天使界にいつもの朝がやってくる。見習い天使ミミは、寮を早めに出て、師のイザヤールの部屋に向かっていた。本当はもっと遅い時間で構わないのだけれど。少しでも早く、顔が見たいから。密かに想う人に一分でも早く会いたいから。ほんの少し苦手な早起きも、苦にならない。
そんな想いに誰も気付いていなくて、もちろん当の相手のイザヤールも全く気付いていなくて、修行熱心ないい弟子だと、みんなで彼女を褒めてくれていた。
禁じられた想いを知られていないことに安堵する反面、ミミは自分でも知らず知らず心を傷めていた。それぐらいあり得ないと、皆にも、イザヤール当人にも思われているということだからだ。
それでも、イザヤール様の側に居られる方がいいとミミは、痛む心に蓋をする。恋の対象にはまだまだでも、弟子として悪くない存在にはなりたいと、自分に言い聞かせて。
上級天使の居住棟の回廊に着くと、ミミは無意識に背筋を伸ばした。朝の誰も居ない回廊は、独特の静けさを持っていて、心が引き締まる。だが、今朝は思いがけず、誰かが居た。
「ミミね、待っていたわ。ちょっといいかしら?」
柱の陰から、一人の天使が顔を覗かせた。ミミたち見習いよりは上位の、天使界の設備管理をしている天使の一人だ。彼女は、天使たちの中でも一際美しいと評判だった。
ミミが立ち止まると、彼女は封書を一通、差し出した。
「この手紙を、あなたの師匠イザヤール様に渡してほしいの。大事な手紙なの、お願い」
そう言われてミミは、一瞬濃い紫の瞳を見開き、相手を見つめた。大事な手紙ってなんだろう。何だか心が僅かにざわついたが、ミミは手を伸ばして手紙を受け取った。上位の天使には逆らえないし、元々逆らうつもりはない。
「ありがとう、お願いね」
みとれるくらい美しい笑みを浮かべてその女性天使は、静かに歩き去った。
ミミは、しばらく手紙を持ったまま立ち止まっていた。ただの手紙なのに、妙に重く感じた。そう感じる理由はわかっていた。
ラブレターだったらどうしよう。
だが、どうしようもないのだった。ラブレターであろうがなかろうが、渡すしかないのだ。
あんなに綺麗な人がイザヤール様を好きなら。イザヤール様も好きになってしまうかもしれない。この手紙がもし本当にラブレターだったら。そう考えると泣きたくなるくらい苦しくなった。
そんな内容ではなく、新種の薬草についてや特別会議のお知らせであることを願いながら、ミミは手紙を胸に押し当てるようにして、一気に回廊を走った。
走る間に無理やり気持ちを切り替えた。もしこれがラブレターで、イザヤール様があの人を好きになっても、それは当然なんだから、今までと何も変わらないんだから、そう必死に自分に言い聞かせ、師の部屋の扉をノックした。
師イザヤールは、いつものように身仕度をきちんと終えて、早くも稽古用の武器を用意して待っていた。彼は、たとえ前の日にどんなに疲れても、翌日にその痕跡を残さない。いつもきちんとして、爽やかだ。そんなところもすごいとミミは思う。
「おはよう、ミミ。・・・どうした?」
いつも物静かだが決して無気力ではない弟子が、心なしか元気がないように見えて、彼は少し戸惑った。
どうした、と問われてミミは、慌てていつものような調子になろうと、懸命に笑顔を作った。
「おはようございます、イザヤール様。・・・あの、お手紙、預かってきました」
ミミは回廊で会った天使の名と手紙を預かったことを告げ、彼に手紙を渡した。手が震えそうになるのを、堪えながら。
「手紙?」
イザヤールは僅かに眉を上げて、手紙を受け取り、中を読み始めた。
覗き見たい。そんな思いも、ミミは必死に堪えた。持ってくる時には全く思い付かなかったこと、中身を見たいということ。思い付かなくてよかったけれど、でも。何が書いてあるんだろう。
