セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

帰る場所が、あるから。

2015年11月22日 22時46分32秒 | クエスト163以降
夜中に他の話を書いていたんですが、今日がいい夫婦の日なのを思い出して、何となくで急遽それっぽい内容の話を書き始めまして、現在に至った次第でございます。最近ながら書き能力が低下していて少々難儀です。外界シャットダウン機能を脳に再インストールせねば・・・。当サイトイザ女主は厳密には夫婦じゃないですが、もう長いこと連れ添ってる夫婦感出まくりなので、自他共に完全に夫婦扱い。結局、互いが互いの帰る場所っていう話かもです(笑)

 星空の下、広野を通り抜けてミミとイザヤールはセントシュタインの城下町に戻ってきた。
「今日も無事に帰ってこられたのはイザヤール様のおかげなの、ありがとう」
 ミミは囁いて、イザヤールの大きな手にそっと自分の手を滑り込ませた。
「いや、こちらこそありがとう、ミミ。おまえが居てくれたから安心して攻撃に専念できた」
 囁き返して、イザヤールは滑り込んできた華奢な手を、優しく包み込むように握りしめた。
 地上の守り人の務めは、程度の差はあれ常に危険と隣り合わせだ。人間では到底過ごせない長い年月を、天使の身の間、師弟として共に歩んできた二人だからこそ、様々な生命の危機をくぐり抜けてこられるのだろう。
 人間として愛し合って過ごせる時間の長さは、師弟だった時間のおそらく半分にも満たないだろう。この数百年があっという間だったから、ましてや人間として生きるこれからの数十年は、もっと短く感じるに違いない。・・・だからこそ、恋人として過ごすこの時間が、限りなく大切で、どの瞬間もいとおしい。二人は、少し照れながらも手をつないだまま町の中に入った。

 町の入口から、二人が暮らしているリッカの宿屋はすぐそこだ。夕食時だからか、自分たちのようにようやく町にたどり着いた旅人が多い時間だからか、和やかな喧騒という矛盾した表現がぴったりな雰囲気が、通りにまで感じられる。窓から漏れる暖かい灯りが、おかえりなさいと告げていた。
「ミミ」イザヤールは、静かな、だが優しい感情を底に秘めた声で呟いた。「帰る場所があるというのは、いいものだな」
 ミミはにっこり笑って、大きく頷いた。少しでも早く駆け込みたいような、だがこの帰る間際の時間が少し名残惜しくて、二人はわざとゆっくり通りを歩いた。
「天使界に居た頃は、おまえが、私の帰る場所だった」歩きながら、イザヤールは言った。「おまえが私の私室で待っていてくれると、同じ部屋なのに全く違って見えた。ミミが待っているあの部屋へ必ず帰ろう、そう思うことで、何度危機を切り抜けられたことか」
「イザヤール様・・・」
 ミミは濃い紫の瞳の陰影を更に濃くして、イザヤールの横顔を見つめた。師匠だった頃の彼が、帰って来て弟子の在室を知ると瞳を和ませてくれていたのは知っていたが、そこまで想われていたのは、知らなかった。
「・・・そして今は、こうして一緒に、同じ部屋に帰ることができる。それがとても、幸せだ」
「・・・」
 胸がいっぱいになって、瞳を潤ませたまま、ミミはただただ何度も大きく頷いた。私も、という想いをありたけ籠めて、つないだ手にきゅうと力を込めた。
 ミミが立ち止まってしまったので、イザヤールは怪訝そうな顔で彼女の顔を覗き込んだ。
「・・・ミミ?」
「・・・イザヤール様」ミミは、突然イザヤールに抱きつき、彼の胸に顔を埋めるようにして訴えた。「今帰ると、泣き顔になってみんなをびっくりさせちゃう。・・・お疲れのところごめんなさいだけど・・・もう少し、歩いてから帰っても・・・いい?」
 イザヤールは、返事の代わりに、腕の中のやわらかな体を、固く抱きしめた。抱きしめながら、頷いた。
「悲しいからじゃないの。幸せすぎて、嬉しすぎて、涙が出るの・・・」
 涙で濡れて余計に色濃く見える瞳でミミはイザヤールを見上げ、彼はその瞳をまっすぐ見つめ、頷いた。
 それから二人は、夜の城下町を、手をつないだままそぞろ歩いた。ミミの涙が止まるまで。

 同じ建物に、同じ部屋に、そして同じベッドに、二人は帰ってきた。大切な仲間たちがいつもの笑顔で迎え、ようやく夕食も入浴も済ませて床に就いたのは、星が中天にさしかかった頃。そして互いの腕の中で、ようやく眠りについたのは、星もだいぶ傾いた頃。
 おやすみなさい、おやすみ。おやすみの挨拶を交わして、別々の部屋にそれぞれ別れわかれになった、翼のあったあの頃。今は、おやすみを囁いて目蓋を閉じても、愛しいぬくもりはここにある。ああ、今日も無事に帰って来られた。互いの体温と鼓動を子守歌に、二人は甘い眠りに落ちた。〈了〉
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