セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

破滅しようとも、忠を

2011年10月02日 22時44分55秒 | 本編前
 ベクセリア城は、元々ある丘を利用して、城下町を見下ろすように建てられている。そんな城の最上階の庭園で、この国の王のガンベクセンが、厳しい中にも憂いを秘めた表情で、流れ行く雲を見つめていた。
「ガンベクセン様」
 そこへ、王に呼び出されたギュメイという武将が現れた。彼はまだ若かったが、優れた剣術の腕と、義を重んじるその性格で、王の篤い信頼を得ていた。
「ギュメイか」ガンベクセンは、ギュメイを振り返ってから、また雲に視線を戻した。「ベクセリアの夕日は、いつ見ても美しいとは思わぬか」
 そう言われてギュメイは王を倣って流れ行く雲を眺め、空を見つめて、同意を込めて頷いた。
 しばらく二人は、黙って流れ行く雲を、夕日に染まるベクセリアの城下町を眺めていた。
 やがて、ガンベクセンはぽつりと呟いた。
「ギュメイ、おまえは、ガナサダイと同じ年頃だったな」
 ギュメイは頷いた。
「・・・おまえも、私の息子のようなものだ。・・・これからも、ベクセリアとガナサダイのこと、よろしく頼むぞ」
 王の言葉に、ギュメイは一瞬はっと表情を強張らせた。そして、なるべく感情を抑えた声で答えた。
「もったいないお言葉・・・しかし、ガンベクセン様。何故今、そのようなことを仰せられるのです」
 するとガンベクセンは、かすかに笑みを浮かべて呟いた。
「これは、正式に発表するまでは、内密に頼むぞ。・・・余は、ガナサダイに、王位を譲ろうと思っている」
 ギュメイはそれを聞いて内心驚いたが、口には出さなかった。
「余が国政にかまけている間に、ガナサダイは・・・息子は・・・いつの間に大人になっていたようだ。明日は成人となる日だ。そろそろ国を任せるのも悪くない、そう思ってな」
「ガンベクセン様・・・」
 王は、臣下たちに温かく接するが、一人息子には厳しすぎるくらいの態度で接していた。だが、それは。息子を愛する故の厳しさなのだと、ギュメイは改めて知らされた思いだった。
(だが・・・ガナサダイ様に、その思いは届いているのだろうか)
 偉大なる父親に反発するかのように、放蕩に耽る王子ガナサダイ。同年輩とはいえ、彼よりいくらか成熟した心を持っていたギュメイには、その反発が心からのものではなく、父親を意識しすぎるが故に素直になれないのだと、薄々覚っていた。
 しかし、その父親への劣等感の裏返しによる反発故に、王の真意を、愛情を王子は感じ取れてはいないのではないか。そんな懸念が、ギュメイの心の片隅に巣食っていた。
 そして、王子は。反抗の一つとでも言おうか、素性もわからない一人の美しい娘に溺れ、彼女の為なら何でもしかねない状態になっていた。欲しがる物は何でも与え、彼女の機嫌を損ねた者を次々と追い出し、そのことでしばしば王の叱責を受けていた。
「ガンベクセン様、ご無礼承知で申し上げさせて頂いてよろしいでしょうか」
 他者のことに口出しをしないギュメイには珍しく、彼は真摯な鋭く光る目で王を見つめて言った。
「構わぬ、申してみよ」
 ガンベクセンは微笑みとも言っていい表情で答えた。ギュメイが言わんとしていることに、気付いているようだった。
「ガナサダイ様が夢中になられているあの娘・・・彼女のことは、如何なさるおつもりでしょうか」
「やはりそのことか」王は低い声で笑った。「確かに得体の知れない娘で、いろいろ厄介事も起こしている。・・・だが、根はそう悪い娘ではなさそうだ。それに、生まれ持った支配者の相もある。賤しい生まれではなかろう」
「では・・・王子妃になるのを、正式にお認めになると・・・?」
「もちろん条件はある。ガナサダイが、どこまで本気なのか、それともただの気の迷いなのか、まずはっきりとさせることだ。・・・本当に愛した女なら、どんな反対にも負けぬ筈だ。だからこそ、先日余は、ガナサダイに、あの娘と別れろと命じた」
 ギュメイもその噂は聞いていた。業を煮やした王が、王子に愛人と別れるよう叱責したと。真意はそのようなことだったのか。
「もし余の言葉にガナサダイが従えば、その程度の娘だったということだ。余に刃向かってでも守ろうとするほど愛しているのなら、親としても考えてやらねばなるまい」
「そこまでお考えでいらっしゃるのなら、申し上げることはこれ以上ありませぬ。ご無礼を致しました」
「いや、ギュメイ、おまえは、おまえだけは、余とガナサダイのことを本当に思ってくれている。・・・そなたのような忠臣を持ち、余は幸せな王であるぞ」
 目に僅かに光るものを浮かべてギュメイは恭しく頭を垂れ、王と王子を守り抜くことを、改めて誓った。

