セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

花酔い

2013年03月30日 23時58分06秒 | クエスト163以降
桜もそろそろ終わりということで、ギリギリ更新花見話今年分はファイナル?酔って手つなぎイザ女主話がまた書きたかっただけなのですの短い話。グレイナルが何故ドミールに帰ってこないのかまだストンと来る予想がついてませんが、いずれそんな話も書きたいです。タイトルは相変わらず苦し紛れ。

 火山と共に在るドミールの里は、冬でもその地理ゆえに寒さとさほど縁がない。火山灰と岩だらけの土にもかかわらず、里の生活がそこそこ安定して成り立つのは、グレイナルの加護だけでなくその地熱による温暖の恵みも理由だ。
 だからこそかこの里では、他所の土地ほどには春を焦がれなかったが、それでもやはり芽吹く新芽や小さな花が告げる新しい季節は、他の地と同様の高揚感や心の弾みを、里の者たちにもたらした。
 そんな折ミミは、ドミールの里の者たちに頼まれた。グレイナルを思わせるような真っ白な花を咲かせる、桜の苗木を手に入れてきてくれないかと。遠い異国では、桜の花を愛でながら酒を飲む慣わしがあるという。この地には、グレイナルが好んでやまなかった極上の火酒がせっかくあるのだから、その慣わしに倣ってひとつそんな宴会をしてみるのも粋ではないかと、誰とはなしにそんな提案が出たそうだ。
 里の者の願い通りミミは、グレイナルの鱗に劣らず真っ白で、日の光の下で輝くような花を咲かせる桜の苗木を手に入れた。野山で探すのも、鉢植えにして届けるのも、イザヤールが手伝ってくれた。
「グレイナルを偲んでの宴か・・・。そこまで慕われるとは、護る者冥利に尽きるな」
 呟いてイザヤールは微笑む。
「宝の地図の洞窟から出て里に帰ってあげればいいのにと思うけれど・・・そうはいかない事情があるのかな」ミミはひとりごちてから、イザヤールを振り返って花開くような笑みを浮かべて囁いた。「手伝ってくれてありがとう、イザヤール様。一緒に苗木を探したりできて楽しかったの」
「みずくさいぞ、ミミ。こちらこそ、とても楽しい」
 桜は繊細な木であるから、地質や気候に耐えられるものか心許なかったが、それでも根付いて里の人たちの楽しみになればいいと、ミミは願った。
 小さな木だけどせっかく花もあることだし、さっそく花見とやらをやってみるかと、ミミとイザヤールへのお礼も兼ねて、急遽簡単な宴を催されることになった。
 ドミールの火酒はとても強い。かなり辛抱強く断っても何杯も勧められて、結局二人とも相当量を飲むことになった。見た目ほど酒に弱くないミミだが、それでも火酒の威力は強烈で、濃い紫の瞳をとろりと潤ませて赤く染まる頬をイザヤールの腕にすりよせる。
 顔色にもあまり酔いが出ないイザヤールは、ミミよりたくさん飲まされ、見た目ではわからないがかなり酒が回っていることがミミにはわかった。何故なら。
 低い声で、楽しげに笑い続けている。
 そして、彼の腕に頬を寄せているミミの肩に腕を回し、強く引き寄せた。ミミの頬は酔いだけでなくますます赤く染まり、伏せた瞳に映った鉢植えの白い花が、月明かりで眩しくらいに光って見えた。
 それから間もなく、ミミとイザヤールは何とかまともに辞去の挨拶を済ませて、ドミールの里を後にした。
「少し、歩いて酔いを醒まそうか」
 イザヤールの言葉にミミはこくりと頷き、澄んだ鈴のような声を立てて笑った。
「はい、イザヤール様。・・・手をつないで、くださいね」
「・・・ああ」
 それから二人は、子供のように手をつないでそぞろ歩いた。
「・・・前にも、こんなことありましたね」
「・・・ああ」
 少し前のような気がするのに、遠い昔のことなのだ。二人にとっても。
 歩く二人の遥か上空を、巨大な竜の影が通った気がするのは、現か、幻か。いずれにしても互いの瞳ばかりを覗く二人は、その影に気付かなかった。〈了〉

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 桜の下には・・・ | トップ | 薬草代わり »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