セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

人間一歳オメデトウ

2011年02月12日 18時54分23秒 | クエスト163以降
 ミミは、今朝はいつもより早く目が覚めた。
(今日で、一年になるんだ・・・)
 人間になったイザヤールと、日々を送るようになってから、一年。それは、天使である時に過ごした時間と同じくらい長くも、短くも感じられた。
 彼女は身を起こすと、もう一つのベッドでまだ眠っているイザヤールの寝顔にみとれた。大概この部屋には、他に誰かしら居ることが多いので、心置きなく寝顔にみとれる機会は案外少なかった。そもそも、彼の方が比較的早起きでもあった。
 やわらかな朝日に照らされた寝顔は、変わらず端整だが、かすかに漂う無防備な感じがまた色気をかもし出していて、見つめていると愛しさで切なくなるほどだった。
(昔は・・・あんな表情決して見せてくれなかったもの)
 そして、きっとまだたくさん、自分の知らない彼の表情は有るのだろう。それを見つけていける幸せを手に入れた。共に生きていける幸せを手に入れた。
「今日は、リッカに頼んで、イザヤール様の朝食は私に作らせてもらっちゃおう」
 口の中で呟き、ミミは微笑んだ。弟子だった頃、ときどきそうしたように。

 イザヤールが目を覚ますと、既にミミのベッドはきちんと片付けられ、部屋にも彼女の姿はなかった。
「リッカの手伝いにでも行ったかな」
 習慣通り洗顔その他身仕度を済ませ、軽く体をほぐしたところで、ノックの音が聞こえた。扉を開けると、そこには、朝食の載ったシルバートレイを持った、エプロン姿のミミが居た。
「おはようございます、イザヤール様」
「あ、ああ、おはよう。・・・ミミ、今日はどうした?」
「リッカに、今日はイザヤール様の朝ご飯を作らせてって頼んだら、ああ、そういえば今日はイザヤールさんが来てちょうど一年ねって気付いてくれて。それで、じゃあ今日は特別にお部屋で朝食どうぞって言ってくれたんです」
「・・・そうか」
 イザヤールは微笑んだ。そうか、今日は。人間として、新たな道を歩きだした日。
「こんなに甘やかしてもらえるなら、毎日記念日でもいいな」
 そう言って、彼は笑った。

 楽しく朝食を済ませ、階下に降りると、ルイーダが声をかけてきた。
「今夜、イザヤールさんパーティー加入一周年のお祝いやるわよ」
 そう言われてイザヤールは戸惑った。
「そんな大袈裟な・・・」
「いいのよ」ルイーダは笑う。「お祝いは口実で、要するにみんなで陽気に騒ぎたいだけなんだから。気にしないで」
 ミミとデートに行きたいんなら、何なら参加しなくてもいいのよ、私たちで勝手に騒ぐから。そう彼女に続けて言われて、イザヤールは苦笑したが、そんな仲間たちの心遣いに、胸が温まる思いだった。
 ふと視線を感じてその方向を見ると、ラヴィエルがにやにや笑っている。そして、彼女も言った。
「出かけてくれれば、おまえたちの分の旨い酒は私が引き受けよう」
 イザヤールはルイーダに気付かれないよう、妹の額を軽く小突き、声を出さずに笑った。

 今日は何もしなくていいからゆっくりして、と、みんなに言われ、イザヤールはルイーダの酒場のカウンター席で、いささか困惑気味に座っていた。
「別に今日それほど特別扱いされる言われはないのだがな・・・」
 そう呟くと、いつ来たのか、サンディがひらひら周囲を飛んで、囁いた。
「どっちかってゆーと、ミミにとって特別なの!ホントにデートでもしてやんなってば!」
「ああ、そうだな」
 イザヤールの顔は困惑から微笑みに変わり、どこへ連れて行こうか、と考えだした。
「とにかく、イザヤールさん、人間一歳、オメデトー!じゃ~ね~」
 それだけ言うと、サンディは飛んで行ってしまった。
「どこへ連れて行ってやろうかな」
 ひとりごちると、目の前にすっ、と、「新・オススメデートスポット100」という本が差し出された。
「いつもの感謝を込めて・・・差し上げますわ」
 ロクサーヌがとびきりの笑顔で言った。
(今日はよく笑う日だ)
 イザヤールは笑いを堪え、ぱらぱらとページをめくり始めた。