 星が空に輝き始めた。それを見て王は、そろそろ中に入るかと、階段を降りていった。その後を追おうとしたギュメイは、ぎくりとして立ち止まった。いつの間にか、庭園の木陰に、軍師の一人であるゲルニックが、薄い笑いを浮かべて立っていたのだ。
 ゲルニックは、優れた頭脳と豊富な経験を有する文官で、王の評価は高かったが、ギュメイは内心この男をあまり信頼していなかった。好きか嫌いかと問われれば、嫌いと言ってもよかった。
「ゲルニック殿、いつの間にここに・・・!」
「夕日を見に参りましてね」ゲルニックは笑った。嫌な笑い方だと、ギュメイは思う。「血のようで、美しかったですねえ。・・・偶然耳にしたことは、決して他言致しません、ご安心ください」
 それを聞くなりギュメイは彼に背を向け、足早に階段を降りた。何だか、不愉快さと共に、ひどく胸騒ぎがした。

 その晩。ベクセリア国王ガンベクセンは、息子である王子ガナサダイに、殺された。

 表向きには、病死と発表された国王の死。だが、ギュメイは、真相を知る数少ない一人だった。
 冷たくなった王の骸の前で、彼は立ち尽くした。
 これからも、ベクセリアとガナサダイのこと、よろしく頼むぞ。
 昨日聞いたばかりのガンベクセン王の言葉が、悲しく胸を過る。
 伝えていれば。ガンベクセン様は、王位を譲ろうとしていたと、ガナサダイ様に伝えていれば。サンドネラ様のことも、許すつもりがあったと、お伝えしていれば。ガンベクセン様は、死なずに済んだ。ガナサダイ様は・・・無用な大罪を犯さずに、済んだ・・・。
「残念です。お伝えしておけばよかった」
 ギュメイの背後で、白々しい声がした。振り返ると、ゲルニックが、見た目は神妙な顔で、佇んでいた。
「ゲルニック殿・・・貴殿は、まさか・・・王子の計画を知っていて・・・」
 ギュメイの言葉を、ゲルニックは途中で遮った。
「なんということを、お言葉が過ぎますぞ。私は、内密にという陛下のご希望を忠実に守っただけです。それが思わぬ悲劇を生んだだけのこと。・・・それを言うならギュメイ殿、貴方とて同罪ですぞ」
 何も反論できなかった。拳を握りしめ、ギュメイはゲルニックの後ろ姿を見送ることしか、できなかった。

 ガナサダイは正式にベクセリア国王となった。戴冠式の直後、彼はギュメイを一室に呼び出した。
「ギュメイよ、おまえは・・・おまえは、私の味方で居てくれるな。おまえだけは、裏切らないでいてくれるな。兄弟のように、共に育ってきたのだから」
 ガナサダイの顔色は蒼白く、目には狂気が光っていた。
 これからも、ベクセリアとガナサダイのこと、よろしく頼むぞ。
 ガンベクセンの言葉を思い返すギュメイ。
 ガンベクセン様は、私を信頼してくれた。その信頼に応えねばならぬ。ガナサダイ様をお守りすること、それがガンベクセン様の望みに違いない。
 もしも、父親殺しの大罪を犯したガナサダイ様に待つのが破滅への道ならば、そのときを少しでも遅らすようにすることこそが、これからの私の務めなのだ・・・。
 ギュメイは、力強く頷いた。
 だが、ギュメイが退室した後、ガナサダイはうなされるように呟いた。
「父よ・・・死しても尚、私の邪魔をするつもりか・・・封印してくれる、永久に・・・!」

