片想い歴三桁年。人間と天使は寿命も時間感覚も全然違うとはいえ、長いものは長い。
(きょ、今日こそはイザヤール様に『デートしてください』って伝えるの・・・)
元天使ミミは、決意と緊張のためか紅潮している頬を両手で押さえた。その当の本人のイザヤールは、現在彼女の横で朝食後のコーヒーを飲んでいる。
「イザ・・・」
イザヤール様、後ほどお話が。そう言おうとしたところへ、リッカがやってきて、言った。
「イザヤールさーん、ちょっとお話いいー?」
「ああ、なんだ?」
ミミが声をかけようとしたところで、イザヤールは立ち上がってリッカと行ってしまった。「イザヤールさんが探してた図書室の本なんだけど」「見つかったのか?」と、遠ざかっていく二人の声。
(あん・・・でも後でいいよね、私の話は)
ミミは気を取り直して、かぷ、とトーストにかぶり付いた。
その後、ミミはイザヤールを一階ロビーで見つけ、声をかけようとした。しかしいつもなら平気でできることが、今日は後で言わなくてはならないことを考えて緊張してしまうせいか、うまく声にならない。
「イザ・・・」
か細い声で呼ぼうとしたそのとき、カウンターの向こうから、ロクサーヌが呼びかけた。
「イザヤール様、少々お話よろしいでしょうか?」
「ああ、何か?」
(あ・・・)
またもやミミの呼びかけは、途中で消えてしまった。
「ショップでアクセサリーフェアしたいのですが、ご協力頂けません?」「私が?」「ミミ様から、イザヤール様は手先が器用でいらっしゃるとお聞きしてますわ。作って頂きたい物がございますの」
その会話を耳の端で聞きながら、ミミは溜め息をついた。
ようやくロクサーヌの話が終わったと思ったら、次はルイーダ(オリジナルカクテルレシピについて)、ラヴィエル(星からの伝言について)と、彼に用事があるものが次々と現れた。
「イザヤールさん、今日モテモテだね~」
ニヤニヤするサンディ。
「てゆーか、ミネアさんの占い、チョー当たってる!『明日は言いたいことを先に人に言われるとタロットが告げてます』って言ってたよネ?」
昨日、ミミはゲスト宿泊者の超有名占い師に、たまたま「明日の運勢」を占ってもらったのだ。
「・・・」
しょんぼり肩を落とすミミの背中を、サンディはぱしっと叩いた。
「ほらっ、デートのお誘いしよーとしてる女子が、そんなカオしないの!」
「!・・・さ、サンディ、どうして・・・」
「アンタの様子見てればわかるワヨ!・・・ミミなら大丈夫、どんなオトコでも落とせるって!」
「サンディ・・・ありがとう」
ミミの顔に花開くような微笑みが広がる。
「そー、そのカオ!それならどんなオトコも一発ヨ!」
しかしその後もすれ違いが続き、結局ミミが話を切り出せたのは、夜、しかも就寝前だった。
「イザヤール様・・・あの・・・お話が・・・」
たったこれだけ言うのに、心拍数が上がり、喉から水分がなくなったような気がした。
「ミミ、おまえもか」と、イザヤールは笑って答えたが、彼女の様子にすぐ眉をひそめた。
「どうした?・・・まあちょうどいい、私もおまえに話がある。先におまえの話を聞こうか」
「あ、いえ、イザヤール様から・・・どうぞ」
「そうか?・・・近いうちに、少し遠出しないか。・・・二人だけで」
そう言うと、イザヤールは少し照れくさそうに笑った。
「さ、返事の前におまえの話を聞こうか」
ミミは驚きで目を見開いていたが、やがて、唇の端がゆっくりと上がり、柔らかな微笑みを浮かべた。
「いえ・・・私のお話、必要なくなったみたいです・・・」
そして彼女は、冗談めかして・・・しかし切ない色の瞳を伏せて、呟いた。
「イザヤール様・・・なんかそれ、まるでデートのお誘いみたい」
「そのつもりだ。・・・それでも来てくれるか?」
「!・・・はい」
そうか、よかった、とイザヤールは照れたような微笑みを浮かべたまま呟き、おやすみ、と、さっさと自分の寝台に潜り込んでしまった。
(ホントに今日は、『言いたいことを先に人に言われる日』みたい・・・)
これって夢?もちろん、そんなに深い意味ではない、友達同士で遊びに行くことを冗談めかして言っただけかもしれない。でも・・・それでも嬉しすぎ・・・。
うに、と頬を摘まみながら、ミミはとろけるような微笑みを浮かべた。〈了〉