何の屈託もなければ、何のお手紙ですかと、さらりと聞けるのに。それが、できない。
イザヤールは手紙を読み終えると、僅かに眉をひそめ、かすかに溜息をついた。それから立ち上がり、ミミに告げた。
「さあ、稽古を始めるぞ」
それを聞いたミミは、最大限の勇気を振り絞って、尋ねた。
「あの・・・お手紙のお返事は・・・いいんですか?」
「ああ、後でいい」
彼の素っ気ないくらいの返答が、ミミの不安を却って煽った。
そんな訳で、今日のミミの稽古の出来は、いまいちだった。どうしても集中力に欠けてしまったからだ。イザヤールは叱るよりも心配して、それが余計に辛かった。
「今日は朝から元気がないと思っていたが・・・やはり調子が悪いようだな、どうした?」
「何でもないです、すみません」
うつむいて、謝罪を繰り返すばかりの弟子に、イザヤールは、感情を押さえた声で呟いた。
「・・・そうか。疲れているのだな、今日はここまでにしよう」
寮に帰るように言われるのかと、ミミは目を潤ませた。だが、予想に反してイザヤールは、今度は声に優しさを込めて言った。
「少し休んでいきなさい。私は、手紙の返事を書くとしよう」
イザヤールはミミに温かなミルクティーと菓子を出し、自分は書き物机で手紙の返事を書き始めた。ミミはやっと少し紅茶をすすったが、菓子には手をつけられなかった。
どんなお返事を書いているんだろう。気になって仕方ない。胸がいっぱいになって、ミミのティーカップを持つ手が震えた。
書き終えたイザヤールは顔を上げて、ミミが菓子を食べていないのを見た。彼は静かに立ち上がると、彼女の側にしゃがみこんで、尋ねた。
「教えてはくれないか。今日は、いったいどうした?」
ミミは、少し強く息を吸い込んでから、おそるおそる言葉を選んで答えた。
「ごめんなさい・・・好奇心、です・・・」
「好奇心?」
「お渡ししたお手紙の内容が、何故か気になってしまって・・・気が散ってました、ごめんなさい・・・」
「そうか。・・・おまえは何も心配しなくて大丈夫なことだ」
ミミは小さく頷き、うつむいた。そう、私には関係のないこと。たとえラブレターでも何でも、弟子でしかない私には、関係のないこと。
イザヤールが自ら手紙の返事を渡しに出かけ一人になるやいなや、ミミは堪えていた涙をぽろぽろ落とし、腕の中に顔を埋めた。
その後結局、泣き顔は顔を洗うことで何とかごまかし、寮に戻ったものの、ミミは気付くと溜息ばかりついていた。そんな彼女に、親友であるラフェットの弟子が言った。
「ミミ、今日何か元気ないね。ラフェット様がね、ステキな本を手に入れたんだって。おいでよ、見せてもらおう!」
半ば引きずられるようにラフェットの居室兼書庫に来ると、二人が部屋に入る前に、中から話し声が聞こえてきた。一人はラフェット、そしてもう一人は・・・
(イザヤール様・・・!)
ミミは慌てて引き返そうとしたが、聞こえてきた話し声で、動けなくなった。親友も、師の話の邪魔をしてはいけないとおろおろして、立ち去るタイミングを逃した。
「イザヤール、聞いたわよ。あんな美人を振ったんですって?」
ラフェットの声が聞こえる。
「・・・誰がそんなことを」
これは、眉間に溝を寄せているらしいイザヤール。
「振られた本人よ。あなたにアプローチしたがってる物好き女子たちみんなに、喋り回ってるわよ~」
「そうか。好都合だ」
「モテ期ムダにしたんじゃない?後悔しても知らないわよ。『今は守護天使の務めと弟子の指導で手一杯で、他のことに目を向けられない』って言ったそうね。カッコつけちゃって」
「何とでも言え」
ミミは思わず廊下にへたりこんだ。・・・やっぱり、ラブレターだった。でも。イザヤール様は、断った。あんな綺麗な人を。でも。
(私が、弟子として不甲斐ないから、イザヤール様の幸せを邪魔してるの・・・?)
