セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

年越し蕎麦を届けて!

2010年12月31日 18時28分33秒 | クエスト184以降
 大晦日。年末年始くらいは冒険お休みにしようか。そう決めたミミは、イザヤールを誘ってちょっと長めの散歩に出た。
 ウォルロの高台でのんびりと村や滝を見下ろす。高い所から村を見ていると、守護天使だった頃を思い出し、少し切なく、しかし懐かしい思いで幸福感に包まれる。
 あの頃のように、イザヤールが傍らに居てくれる。だからこそ幸せを感じられるのだ。彼が戻ってきてくれた奇跡を、改めて噛みしめる。
 防寒対策もしっかりしていたので、寒さを感じることもなく、二人はかなり長いこと村を見つめていた。いつしかどちらからともなく手を伸ばし、指を絡めていた。
「冷えてしまって・・・」
 イザヤールは呟き、己の温かい手で、ミミの手を包み込むように握った。二人の村を見つめていた視線は、互いの顔へと移動する。
 と、そのとき。
「あのう、すみませーん、おデート中に申し訳ないんですが」
 足元から声がして、二人は思わず身構えた。見ると、一匹のスライムが、申し訳なさそうに見上げている。
「すごく強そうな冒険者の方々みたいなんで、声かけちゃいました~。ちょっとお願いがあるんですけど」
 そう言って、スライムは小さな包みを取り出した。
「これ、今日打った年越し蕎麦なんですが、これを親戚に届けてもらえると助かるんです。
いつもは向こうからここへ来てくれるんですけど、今年は忙しいとかで。…でも、レベルの高い宝の洞窟に住んでるから、ボクの力じゃ届けに行くのちょっと怖いし・・・
 でも、ボクの年越し蕎麦を楽しみにしてくれてる彼に、届けてあげたいんです」
 スライムは弱りきった表情でミミを見上げてる。彼女もまた、困惑顔でイザヤールを見上げた。その瞳はこう語っている。お休みって決めてたけど・・・困っている人(じゃないけど)ほっとけないし・・・。
 そんな彼女に、イザヤールは微笑んで言った。
「引き受けようか、ミミ。もちろん私も行くから」
 ミミの困惑顔が明るくなった。
「イザヤール様・・・ありがとうございます。・・・で、その親戚って、誰なの?」
 すると、スライムは満面の笑みで答えた。
「ゴッドライダーです!」

 そんな訳で、ミミとイザヤールは年越し蕎麦を持って、宝の地図の洞窟に出かけた。他のメンバーは忙しそうなので、二人きりのパーティーだった。サンディも実家帰りしている。
 油断しまいと気合いを入れても、不謹慎ながら「おデート」の続き気分が二人ともやや抜けていなかった。転生回数星印の、レベル99の賢者とバトルマスターのコンビでは、まあそれも無理もない。ステルスもかけてあることだし。
 やがて、ゴッドライダーの住んでる階にたどり着くと、ミミたちはステルスを解いた。そして、彼女は大声で呼んだ。
「ウォルロ高台在住スライムさんの親戚のゴッドライダーさ~ん。年越し蕎麦お届けに参りましたー」
 すると、一匹のゴッドライダーが現れた。
「どーもどーも、それはご苦労さま」と、そのゴッドライダーが蕎麦を受け取ろうとしたとき・・・
「待てぇい!」
 もう一匹、ゴッドライダーが現れた。
「てめえ、なに親戚のふりして、俺の年越し蕎麦パクろうとしてんだよ!」
「・・・なんだと!それは貴様の方だろう!」
「やるか!」
「やらいでか!」
 こうして二匹のゴッドライダーは、蕎麦を巡って喧嘩を始めてしまった。情けない理由とはいえ、何せゴッドライダーの喧嘩である。洞窟内はびりびり揺れ、白刃煌めき、電流走り、凄まじいことになってきた。
 イザヤールは、蕎麦を手にしたまま困っているミミを庇っていたが、あまりに争いが長く続くため、段々眉間の溝が深くなっていった。
 そして、跳ね飛んだ石の破片がミミの腕を掠めてうっすらと傷を作ると、彼のこめかみがひくついてきた。大したダメージではないが、ミミは痛いことが嫌いなのに。
 せっかくの休日、ミミと二人、いい感じのところをクエスト依頼され、蕎麦の味が落ちぬよう急いで来てみれば、蕎麦を巡って争うゴッドライダーに足止めされ。それはまあ仕方ないとして、ミミに怪我をさせるとは。
「いい加減にしないかッ!」
 イザヤールは怒鳴り、盾を放り投げて、右手だけでなく左手にも「はやぶさの剣改」を装備した。そして、猛然と二匹のゴッドライダーの間に突っ込んでいった。
 イザヤールのはやぶさの剣改によるはやぶさ斬り炸裂!通常ならはやぶさの剣ではやぶさ斬りをしても2回攻撃のはずなのに、左右それぞれ4hitというあり得ない鬼なコンボが炸裂した。
 ゴッドライダー二匹は呆気なくのびてしまい、やがて目を覚ますと恥ずかしそうに我に返った。
「すみませんでした・・・仲良く分けて食べます」
 反省したゴッドライダーたちに、ミミはほっとして、蕎麦の包みを渡した。そして、リレミトですぐに外に出た。
「イザヤール様、すごい。あんな技、どこで覚えたんですか?」
「いや、その・・・二匹を同時に止めようと思ってつい」
「あの技、私にも教えてくださいっ。二人でコンボできれば、どんな大魔王も1ターンですよー」
 ミミは尊敬と憧れで目をきらきらさせている。しかしイザヤールは、つい感情に任せて攻撃してしまった、まだまだ未熟・・・と、ウォルロ高台に戻るまで凹んでいた。

 スライムになんとか依頼を果たしたことを伝えると、大喜びだった。
「そうですか、ボクの蕎麦を巡って争いに。・・・多めに作っておいてよかったー」
 これお礼です、と渡してきたのは、ブルーオーブと、そして・・・年越し蕎麦。
「イザヤール様、帰ったらさっそくみんなで頂きましょう」
 にこにこしてミミが言うと、イザヤールの顔にもようやく笑顔が戻った。
 慎ましくも長生きできるようという願いを込めた、遠い異国の地から伝わった習慣。これを頂いて、来年もいい年にしましょう。愛しい者の言葉に、イザヤールはうなずいて、彼女がルーラを唱える前にしっかり抱き寄せた。〈了〉

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