 月日は流れ、ベクセリア王国はガナン帝国と名を変え領土を拡大し、ギュメイはゲルニックやゴレオンと共に、将軍となって帝国の中枢を担っていた。
 新たに建築した城のある地は、ベクセリアより東方にあったが、気候はよく似ていた。それで、玉座の間の前のバルコニーから、たまに夕日を眺めることもできた。
 ギュメイはある日、あの日の、ガンベクセン王と共に眺めたのにそっくりな、流れ行く雲を伴う夕日を見た。
(あの日・・・。ガンベクセン様が、私などではなく、ガナサダイ様と・・・共に夕日を眺めていらしたら・・・今頃は・・・)
 ガンベクセンは生きていて、穏やかな隠居暮らしを送り、ガナサダイは一国の主として多忙な、しかし心蝕まれることのない日を送り、そして自分は・・・無益な殺生の修羅の日々を、避けられただろうか。
 ・・・もはや、今さら考えても、詮なきことだ。
 帝国領土はますます拡大し、ガナサダイの威信は高まっている。今やなんと、天使を捕らえ、その力までも手に入れた。それでも、ギュメイの勘は容赦なく告げていた。・・・待つのは、破滅。
 それでも。この国と、今や皇帝の、ガナサダイ様と、運命を共にするまで、そして・・・「そのとき」を少しでもやってくるのを遅らせ、ガナサダイ様を守り抜くこと。
 それこそが、我が務めだ。〈了〉

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4 コメント

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おおっ、ガナン帝国の過去ですか!! (ちいはゲーマー)
2011-10-02 23:30:38
しかもギュメイ将軍視点!!
実は個人的にドラクエⅨで一番好きな敵なんですよね~ギュメイ将軍
(^∀^人)

最後まで主に忠誠心を誓う様子や、名を奪われし王の事を心配して昇天せずにいた姿を見て「ギュメイ将軍、本当にいい人だな」、「敵としてじゃなく、仲間として会いたかったなぁ」とプレイ中ずっと思いましたね
特に二回戦の時、主以外の者に忠誠心を誓う気はないと言う台詞はカッコよかったです!!(勿論イザヤール師匠が一番カッコいいですが)

そしてこの時思ったのは、「ゲルニック将軍、絶対に主に対する忠誠心なんて欠片も無いな」←超失礼


あっ、[超ばんのうぐすり]ありがとうございます
超ばんのうぐすりが効いたのか、夕方頃からだいぶよくなりました
油断は禁物なので用心してますが、津久井さん本当にありがとうございます
_(_ _)_
返信する
よかった~♪ (津久井大海)
2011-10-03 00:28:55
ちいはゲーマー様

こんばんは☆風邪良くなっていらして本当によかった~♪季節の変わり目、風邪けっこう来ますよね。くれぐれもご養生くださいませ☆

ギュメイ将軍は本当に「敵ながらあっぱれ」なキャラですよねv敵にしておくのは惜しい、まさにそんな感じです☆うん、性格的にかなり男前な印象です。
この話はかなり妄想入ってしまいましたが、少しでもギュメイ将軍っぽさが出ていたら嬉しいです♪
ゲルニック将軍はゲルニック将軍で、ここまでやなヤツですと、それはそれであっぱれな気も致しますが(笑)
返信する
ごめんなさい・・・ (ちいはゲーマー)
2011-10-03 12:36:42
先ほどepisode26-2の記事を間違えて消してしまい、慌てて載せ直しましたが戴いたコメントも消えてしまいました


津久井さん、せっかくコメントをしてくださったのに本当にごめんなさい・・・・・・
返信する
お気になさらずに☆ (津久井大海)
2011-10-03 17:08:24
ちいはゲーマー様

こんばんは☆ご丁寧にお知らせありがとうございます♪
コメントは、読んで頂いた時点で目的を果たしているので、全然問題ないです~☆どうかお気になさらずに(^^)
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