セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

新年会

2012年01月02日 23時30分33秒 | 本編前
まだ新年会には早い気もしますが、まあいいやの天使界時代イザ→←女主話。イザヤール様が同期の上級天使たちと飲み会します。今回も秘めた想いに悩みます話ですが、同期会話が書いてて楽しかったです。

 新しい年は天使界にも訪れる。ただし、悠久の時を持つ天使たちにとっては、季節の区切りの程度の意味でしかない。務めは常時と全く同じにこなされ、淡々と過ぎていく。
 でも多少の息抜きは必要よね、と、天使界の書物を管理する上級天使ラフェットが、同期の天使たちを集めてささやかな新年会を催すことになった。
「まあ、いつもの飲み会と同じだな」
 借りた本を返しに図書室に立ち寄ったウォルロ村の守護天使イザヤールは、その会のことを聞くと、そんな軽い憎まれ口を叩いた。
「ちょっとイザヤール!本はちゃんと元の場所に戻していって!資料を借りてく天使がみんなあなたみたいだったら、うちの子は何百年かかってもこの部屋を片付けられないわ」
「それもそうだな。片付けるのがおまえならともかく、あんないい子に手間をかけるのは気の毒だから、片付けてやるか」
 ラフェットに叱られて、彼は軽口を叩きつつ本を所定の場所に片付け始めた。
 ちょうどそのとき、親友であるラフェットの弟子に会おうと図書室にやってきたミミは、今のラフェットとイザヤールのやり取りを聞いた。
 イザヤールは厳しくも優しい師匠だが、弟子である自分の前では、あんな軽口は叩かない。ラフェットと話している彼は、とても楽しそうで寛いで見えた。
 もちろん、弟子であるミミにも、安らぎの表情や楽しそうな顔を見せてくれることは多々ある。だが、それでも気のせいか、僅かだが彼の緊張感を感じることがある。
 きっと、師匠として、弟子の規範にならねばと気をいつも引き締めていて、それが僅かな緊張感になっているのだろう。それは当然のことかもしれない。それが師匠と弟子のごく自然な距離感なのだろう。
 だがミミは、それが少し寂しかった。頭では当然だとわかっていても。彼の屈託のなさを見られるラフェットが、羨ましかった。
「ちゃんと来なさいよ、同期の親睦会兼新年会」
 ラフェットはそう言って、イザヤールの背中をぽんぽんと叩いた。気軽に彼に触れられる。それもミミにはとても羨ましかった。
「辛抱会の間違いじゃないのか」
 イザヤールは呟いて、楽しげに笑う。
「何よそれ」
「酔っ払いどもの戯言を延々聞くから、辛抱会だ」
「何よ!自分だけはいくら飲んだくれても酔っ払いません、みたいなカオして。なんだったらあなたの可愛い弟子のミミに、初めて深酒したあなたが、いきなりテーブルに頭から突っ伏して、そのままいい寝顔でおやすみなさいしちゃった時の話をしてもいいのよ。確かすごくカワイイ寝言も言ってたわよね~。師匠の威厳危うしよ」
「何故そこで弟子が出てくる!」
 自分の名前が出てきたので、ミミは部屋に入りにくくなり、そっと引き返した。

 中庭をぼんやりと歩きながら、ミミは長い睫毛を伏せて寂しげな溜息をついた。
 イザヤール様とラフェット様。二人は互いに、ケンカ友達だと言っているけれど。でも。一緒に居る二人はとても楽しそうで。同期の、実力のある上級天使同士、とてもお似合いで。それになんて言っても、ラフェット様は、うっとりするほど綺麗で、とっても優しくて。どうしたら、あんな風になれるだろう。
 知らず知らずのうちに彼女は、痛む胸を押さえるように体に腕を回し、濃い紫の瞳を悲しげに潤ませた。
 自分がイザヤール様にできる最良のことは、弟子として立派になること、自慢の弟子になること、それだけ。わかっている。こうして密かに想う、それだって本来許されない感情なのだ。
 しっかりしていないと、ときどき心が折れそうになる。彼の優しさに甘えてしまったら、そのまま止められなく想いをぶつけてしまいそうになる。そんなことをしてしまったら・・・。弟子として傍に居ることさえ、できなくなってしまう。
 イザヤール様の幸せを一番に願う、それだけは忘れたくない。ミミは、睫毛を瞬かせて涙を押し戻してから、彼の部屋に飾る綺麗な花を探し始めた。

