セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

虚真実夢

2011年10月09日 20時27分31秒 | クエスト163以降
 ミミは、信じられないように、己の手に持っているものを見つめた。趣味のいい優美なトレーと、その上に並んでいるやはり同じようなテイストのティーセット。鼻腔には、上質の茶の香りが。はっきりと。
 そして、耳には、懐かしい声が。・・・懐かしい?
「二人ともありがとう。さ、ここのテーブルに置いて」
 テーブルの周囲は、そして部屋中も、ぎっしりと本棚。声の主、そして部屋の主でもある彼女は、眼鏡をかけた美しい上級天使。
 ・・・ラフェット・・・さ・・・ま?
「ミミ~、どうしたのー?」
 すぐ側でした声に、驚いて顔を向けると、菓子類の載ったトレーを持った親友が、愛らしく首を傾げていた。小さな翼を、飛ぶわけでもないのにぱたぱたさせて。首を傾げたときの、彼女の癖だ。
「やだ~ミミ、ひょっとして、一瞬立ったまま寝てたんじゃない?ぼんやりしちゃってー」
 そう言って親友は、声を立てて朗らかに笑った。ラフェットも、うふふ、と楽しそうに微笑む。
「イザヤールの特訓が厳しすぎて、疲れてない?さあ、お菓子をたくさん食べて、ちょっと息抜きしなさい。アイツには、『ご所望の本がなかなか見つかりませんでした』と言っておけばいいわ」
 ラフェットは笑顔のまま言って、ミミを椅子に座らせた。それから、ちょうどよく葉の開いた茶を注ぎ、ミミと弟子に渡した。
 まだ呆然としたまま、ミミは半ば無意識にいただきます、と呟いて、茶をゆっくりと口に含み、いい香りと熱さをはっきりと感じた。一口サイズのマドレーヌにも手を伸ばして、芳醇なバターの香りと、優しい甘さもはっきりと味わった。
 しかし、彼女はまだ混乱していた。先ほどまで手に持っていたのは、こんな薄く華奢なティーカップなどではなかったような気がしたのだ。辺りの風景も、こんな明るく、温かく、心休まるものではなかったかのような・・・。
 馴染み深い、安らぐいつものちょっとしたティータイム。その筈なのに、この漠然とした不安はなんだろう。イザヤールの顔を一刻も早く見たくなった。不安を鎮める為に?何かを尋ねる為に?
「ごちそうさまでした!」
 ミミは慌てて立ち上がり、頼まれたという本を胸に抱えて、師の部屋に駆け足で向かった。背後から、はっきりとラフェットたちの声が聞こえた。
「ミミー、どうしたのー?」
「もっとゆっくりしていっていいのよー」
 ミミは走りながら、自分でもわからないまま鼓動が速くなっていた。・・・背中で風を感じるのは、紛れもなく、己の翼。

 イザヤールは、はっと目を開いた。見ると、天使界の自室の、長椅子に腰かけている。僅かの間だが、微睡んでしまったらしい。
 いつもの部屋、辺りには見慣れたものばかり。ミミの飾ってくれた花が、ほんのりと優しい香りを放っている。
 ミミ・・・?
 彼女のことを考えた瞬間、その当の本人が、息を切らして戸口に立っていた。翼と光輪のある姿で。
 翼と光輪?何故そんなことを。当然ではないか?
 彼女はほんの少しためらってから、おずおずと手に持った本を差し出してきた。
「あの・・・イザヤール様・・・。本を、お持ちしました・・・」
 おそらく、本当に言いたいことは、それではなかったのだろう。だが、他に言うことを思いつかない、そんな顔をしていた。
「ああ、ありがとう」
 イザヤールは本を受け取り、ミミの顔を見つめた。ああ、この本を頼んでいた。古い本だから、探すのに手間取ったのだろう。その間に、微睡んでしまったようだ。これでは、あまり弟子を叱れない。
 弟子・・・?
 僅かな、違和感が心をかすめた。それを確かめるかとでもいうように、イザヤールは扉を閉めると、ミミを引き寄せた。小さな翼に手を滑らせ、羽をなで、愛しい瞳を見下ろす。そのまま、ゆっくりと唇を重ねた。