(きょ、今日こそはイザヤール様に『デートしてください』って伝えるの・・・)
元天使ミミは、決意と緊張のためか紅潮している頬を両手で押さえた。その当の本人のイザヤールは、現在彼女の横で朝食後のコーヒーを飲んでいる。
「イザ・・・」
イザヤール様、後ほどお話が。そう言おうとしたところへ、リッカがやってきて、言った。
「イザヤールさーん、ちょっとお話いいー?」
「ああ、なんだ?」
ミミが声をかけようとしたところで、イザヤールは立ち上がってリッカと行ってしまった。「イザヤールさんが探してた図書室の本なんだけど」「見つかったのか?」と、遠ざかっていく二人の声。
(あん・・・でも後でいいよね、私の話は)
ミミは気を取り直して、かぷ、とトーストにかぶり付いた。
その後、ミミはイザヤールを一階ロビーで見つけ、声をかけようとした。しかしいつもなら平気でできることが、今日は後で言わなくてはならないことを考えて緊張してしまうせいか、うまく声にならない。
「イザ・・・」
か細い声で呼ぼうとしたそのとき、カウンターの向こうから、ロクサーヌが呼びかけた。
「イザヤール様、少々お話よろしいでしょうか?」
「ああ、何か?」
(あ・・・)
またもやミミの呼びかけは、途中で消えてしまった。
「ショップでアクセサリーフェアしたいのですが、ご協力頂けません?」「私が?」「ミミ様から、イザヤール様は手先が器用でいらっしゃるとお聞きしてますわ。作って頂きたい物がございますの」
その会話を耳の端で聞きながら、ミミは溜め息をついた。
ようやくロクサーヌの話が終わったと思ったら、次はルイーダ(オリジナルカクテルレシピについて)、ラヴィエル(星からの伝言について)と、彼に用事があるものが次々と現れた。
「イザヤールさん、今日モテモテだね~」
ニヤニヤするサンディ。
「てゆーか、ミネアさんの占い、チョー当たってる!『明日は言いたいことを先に人に言われるとタロットが告げてます』って言ってたよネ?」
昨日、ミミはゲスト宿泊者の超有名占い師に、たまたま「明日の運勢」を占ってもらったのだ。
「・・・」
しょんぼり肩を落とすミミの背中を、サンディはぱしっと叩いた。
「ほらっ、デートのお誘いしよーとしてる女子が、そんなカオしないの!」
「!・・・さ、サンディ、どうして・・・」
「アンタの様子見てればわかるワヨ!・・・ミミなら大丈夫、どんなオトコでも落とせるって!」
「サンディ・・・ありがとう」
ミミの顔に花開くような微笑みが広がる。
「そー、そのカオ!それならどんなオトコも一発ヨ!」
しかしその後もすれ違いが続き、結局ミミが話を切り出せたのは、夜、しかも就寝前だった。
「イザヤール様・・・あの・・・お話が・・・」
たったこれだけ言うのに、心拍数が上がり、喉から水分がなくなったような気がした。
「ミミ、おまえもか」と、イザヤールは笑って答えたが、彼女の様子にすぐ眉をひそめた。
「どうした?・・・まあちょうどいい、私もおまえに話がある。先におまえの話を聞こうか」
「あ、いえ、イザヤール様から・・・どうぞ」
「そうか?・・・近いうちに、少し遠出しないか。・・・二人だけで」
そう言うと、イザヤールは少し照れくさそうに笑った。
「さ、返事の前におまえの話を聞こうか」
ミミは驚きで目を見開いていたが、やがて、唇の端がゆっくりと上がり、柔らかな微笑みを浮かべた。
「いえ・・・私のお話、必要なくなったみたいです・・・」
そして彼女は、冗談めかして・・・しかし切ない色の瞳を伏せて、呟いた。
「イザヤール様・・・なんかそれ、まるでデートのお誘いみたい」
「そのつもりだ。・・・それでも来てくれるか?」
「!・・・はい」
そうか、よかった、とイザヤールは照れたような微笑みを浮かべたまま呟き、おやすみ、と、さっさと自分の寝台に潜り込んでしまった。
(ホントに今日は、『言いたいことを先に人に言われる日』みたい・・・)
これって夢?もちろん、そんなに深い意味ではない、友達同士で遊びに行くことを冗談めかして言っただけかもしれない。でも・・・それでも嬉しすぎ・・・。
うに、と頬を摘まみながら、ミミはとろけるような微笑みを浮かべた。〈了〉
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