そう考えたら、悲しくなった。
「ミミ、ミミ?どーしたの?!」
親友の慌てた大きな声で、室内に居た上級天使二人は、弟子たちが部屋の外に居ることに気付いた。扉は開けられ、ミミたちは間もなく見つかってしまった。そして。
「あなたたちが立ち聞きする子じゃないってわかってるけど、くれぐれも聞いたことは他言無用よ」
ラフェットの言葉にこくこくと頷く見習い天使二人。
「ま、こんなカタブツがモテ期なんて誰も信じないだろうけどね」
ラフェットの言葉にイザヤールは少し眉をしかめ、ややぶっきらぼうにミミに言った。
「ミミ、ラフェットから本を借りたから、ちょっと運ぶのを手伝ってくれ。じゃ、また」
最後の方はラフェットに言って、彼は歩きだし、ミミは慌てて後を追った。
イザヤールの部屋までの道中、ミミはぽつりと呟いた。
「イザヤール様・・・不甲斐ない弟子でごめんなさい・・・」
「そんなことはない。それに、何故謝る」
「私・・・イザヤール様が安心してモテ期になれるように、早く一人前になりますっ・・・」
イザヤール様に好きな人ができたらとっても苦しいけれど、イザヤール様の幸せを第一に願えるようになりたい。ミミはそう思って大真面目に言ったのに、イザヤールは笑い出した。
散々笑ってから、彼はミミが泣きそうなことに気付いて、慌てて笑うのを止めた。
「ああ、すまなかった、おまえは私のことを心配してくれているのだな・・・おまえの為に犠牲になっているわけでも何でもない、気にするな」
「・・・はい」
弟子の長い睫毛に涙の玉が震えているのを見て、イザヤールは拭ってやろうと手を伸ばしかけ、やめた。そして内心呟いた。
(カッコつけちゃって、か、確かに、な・・・ラフェットの言う通りだ)
守護天使の務めと、弟子の指導で手一杯だというのは偽りではない。だが、だから恋をする余裕もないということでは・・・ない。いっそそうであってほしかった。
・・・よりによって、恋の対象が、弟子とは。何故、よりによってミミなのだろう。いや、この想いを恋と認めるわけにはいかない。そんな想いを抱いてしまっていることで、現に涙を拭ってもやれない・・・。頬に触れた途端に、感情の抑制が利かなくなりそうで。
あの手紙をくれたのがもしもミミだったら。私はどうしただろう。・・・考えても詮なきことを。
ミミは、涙は残っていたが、悲しみは少し薄れてきた。イザヤール様は、これからしばらくは、ウォルロ村のことと、私のことで頭をいっぱいになっていてくれていて、しかもそれを嫌がらないでくれるのね・・・もちろん弟子としてだけれど。それでも、とても嬉しかった。
隣に居る者のことで心をいっぱいにしながら、それでいて互いにそれを知らず、二人はゆっくりと回廊を歩いた。〈了〉
そんな想いに誰も気付いていなくて、もちろん当の相手のイザヤールも全く気付いていなくて、修行熱心ないい弟子だと、みんなで彼女を褒めてくれていた。
禁じられた想いを知られていないことに安堵する反面、ミミは自分でも知らず知らず心を傷めていた。それぐらいあり得ないと、皆にも、イザヤール当人にも思われているということだからだ。
それでも、イザヤール様の側に居られる方がいいとミミは、痛む心に蓋をする。恋の対象にはまだまだでも、弟子として悪くない存在にはなりたいと、自分に言い聞かせて。
上級天使の居住棟の回廊に着くと、ミミは無意識に背筋を伸ばした。朝の誰も居ない回廊は、独特の静けさを持っていて、心が引き締まる。だが、今朝は思いがけず、誰かが居た。
「ミミね、待っていたわ。ちょっといいかしら?」
柱の陰から、一人の天使が顔を覗かせた。ミミたち見習いよりは上位の、天使界の設備管理をしている天使の一人だ。彼女は、天使たちの中でも一際美しいと評判だった。
ミミが立ち止まると、彼女は封書を一通、差し出した。
「この手紙を、あなたの師匠イザヤール様に渡してほしいの。大事な手紙なの、お願い」
そう言われてミミは、一瞬濃い紫の瞳を見開き、相手を見つめた。大事な手紙ってなんだろう。何だか心が僅かにざわついたが、ミミは手を伸ばして手紙を受け取った。上位の天使には逆らえないし、元々逆らうつもりはない。
「ありがとう、お願いね」
みとれるくらい美しい笑みを浮かべてその女性天使は、静かに歩き去った。
ミミは、しばらく手紙を持ったまま立ち止まっていた。ただの手紙なのに、妙に重く感じた。そう感じる理由はわかっていた。
ラブレターだったらどうしよう。
だが、どうしようもないのだった。ラブレターであろうがなかろうが、渡すしかないのだ。