 イザヤール様の唇、大好き。翼をなでてくれる優しい手も、温かい身体も・・・何もかも。
 ずっとこうしてきた。優しいキスに酔いながら、ミミは内心呟く。思わず腕を彼の背中に回すと、力強い翼と、逞しく引き締まった、それでいてしなやかな筋肉の感触に、更に心がとろけた。本は静かに床に滑り落ちる。
 思わず彼の翼を握りしめると、一瞬びくり、と彼の身体が動いた。そして、お返しとばかりに、ミミの翼の表面を滑っていた指が、中のやわらかな羽を探るように潜り込んできた。
 彼女もまた、身体を震わせたが、一瞬、ほんの一瞬違和感を覚えた。それは、イザヤールも同様だったようだ。彼は手を止め、互いの唇と舌を解放し、熱いが何か問いたげな瞳で、ミミの瞳を見つめた。そして、呟いた。
「ミミ・・・。先ほどから私は・・・どうもおかしな気分だ。・・・ほんの一瞬居眠りをしただけの筈なのに、長い夢を見ていた気がする・・・」
 イザヤールの言葉に、ミミは頷いた。言葉にうまくできない違和感を、彼がはっきりと言葉にしてくれた、そんな気持だった。
「私も・・・何だかとっても大切なこと、忘れているような・・・」
 大切なこととはなんだろう。ミミとイザヤールは、師弟であり恋人同士で、もう長いことこうして愛し合っている。それ以上に大切なことなど、あるのだろうか。
 だけど。ミミは、瞳の陰影を濃くして、イザヤールを見上げた。愛しい、力強い目が、見つめ返してくる。濃い色の琥珀のように澄みきって、深い色の瞳が。その瞳を見つめていたら、『もっと大切なこと』を思い出せる気がした。
 イザヤールもまた、誰より愛しい濃い紫の瞳を見つめて、逃げて行きそうな記憶の欠片を、追い求めた。彼の瞳の光も、更に力強くなった。・・・ああ、私は。私たちは。
 そのとき、二人の耳に、ほんのかすかだが、憶えのある声が、必死に叫ぶ声が、聞こえてきた。
「ミミ、イザヤールさん、お願い、目を醒まして!」
「魔王の幻惑よ、二人とも、しっかりして!」
「ちょっとー、いーかげん起きろっつーの!どんないい夢見てんのヨー!」
 ああ。ミミもまた、呟いた。リッカ、ルイーダさん、サンディ。・・・こんな、こんなに大切なことを、忘れていたなんて。
 イザヤールと二人、互いに力強く頷いた。・・・これは、これこそが、今この瞬間の方こそが、夢なのだ、と。

 大魔王ムドーは、夢の世界に君臨する大魔王は、驚きと怒りで顔を歪ませた。元天使という人間、そんな素晴らしい獲物に、夢を、彼らにとって極上であろう夢を味わわせ、やがて魂を支配するつもりだった。
 この地上で、この二人だけにとって極上の夢。天使のうちから、互いに既に愛し合っていた夢。彼らの意識を、その夢の中に送り込んだ筈なのに。永久に戻らぬ筈なのに。何故だ、何故夢の結界が破れようとしているのだ。片方が呼び戻すことがないよう、二人一緒に送ってやるという、念の入れようだったというのに。
 ムドーは、夢の世界で、抗える者はまず居ない魔力を以て囁いた。
『これこそが、そなたらが心の奥底で望んでいることなのだ。天使として互いに、永久に愛し合うこと。天使たちも存在し、崇め奉られる存在であること。これ以上、何が不足だ。
人としての日々は、待つのは悲しみと苦しみばかりだというのに。このまま、我が夢の中に居る方こそが・・・』
「幻の夢に溺れる程、堕ちてはいない」
 イザヤールは呟き、ミミも頷いた。
『夢・・・だと?どうしてそう言いきれる?そなたらが人となり、我らと戦う日々こそ、夢でないと、どうして言いきれる?』
 そなたたちは天使で、人に堕ち愛し合う夢を見ていた、そうではないのか?
 ムドーの声に、ミミは違う、と必死に首を振る。全ては、夢だったら。そう願ったこともあった。今抱きしめている人を、イザヤールを喪い、故郷と同胞を喪ったとき、そんな儚い思いにかられた。
 その日々から必死に立ち直り、ミミたちの幸せを願うみんなの思いで、ようやく人間としての幸せの日々を手に入れたのだ。・・・その日々全てを、みんなの思いまでを、『夢』だったなどとは言わせない。・・・決して。
 ミミは、澄んだ、はっきりした声で言い放った。
「与えられた幻の幸福よりも、自らの手で幸福を掴みとる世界を、私は望むわ」
「私も、与えられる『夢』よりも『現実』を選ぶ。現実あってこそ夢は見られるもの。そして、夢も幸福と同様、与えられるものではなく、自ら描くものだ」
 イザヤールもきっぱりと言って、ミミをしっかり抱えながら、どこかに居るであろうムドーに鋭い眼差しを向けた。
 現実が必ず夢より辛いものならば、夢よりも幸せになるよう生きようともがき続ける、それでもいい!