 けれど結局、ミミと二人で選んだのは、晩のご馳走の食材を買い出しに、市場へ向かうことだった。「普通のこと」をするのが、何だか嬉しかったから。
「パセリにセージにローズマリーにタイム・・・どうやらリッカは軽い物ばかり頼んでくれたようだな」
「重い物は配達で届けてくれるからいいんだそうです」
「ついでにあちこち寄り道してこられるようにの気遣いか」
 でもせっかく本ももらったことだし、近いうち「ちゃんとした」デートにも行くか。イザヤールの言葉に、ミミはちゃんとしたデートってどんなのですか?と首を傾げる。
「イザヤール様とお出かけできるなら・・・どこでも楽しいです」
 レベル99の宝の地図の洞窟でも?からかうつもりでイザヤールが言うと、大真面目に力強くはいっ、と頷くミミ。そんな彼女が愛しくて、彼は手を伸ばして恋人の指に自分の指を絡めた。
 往来で奏でられるバイオリンの音に聞き惚れたり、小さな露店を見て歩いたり。
「欲しい物はないのか?」
「うーん・・・イザヤール様が作ってくれる物のデザインが好きなんです」
 あっ、でもそれ、作ってって意味じゃないですよ、と慌てて言うミミに、たまにはねだってくれ、とイザヤールは苦笑する。
 ミミが最近見つけた、店内で軽食もできる可愛らしい菓子店で、遅めの昼食を済ませる。
「おまえにはこういう店は似合うが・・・私は明らかに浮いてるな・・・」
 落ち着かなさげな様子の彼に、ミミは大丈夫ですよ、と笑った。
「ここ、甘いものが好きな男の人もたくさん通ってるんです」
「本当だな。男性客もかなり・・・ん?どこかで見たような人が?」
「あ、あの人関所の兵士パーシーさん!今日お休みなんですね。ジュリアさんもご一緒で」
 パーシーもミミとイザヤールに気が付き、イザヤールに向かって、「女の子ってこういうお店好きだよね。わかんないなあ」とでも言いたげに、軽くウインクした。

 頼まれた買い物をゆっくり済ませ、リッカの宿屋に戻った頃にはもう午後も半ば。夕方になったら我々もご馳走作りを手伝うか、とイザヤールは腕捲りをする。
 一旦部屋に戻り、ミミは少し心配そうに尋ねた。
「イザヤール様は・・・今日、これでよかったですか?私は、すごく楽しかったですけど・・・」
「ああ、もちろん」
 とても楽しかった。
「でも、今日はイザヤール様の記念日なのに、イザヤール様の為のこと何もできていないかも・・・」
「そんなことはない」
 自分だけだったら、今日がちょうど一年ということさえ忘れていたかもしれない。女の子の方が記念日好きというのは当たっているかもな、と、イザヤールは微笑ましく見つめる。
「私、イザヤール様が喜んでくれるなら・・・何でもしたいです」
 この言葉と、恥ずかしそうに、だが恋人の目をまっすぐ見つめてくる美しい瞳に、イザヤールの表情は、温かいものから切ないものへと変わった。
「あっ、でも、世界滅ぼすとかはナシでお願いしますっ」
 その変化を敏感に感じ取ったのか、ミミは冗談めかした口調で、照れくさそうに笑いながら言った。イザヤールも口の両端に笑みを浮かべた。
「安心しろ、そんなことは頼まない」
 ですよね~、ミミは笑い続けてまたイザヤールを見上げた。
「では、ひとつお願いしようかな。・・・一分だけ、私のために時間をくれ」
「一分?一分だけでいいんですか?何時間でもいいですよ」
「一分でいい。何時間もだと、かえって危険だから」
「危険?」
 それってどういう意味・・・と言いかけた声は、熱を帯びた瞳に封じ込められた。
 イザヤールの両手がミミの頬を包み、優しく顔を上向かせる。
「ミミ・・・愛している」
 囁くと同時に、熱を帯びた瞳が徐々に閉じられ、ゆっくりと近付いてくる。ミミも思わず目を閉じると、薔薇色の唇に、やわらかであたたかい唇の感触が、はっきりと重なった。

 それから一分後。いや本当に一分だったのかもっと長かったのか短かったのかもわからないまま、ミミは濃い紫の瞳を潤ませ、頬を上気させて恋人を見つめた。そして、やっとの思いで囁いた。
「私も、愛しています・・・イザヤール様・・・」
 そのまま薔薇色の頬をイザヤールの胸に押し付ける。すぐに力強い腕がそんな彼女の背中に回され、優しく抱き締めてきた。
「驚かせてしまったか?」
 イザヤールは囁き、恋人の髪をなで、顔を覗きこむ。彼の鼓動も早くなっていることに気付いて、ミミは幸せそうに溜息をついた。
「びっくりしたけど・・・嬉しい・・・です」
 そうか、よかった、と呟き、イザヤールも幸せそうに長く吐息して、ミミの髪に顔を埋めた。
 いつしか、外は夕方に。ひとつふたつと瞬き出した星たちは、地上の元天使二人を守護するかのように、いつもよりも更に優しい光を放って、輝いていた。〈了〉

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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おふぅ! (鈴山まさこ)
2011-02-13 04:05:44
さ・・最後の鼓動がっ・・・ときめかせていただきました!
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ときめくだなんて、そんな/// (津久井大海)
2011-02-13 04:33:37
コメントありがとうございます!羞恥心どこかへ忘れた甲斐がありました!(笑)でも忘れてきた筈なのにやはり恥ずかしいです・・・
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