あんなに綺麗な人がイザヤール様を好きなら。イザヤール様も好きになってしまうかもしれない。この手紙がもし本当にラブレターだったら。そう考えると泣きたくなるくらい苦しくなった。
そんな内容ではなく、新種の薬草についてや特別会議のお知らせであることを願いながら、ミミは手紙を胸に押し当てるようにして、一気に回廊を走った。
走る間に無理やり気持ちを切り替えた。もしこれがラブレターで、イザヤール様があの人を好きになっても、それは当然なんだから、今までと何も変わらないんだから、そう必死に自分に言い聞かせ、師の部屋の扉をノックした。
師イザヤールは、いつものように身仕度をきちんと終えて、早くも稽古用の武器を用意して待っていた。彼は、たとえ前の日にどんなに疲れても、翌日にその痕跡を残さない。いつもきちんとして、爽やかだ。そんなところもすごいとミミは思う。
「おはよう、ミミ。・・・どうした?」
いつも物静かだが決して無気力ではない弟子が、心なしか元気がないように見えて、彼は少し戸惑った。
どうした、と問われてミミは、慌てていつものような調子になろうと、懸命に笑顔を作った。
「おはようございます、イザヤール様。・・・あの、お手紙、預かってきました」
ミミは回廊で会った天使の名と手紙を預かったことを告げ、彼に手紙を渡した。手が震えそうになるのを、堪えながら。
「手紙?」
イザヤールは僅かに眉を上げて、手紙を受け取り、中を読み始めた。
覗き見たい。そんな思いも、ミミは必死に堪えた。持ってくる時には全く思い付かなかったこと、中身を見たいということ。思い付かなくてよかったけれど、でも。何が書いてあるんだろう。
何の屈託もなければ、何のお手紙ですかと、さらりと聞けるのに。それが、できない。
イザヤールは手紙を読み終えると、僅かに眉をひそめ、かすかに溜息をついた。それから立ち上がり、ミミに告げた。
「さあ、稽古を始めるぞ」
それを聞いたミミは、最大限の勇気を振り絞って、尋ねた。
「あの・・・お手紙のお返事は・・・いいんですか?」
「ああ、後でいい」
彼の素っ気ないくらいの返答が、ミミの不安を却って煽った。
そんな訳で、今日のミミの稽古の出来は、いまいちだった。どうしても集中力に欠けてしまったからだ。イザヤールは叱るよりも心配して、それが余計に辛かった。
「今日は朝から元気がないと思っていたが・・・やはり調子が悪いようだな、どうした?」
「何でもないです、すみません」
うつむいて、謝罪を繰り返すばかりの弟子に、イザヤールは、感情を押さえた声で呟いた。
「・・・そうか。疲れているのだな、今日はここまでにしよう」
寮に帰るように言われるのかと、ミミは目を潤ませた。だが、予想に反してイザヤールは、今度は声に優しさを込めて言った。
「少し休んでいきなさい。私は、手紙の返事を書くとしよう」
イザヤールはミミに温かなミルクティーと菓子を出し、自分は書き物机で手紙の返事を書き始めた。ミミはやっと少し紅茶をすすったが、菓子には手をつけられなかった。
どんなお返事を書いているんだろう。気になって仕方ない。胸がいっぱいになって、ミミのティーカップを持つ手が震えた。
書き終えたイザヤールは顔を上げて、ミミが菓子を食べていないのを見た。彼は静かに立ち上がると、彼女の側にしゃがみこんで、尋ねた。
「教えてはくれないか。今日は、いったいどうした?」
ミミは、少し強く息を吸い込んでから、おそるおそる言葉を選んで答えた。
「ごめんなさい・・・好奇心、です・・・」
「好奇心?」
「お渡ししたお手紙の内容が、何故か気になってしまって・・・気が散ってました、ごめんなさい・・・」
「そうか。・・・おまえは何も心配しなくて大丈夫なことだ」
ミミは小さく頷き、うつむいた。そう、私には関係のないこと。たとえラブレターでも何でも、弟子でしかない私には、関係のないこと。
イザヤールが自ら手紙の返事を渡しに出かけ一人になるやいなや、ミミは堪えていた涙をぽろぽろ落とし、腕の中に顔を埋めた。
その後結局、泣き顔は顔を洗うことで何とかごまかし、寮に戻ったものの、ミミは気付くと溜息ばかりついていた。そんな彼女に、親友であるラフェットの弟子が言った。
「ミミ、今日何か元気ないね。ラフェット様がね、ステキな本を手に入れたんだって。おいでよ、見せてもらおう!」
半ば引きずられるようにラフェットの居室兼書庫に来ると、二人が部屋に入る前に、中から話し声が聞こえてきた。一人はラフェット、そしてもう一人は・・・
(イザヤール様・・・!)