 一瞬意識が飛び、ミミとイザヤールは武器を握りしめて、大魔王ムドーの間に立っていた。二人の背中には、もちろん翼はなかった。
「よかった・・・。ムドーがいつもと違う眩しい光を放ってから、二人とも死んだように動かなくなっちゃってたから・・・どうしようって思った・・・」
 リッカが安堵の顔で言う。
「まったくも~、心配かけすぎっ」
 サンディがミミとイザヤールの頭を小突く。
「さ、大魔王さん退治に戻るわよ。ミミたち眠ってる間、何故か攻撃してこなかったけど、今はかなりご立腹のようね」
 ルイーダも呟き、不敵に笑って改めて武器を構えた。

 その後はいつもの戦闘となり、大魔王ムドーを倒した!
「あら、今日はちいさなメダルだけ?しけてるわね」ぼやくルイーダ。
「とにかく、帰ってゆっくり休もう☆」とリッカ。
 こうして一同はセントシュタインに戻り、それぞれ休息に入った。
 ミミとイザヤールは、眠る気になれず、部屋のいつものクッションの上で互いに静かに抱き合っていた。やがて、ミミはぽつりと呟いた。
「イザヤール様・・・。私たち・・・無意識に、互いに翼のある姿を望んでいたのでしょうか・・・」
 イザヤールはそれを聞いて、かすかに微笑んでミミの髪に唇を付け、囁いた。
「ムドーの幻だ、気にするな」
 たとえ無意識の望みだとしても。
「翼がある姿も無い姿も、両方好きだ、そう考えればいい」
「・・・はい」
 ミミもまた微笑み、イザヤールの頬に唇を滑らせ、翼の無い彼の背中を、愛しさの全てを込めて抱きしめた。
 両方好き、互いの全てが愛しい、それでいい。
 互いにそう思っていれば、人として年老いていって、無数に変化が訪れても、ずっと好きでいられるだろう。それでいい。〈了〉

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2 コメント

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ありゃ (ちいはゲーマー)
2011-10-09 22:00:27
ずいぶん前に思いついた『戦闘中にムドーに夢を見せられる』というネタ、先こされちゃった

でも津久井さんのお話の方が何倍も素敵だし、私の考えたネタは『女主人公がムドーに悪夢を見せられる』という需要が全くないネタだから書くのやめとこ



『与えられた夢よりも自らの手で手に入れた現実を選ぶ』

自分ではなかなか言えないセリフだなと感動しました
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うわわ(汗) (津久井大海)
2011-10-09 23:51:38
ちいはゲーマー様

改めてこんばんは☆うわわ津久井、またやってもうた~!申し訳ありませんorz
いやいやしかし、ムドー戦をネタにすれば、この「戦闘中夢を見させられる」展開はむしろ必至ですから、お気になさらず書いて頂けたらたいへん嬉しいですv

夢の方が幸せで現実が過酷でも、それでも現実を選択する方が「正しい」のか、実は津久井の中ではまだ結論が出ていません。ヘタレですので(汗)
それでも、精神的にとても強いであろうイザヤール様にはこうあってほしいなと、こんな選択をして頂いてしまいました(照)
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