅かだけ、本当にちょっとだけ、女心とインナーに詳しくなったイザヤールだった。〈了〉

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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執筆お疲れ様です (ちいはゲーマー)
2011-09-06 06:31:20
女心とインナー系に詳しくなったイザヤール師匠を想像してみたんですが、
なんかイザヤール師匠らしくないのと、危険なフラグが浮かびました・・・

やっぱり女心とかに少し疎い方がイザヤール師匠らしいですね♪


でもイザヤール師匠、今ならミミさんに堂々と『お前は綺麗だから似合う筈だ』って言いそうですね
( ^∀^)
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やはり疎い方がv (津久井大海)
2011-09-06 13:12:03
ちいはゲーマー様

お昼の隙間時間にこんにちは~☆とりあえず外出先や移動中に電池切れの心配なくコメント返信できるようになってひと安心の津久井ですw
おお~、早朝のコメント返信ありがとうございました☆

そうですよね、やはりイザヤール様にはちょっと疎くあってほしいですよねv
危険フラグww方面も多少気になりますが(笑)

そして堂々としすぎて、女性陣の顰蹙買わないように気を付けないとですねイザヤール様(爆)
サンディ「イザヤールさん!そのセリフギリアウトセクハラ!」
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