ミミは慌てて引き返そうとしたが、聞こえてきた話し声で、動けなくなった。親友も、師の話の邪魔をしてはいけないとおろおろして、立ち去るタイミングを逃した。
「イザヤール、聞いたわよ。あんな美人を振ったんですって?」
ラフェットの声が聞こえる。
「・・・誰がそんなことを」
これは、眉間に溝を寄せているらしいイザヤール。
「振られた本人よ。あなたにアプローチしたがってる物好き女子たちみんなに、喋り回ってるわよ~」
「そうか。好都合だ」
「モテ期ムダにしたんじゃない?後悔しても知らないわよ。『今は守護天使の務めと弟子の指導で手一杯で、他のことに目を向けられない』って言ったそうね。カッコつけちゃって」
「何とでも言え」
ミミは思わず廊下にへたりこんだ。・・・やっぱり、ラブレターだった。でも。イザヤール様は、断った。あんな綺麗な人を。でも。
(私が、弟子として不甲斐ないから、イザヤール様の幸せを邪魔してるの・・・?)
そう考えたら、悲しくなった。
「ミミ、ミミ?どーしたの?!」
親友の慌てた大きな声で、室内に居た上級天使二人は、弟子たちが部屋の外に居ることに気付いた。扉は開けられ、ミミたちは間もなく見つかってしまった。そして。
「あなたたちが立ち聞きする子じゃないってわかってるけど、くれぐれも聞いたことは他言無用よ」
ラフェットの言葉にこくこくと頷く見習い天使二人。
「ま、こんなカタブツがモテ期なんて誰も信じないだろうけどね」
ラフェットの言葉にイザヤールは少し眉をしかめ、ややぶっきらぼうにミミに言った。
「ミミ、ラフェットから本を借りたから、ちょっと運ぶのを手伝ってくれ。じゃ、また」
最後の方はラフェットに言って、彼は歩きだし、ミミは慌てて後を追った。
イザヤールの部屋までの道中、ミミはぽつりと呟いた。
「イザヤール様・・・不甲斐ない弟子でごめんなさい・・・」
「そんなことはない。それに、何故謝る」
「私・・・イザヤール様が安心してモテ期になれるように、早く一人前になりますっ・・・」
イザヤール様に好きな人ができたらとっても苦しいけれど、イザヤール様の幸せを第一に願えるようになりたい。ミミはそう思って大真面目に言ったのに、イザヤールは笑い出した。
散々笑ってから、彼はミミが泣きそうなことに気付いて、慌てて笑うのを止めた。
「ああ、すまなかった、おまえは私のことを心配してくれているのだな・・・おまえの為に犠牲になっているわけでも何でもない、気にするな」
「・・・はい」
弟子の長い睫毛に涙の玉が震えているのを見て、イザヤールは拭ってやろうと手を伸ばしかけ、やめた。そして内心呟いた。
(カッコつけちゃって、か、確かに、な・・・ラフェットの言う通りだ)
守護天使の務めと、弟子の指導で手一杯だというのは偽りではない。だが、だから恋をする余裕もないということでは・・・ない。いっそそうであってほしかった。
・・・よりによって、恋の対象が、弟子とは。何故、よりによってミミなのだろう。いや、この想いを恋と認めるわけにはいかない。そんな想いを抱いてしまっていることで、現に涙を拭ってもやれない・・・。頬に触れた途端に、感情の抑制が利かなくなりそうで。
あの手紙をくれたのがもしもミミだったら。私はどうしただろう。・・・考えても詮なきことを。
ミミは、涙は残っていたが、悲しみは少し薄れてきた。イザヤール様は、これからしばらくは、ウォルロ村のことと、私のことで頭をいっぱいになっていてくれていて、しかもそれを嫌がらないでくれるのね・・・もちろん弟子としてだけれど。それでも、とても嬉しかった。
隣に居る者のことで心をいっぱいにしながら、それでいて互いにそれを知らず、二人はゆっくりと回廊を歩いた。〈了〉
私、もし男性と付き合うことがあるならイザヤール師匠みたいな人がいいかも・・・・・・あっ、スキンヘッドがいいっていう意味ではないですよ(でもスキンヘッドもいいかも)
こんばんは☆イザヤール様、案外(失礼なw)モテるキャラであってほしいな~という願望の産物でございます。しかもモテてることに全く気付かない、という。
若くして上級天使になった実力者でもありますから、ほどほどモテな気がしますw
うん、(心身共に)イザヤール様みたいな男前が本当にいらしたらステキですね~☆スキンヘッドはともかく(笑)