しまった、うっかり時間オーバー残念!の恐怖の真夜中テンションコンマ一ミリエロスイザ女主話。相変わらず暑苦しいですが、おそらく「つづき」は結局邪魔が入ってしまって無理だと思います(笑)いやし草入りの化粧水、実在してほしいもんです。この季節、日焼けは火傷。治療即効効果求む。
日が落ちてようやく、太陽の熱は落ち着いた。窓を開け放った部屋は、心地よい風が通り抜けて涼しい。窓は開いているが、白い薄布のカーテンが、外からの視線を遮っている。
ここはリッカの宿屋の階上部屋だから、たとえカーテンを開け放しても人が中を見ることはないが、この部屋の主たちは今、星たちからの視線も少々遮断したいのだ。夕闇の灯りだけを頼りに、男の大きな力強い手が、その見た目からは想像できないくらい繊細で優しい動きで、白く美しい背中の上を滑っているから。
その背中の持ち主であるミミは、膝と白いサマードレスの布を抱えるように座り、陶酔と僅かな羞恥を浮かべた瞳で、ぼんやりと自分の爪先を見つめていた。背中に日焼け治療の化粧水を塗ってもらう為とはいえ、ドレスの後ろを開けて背中を全部さらしていることが、なんだかとても気恥ずかしかった。
背中をほとんど丸出しの衣装を着ることもたまにはあるし、サンディやリッカなどの女の子たちが同じように背中にローションを叩いてくれることだってよくある。特別なことをしているわけではないのに。・・・その塗ってくれる手が、友達のではなく恋人のものになるだけで、どうしてこんなに、気持ちが悩ましく変わってしまうのだろう。
「イザヤール様、ありがとう。・・・お手数かけて、ごめんなさい」
黙っているのに何だか耐えられなくなって、ミミは背後に首を向けて呟いた。
「謝るな。・・・ほら、前を向いて。薬が効く前に布が擦れると、痛いだろう」
手の主のイザヤールは、動きに劣らず優しい声で囁いて、薄赤くなっている肩に更に化粧水を塗り込んだ。これは最近ロクサーヌが販売を始めた特別な化粧水で、ウォルロの水ときよめの水を混ぜ合わせたものをベースに、いやし草をはじめとした様々な薬草のエキスが含まれることで、日焼けによる炎症もたちまち治る優れものだった。
ミミの肌は白くきめ細かい割には案外丈夫だったし、普段なら日光対策もしっかりしているのだが、さすがのミミも今日の太陽光には勝てなかったのだ。ところどころうっすら赤くなっている肌を、イザヤールは痛々しそうに眺めた。それだけでない悩ましい思いを、彼もまた抱いていたが。
「私、どんなに焼いてみても、サンディみたいな綺麗な小麦色にならないみたい」
「それぞれの体質というものがあるからな。日焼けは火傷と同じだから、無理はするな」
何気ない会話を少しぎこちなく交わしてから、また、沈黙。
それから間もなく、化粧水の効果で、ミミの背中や肩の赤みは綺麗に消えた。
「ミミ、赤みは消えたぞ。痛みの方はどうだ?」
「あ、ひりひりしなくなったの。もう大丈夫・・・」
「・・・そうか。よかった」
ミミはサマードレスの布地を肩まで引き上げようと、膝を抱えていた手をゆっくりと襟元に移した。イザヤールもまた、彼女の開いたドレスの背中を閉じてやろうと、指先で布の端を探した。
だが、天使だった頃は翼で隠れていたであろう、滑らかで美しい曲線を描く肩甲骨にその指先が触れ。彼は呻くような溜息をつき、突然、痛いくらいに強くミミを抱きしめた。後ろから固く抱きしめられて、彼女は一瞬息が止まるほど驚いたが、やがてうっとりと瞳を潤ませ、回された手に自分の手を重ねて握りしめた。
「ミミ・・・おまえは、綺麗だ・・・」
夢見るように耳元で囁かれ、どう返答したらいいかもわからないまま、彼女は頬を染める。彼はそのまま首筋に唇を滑らせ、背骨を辿り、それから華奢な肩甲骨に紅いしるしを着けた。その感触にびくりと身を震わせ、ミミは重ねた手にすがりつくように更に握りしめた。
そのとき、ちょっと強めのつむじ風が部屋に吹き込んだ。そして、カーテンを巻き上げて星空を覗かせた。
「・・・窓を閉めろ、ということかな」
気のせいか星たちが瞬いている気がする。イザヤールは苦笑して、もう一度ぎゅっと抱きしめてから、優しくミミのドレスの背中を合わせてやった。ミミは振り返り、そっと彼の腕の中に納まり、抱きしめ返した。優しく彼女の髪をなでながら、そういえば、と彼は呟いた。
「・・・そろそろ夕食の時間か。食堂に行こうか」
「はい。・・・着替えてきます」
名残惜しそうに見上げたミミに唇を落とし、彼は囁いた。
「・・・続きは、後でな」
「あ・・・はい・・・」
真っ赤になり、小走りに立ち去る彼女を、彼は微笑み見送る。見送るあの背中には、愛しさの証のしるしが。
イザヤールは部屋を出る前に窓を閉めた。窓を閉めると、室内は急に暑く感じられる。
