セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

半切れリンゴ

2015年11月23日 23時59分17秒 | 本編前
昨日こちらから書きかけてたんですが、いい夫婦の日に両片想い話もアレかなと思ったので今日に持ってきましたの天使界師弟時代イザ女主話。ものの食べ方が綺麗な人ってステキだよね~という話です・・・ってたぶん違う(笑)

 今日の地上からの土産は、つやつやと光る真っ赤なリンゴだった。見習い天使ミミは、師イザヤールの手から渡されたそれを、濃い紫の瞳を輝かせて見つめた。
「とっても綺麗な色のリンゴですね、イザヤール様」それからミミは、それを顔の傍に寄せて、目蓋を閉じて香りを楽しんだ。「それにすごくいい香り」
 大切そうにリンゴに顔を寄せるミミは、まるでリンゴに頬ずりしているかのようだった。こんなに可愛がられてこのリンゴは幸せものだな、とイザヤールは思わず内心呟く。すぐに、私は何を馬鹿なことを、とかすかに苦笑して、彼は呟いた。
「村人の一人が、果樹園の中で一番良いものを守護天使像に捧げてくれたのでな。ありがたく頂いてきた」
 イザヤール様はやっぱり守護する村の人々に慕われているんだなあ、と、ミミは嬉しくなって微笑んだ。そして、リンゴをイザヤールの手に返した。
「?どうした?このリンゴは、おまえへの土産だぞ?」
「でも」ミミは、小さく首を振って言った。「これは、イザヤール様にってウォルロ村の人が捧げたものですから。私が頂くのは、申し訳ないです・・・」
 こんなに喜んでいるミミに食べられる方がリンゴもリンゴを育てた者も本望だろうに、とイザヤールは思ったが、それではこの律義な弟子が納得しないこともよくわかっていた。
「そうか、それなら」彼は微笑んで囁いた。「半分ずつに分けて、一緒に食べようか」
 いいのかな?と言いたげな顔でミミはためらっていたが、微笑んで見つめてくるイザヤールに、ぱっと頬を染めてうつむき、小さくこくりと頷いた。こんな笑顔で見つめられたら、秘めた想いを隠しきれなくなってしまうと、頬を染めながらうろたえる。
 何故赤くなるのだろう、彼は首を傾げたが、ミミのそのしぐさをとても可愛いと思った。・・・可愛いどころか、とても愛しくて堪らない・・・。大切な弟子、彼女にそれ以上の愛情を自分が密かに抱いているとこの無垢な少女が知ったら、今彼女が寄せてくれている尊敬も信頼も失われるのだろうか、それとも・・・?今考えても詮無きことと、イザヤールは切ない想いを封じ込め、リンゴに注意を戻した。
 上部の窪みに親指をかけ、無駄なく一気に力を加え、彼は器用にリンゴをぱかりと割った。そして、綺麗に分かれた半分をミミに渡した。白い果肉から更に爽やかな香気がたちのぼる。差し出された果実を受け渡す際に一瞬互いの指先が触れ、二人は思わず同時に小さく息を飲んだ。
 かすかな動揺を隠す為に、イザヤールはリンゴに白い歯を立てて一口噛んだ。しゃり、と小気味良い音が立つと同時に、細かな果汁の粒子が霧のようにふわりと舞って、鮮烈な香気が辺りに広がる。ウォルロの水と山の空気を思わせる清浄な風味に、彼は思わず呟いた。
「うん、旨いな」
 ミミは、リンゴの半分を手に持ったまま、しばらくぽうっとイザヤールにみとれていた。愛しい人がが何かを食べるところを見ると、なんだかドキドキしてしまうのは、何故なんだろう・・・。イザヤールの唇が優しく触れるリンゴが羨ましいと、ミミは小さく吐息した。
 やがて、食べないのか?と言いたそうなイザヤールの視線に気付いた。おかしなことを考えてしまったという罪悪感もあって、ミミは慌てて小さくかぷりとリンゴにかぶりついた。たっぷりした甘味とかすかな酸味、そして豊かな香気が口の中を満たして、思わず微笑みがこぼれる。こくりと、白く華奢な喉が動いて、果汁を飲み下した。
「おいしい・・・」
 小さく呟いて、ほう、と今度は満ち足りた吐息をすると、ミミは微笑みをリンゴからそのままイザヤールに向けた。
 ものを食べるときの無意識の色香と、この無邪気な微笑みは、秘めた恋心を更に焚き付けるには、充分すぎる・・・。かなり長いと自分には思われるほど、沈黙の間が流れてから、ようやくイザヤールは、ほんのかすかにかすれた声で、呟いた。摘んではいけない果実を眺めるような、どこか寂しげな微笑みで。
「・・・旨いか。よかった」
 それでも、ひとつの実を分けあって食べたという行為に、秘めた想いに切ないふたつの心は、ほんのりと暖まり、小さく満たされた。今度は、どんな土産にしてやろうかな。弟子にちょっと甘い師匠の顔に戻って、イザヤールは今度は心から、楽しげな笑みを浮かべ、ミミもそれに応えて、嬉しそうににっこり笑った。〈了〉
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 帰る場所が、あるから。 | トップ | しんかのひせき?! »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