 ラフェット主催の新年会は、それこそ同期の気の置けない仲間たちの気楽さで、和気あいあいとした雰囲気となった。だが、さすが集まった者たちが上級天使たちだけあって、酒が回るに従って弟子たちの話題になるのは自然な流れだった。
「うちの弟子は、どうもお調子者でいかん。厳しく指導しているつもりなのだが」
 一人が口を切ると、同期の気楽さと酒の力で、遠慮のない言葉が飛びかう。
「昔のあなたそっくりよー、あの子」
「確かにな。おまえ、ふざけたことを言っては師匠に頭をコツンとされていたよな」
「オムイ様の真面目な訓示の時間、ちょうど太陽光がオムイ様の頭にばっちり当たっちゃって、わたしたちみんな、笑いを一生懸命ガマンしたのに、『まぶしー!』って叫んで、みんな笑っちゃって、お師匠様たちにすごく叱られたことあったよね」
「そ・・・そんな昔話はいいだろ!それより、おまえのとこの弟子はどうだ?」
「とってもいい子よ~。わたしよりしっかりしてるくらい」
「おまえさ、弟子に頼りないって思われてないか?」
「あら~、そうかしら」
「ラフェットのとこは?」
「とっても可愛いのよ~。書記係として将来とっても有望だしね」
「イザヤールはいいよなあ。素直でおとなしくて頑張り屋の、優等生な弟子でさ」
 自分に弟子の話を振られ、一瞬だけイザヤールの顔が曇った。だが、あまりに一瞬だったので、誰もその憂いに気付かなかった。
「ああ、優秀な弟子だと思っている」彼は微笑んで言った。「だが、少し欲を言えば、頑張り過ぎて感情を隠したり、不自由を我慢してしまうところがあってな。その距離感が残念だ。もう少し甘えてくれていいのにと思う」
「それも自慢じゃねーか!くっそ~、飲みやがれー!!」
「言われなくても瓶を空にしてやろう」
「それにしても、ミミって目立たないようにしてるけど綺麗な子よね」飲み比べを始めたイザヤールたちを面白そうに見ながら、薬草園担当の上級天使がこっそり隣の者に囁いた。「あのカタブツイザヤールが師匠でなかったら、噂になってそうなとこよね」
「言えてる。異性の師弟、珍しいものね」
「そこ何をひそひそしている!おまえたちも飲め!」
「きゃ~、もうさっそく酔っ払い居るわ、はいはい」
 こんな調子で、宴は遅くまで続いた。

 少々飲み過ぎて、いつもより心なしかゆらゆらとした歩き方で、イザヤール様は酔いざましを兼ねて中庭を歩いていた。彼は知らなかったが、そこは日中ミミが、悲しい想いを胸に歩いていた場所だった。
「その距離感、か」
 彼は呟いて、自嘲気味の笑みを浮かべた。
 ミミにもっと甘えてほしいのは、嘘ではない。だが・・・距離感を作っているのは、私の方かもしれない・・・。
 弟子への、許されぬ想い。その想いを隠す為に私は・・・。「師匠」としての顔を崩すまいと決意している。その緊張がミミに伝わって、彼女に甘えさせる余地を与えないのかもしれない。
 もっとしっかりしなくては。ミミが自分を信頼してくれているのはわかる。その信頼を裏切らぬよう、師匠として、保護者として安心して頼れる者でいなければ。
 ああ、だが。その決意が、激しくぐらつくことがたまにある。ミミの、何か美しいものに夢中になるときの、あの瞳。陰影と煌めきを増したあの瞳が、何故かたまに私に向けられていることがある。
 彼女は、おそらくただ尊敬や感嘆を持って見ているだけで、他意はないのだろう。だが、見つめられた方は、心がひどく思い乱れる。秘めた想いを、感情を吐き出したくなる。思いきり抱きしめて。愛していると。
 彼は、どさりとやわらかな草の上に寝転んだ。酔っているせいか星が、いつもより近くに見える。だが、星に話しかけることをしたくはなかった。・・・あの中に己の師エルギオスが居ると、思いたくなかった。額に腕を押し当て、目を覆う。
 もう少し、酔いを醒ましてから、部屋に戻ろう。ミミはもう寮に帰っている筈だが、もし、もしも万が一まだ部屋に居て待っていてくれたら、今は・・・何をするか、わからない・・・。
 寒さと草むらの冷たさが、彼の酔いと心を鎮めた。先ほどよりしっかりした足取りで、イザヤールは部屋に戻った。