「今日も・・・あついな」
呟いて、彼はカーテンも閉めた。〈了〉
日が落ちてようやく、太陽の熱は落ち着いた。窓を開け放った部屋は、心地よい風が通り抜けて涼しい。窓は開いているが、白い薄布のカーテンが、外からの視線を遮っている。
ここはリッカの宿屋の階上部屋だから、たとえカーテンを開け放しても人が中を見ることはないが、この部屋の主たちは今、星たちからの視線も少々遮断したいのだ。夕闇の灯りだけを頼りに、男の大きな力強い手が、その見た目からは想像できないくらい繊細で優しい動きで、白く美しい背中の上を滑っているから。
その背中の持ち主であるミミは、膝と白いサマードレスの布を抱えるように座り、陶酔と僅かな羞恥を浮かべた瞳で、ぼんやりと自分の爪先を見つめていた。背中に日焼け治療の化粧水を塗ってもらう為とはいえ、ドレスの後ろを開けて背中を全部さらしていることが、なんだかとても気恥ずかしかった。
背中をほとんど丸出しの衣装を着ることもたまにはあるし、サンディやリッカなどの女の子たちが同じように背中にローションを叩いてくれることだってよくある。特別なことをしているわけではないのに。・・・その塗ってくれる手が、友達のではなく恋人のものになるだけで、どうしてこんなに、気持ちが悩ましく変わってしまうのだろう。
「イザヤール様、ありがとう。・・・お手数かけて、ごめんなさい」
黙っているのに何だか耐えられなくなって、ミミは背後に首を向けて呟いた。
「謝るな。・・・ほら、前を向いて。薬が効く前に布が擦れると、痛いだろう」
手の主のイザヤールは、動きに劣らず優しい声で囁いて、薄赤くなっている肩に更に化粧水を塗り込んだ。これは最近ロクサーヌが販売を始めた特別な化粧水で、ウォルロの水ときよめの水を混ぜ合わせたものをベースに、いやし草をはじめとした様々な薬草のエキスが含まれることで、日焼けによる炎症もたちまち治る優れものだった。
ミミの肌は白くきめ細かい割には案外丈夫だったし、普段なら日光対策もしっかりしているのだが、さすがのミミも今日の太陽光には勝てなかったのだ。ところどころうっすら赤くなっている肌を、イザヤールは痛々しそうに眺めた。それだけでない悩ましい思いを、彼もまた抱いていたが。
「私、どんなに焼いてみても、サンディみたいな綺麗な小麦色にならないみたい」
「それぞれの体質というものがあるからな。日焼けは火傷と同じだから、無理はするな」
何気ない会話を少しぎこちなく交わしてから、また、沈黙。
それから間もなく、化粧水の効果で、ミミの背中や肩の赤みは綺麗に消えた。
「ミミ、赤みは消えたぞ。痛みの方はどうだ?」
「あ、ひりひりしなくなったの。もう大丈夫・・・」
「・・・そうか。よかった」
ミミはサマードレスの布地を肩まで引き上げようと、膝を抱えていた手をゆっくりと襟元に移した。イザヤールもまた、彼女の開いたドレスの背中を閉じてやろうと、指先で布の端を探した。
だが、天使だった頃は翼で隠れていたであろう、滑らかで美しい曲線を描く肩甲骨にその指先が触れ。彼は呻くような溜息をつき、突然、痛いくらいに強くミミを抱きしめた。後ろから固く抱きしめられて、彼女は一瞬息が止まるほど驚いたが、やがてうっとりと瞳を潤ませ、回された手に自分の手を重ねて握りしめた。
「ミミ・・・おまえは、綺麗だ・・・」
夢見るように耳元で囁かれ、どう返答したらいいかもわからないまま、彼女は頬を染める。彼はそのまま首筋に唇を滑らせ、背骨を辿り、それから華奢な肩甲骨に紅いしるしを着けた。その感触にびくりと身を震わせ、ミミは重ねた手にすがりつくように更に握りしめた。
そのとき、ちょっと強めのつむじ風が部屋に吹き込んだ。そして、カーテンを巻き上げて星空を覗かせた。
「・・・窓を閉めろ、ということかな」
気のせいか星たちが瞬いている気がする。イザヤールは苦笑して、もう一度ぎゅっと抱きしめてから、優しくミミのドレスの背中を合わせてやった。ミミは振り返り、そっと彼の腕の中に納まり、抱きしめ返した。優しく彼女の髪をなでながら、そういえば、と彼は呟いた。
「・・・そろそろ夕食の時間か。食堂に行こうか」
「はい。・・・着替えてきます」
名残惜しそうに見上げたミミに唇を落とし、彼は囁いた。
「・・・続きは、後でな」
「あ・・・はい・・・」
真っ赤になり、小走りに立ち去る彼女を、彼は微笑み見送る。見送るあの背中には、愛しさの証のしるしが。
イザヤールは部屋を出る前に窓を閉めた。窓を閉めると、室内は急に暑く感じられる。
「今日も・・・あついな」
呟いて、彼はカーテンも閉めた。〈了〉
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