 部屋に戻ると、やはりミミは、温かい飲み物の仕度をして、待っていた。
「寮の門限はとっくに過ぎているぞ」
 わざとより表情を厳しくして言うイザヤール。
「ごめんなさい」
 彼女は、謝るだけで一切言い訳しなかった。殊に寒い今夜だけでも、規則を破ってでもイザヤールに温かい飲み物を出したかった。そして・・・帰る前に一目、イザヤールの顔が見たかった。
 温かなカップをイザヤールに渡し、彼女は呟いた。
「・・・規則違反する悪い弟子で、ごめんなさい」
 うつむいて立ち去ろうとする彼女の背中に、イザヤールは優しい微笑みを浮かべ、呟いた。
「見習い天使としては少々不良かもしれないが・・・最高の弟子だ」
 ミミの顔が明るくなった。
「寮長には私が話しておくから、おまえも一緒に何か飲んでいくといい。それから、送っていこう」
 彼女の顔が更に明るくなる。そんな様子を密かに眩しそうに眺め、彼はカップに口を付けた。〈了〉

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4 コメント

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上級天使との会話は面白いですよねぇ(^w^) (オディール)
2012-01-02 23:57:44

はぁー…
ごちそうさまでした(*^^*)

やだぁ~この矛盾がよすぎるー(*^^*)
まわりの同期の上級天使との会話も見ていて笑みがこぼれました(*^_^*)
私も宴会ではないのですが上級天使とイザヤール様の会話を考えたことがあります。
やっぱりなぜか弟子の話になるんですよね…(^_^;)
なぜでしょう…?
しかもイザヤール様は弟子のことを自ら語ろうとしないんですよね(-.-;) でも他の人(天使)に弟子のことを褒められるのは、嬉しそうな顔するんですよね…

やっぱり他人に己の気持ちがバレないようにかな…

この絶妙な関係がいいですよねぇ…(照)
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遅れたぜ (鈴山まさこ)
2012-01-03 00:22:47
あけましておめでとうございます!
津久井さん師匠、酔ってても自制が効いてて流石っす。うちのはふふふふ。←想像してやってくださいw

ラフェットさんやラヴィエルさんは酒強そうだなあ。特にラヴィエルさんはルイーダ酒場の酒をこっそり呑んでそう。
エルギオス様も強そうだ。
返信する
ありがとうございます~♪ (津久井大海)
2012-01-03 14:54:23
オディール様

こんにちは☆わ~い、ごちそうさま頂きました~♪
この距離感がかなりの期間続いた当サイトのイザ女主でございますwww

同期の上級天使同士の会話って、考えるの楽しいです♪
普段威厳出そうと気を張る分、リラックスするんだろうなとか、冗談飛び交うんだろうなとか妄想w
そうそう、結局必ず弟子の話になりそうですよね☆そしてイザヤール様、自分から話さないけど弟子褒められると喜びそうですよね☆

今年もこの距離感とイチャこらを混ぜ倒してお送り致します(笑)
返信する
あけおめことよろ☆ (津久井大海)
2012-01-03 15:04:58
鈴山まさこ様

あけましておめでとうございます☆今年もよろしくお願いしま~す♪

イザヤール様、自制力ない方が展開的においしそうですが(笑)まあここはよいこも大丈夫サイトなのでw

確かに上級天使たちは皆かなりの酒豪イメージですね☆
ラフェットさんは人をいじり度が更に強化しそうwラヴィエルさんは一見あまり変わらないでいきなり会場破壊とかw大師匠は泣き上戸だったり?www
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