セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

呵責

2012年09月26日 22時55分10秒 | 本編前
本編前、天使界時代の、イザ女主相変わらず両片想いで悩んでます話。不純な動機で頑張っているのに褒められちゃった、と良心ズキズキの女主ですが、この頃にサンディが居たら、「がんばってんだからどっちでもいーじゃん☆」とか言ってもらえて気が楽になったろうになあ、と思います。見習い天使たちが毎日お祈りする設定は捏造ですが、天使だからお祈りくらいするんじゃないかとは思います。

 上級天使となり、弟子を持つ身となっても、守護天使イザヤールは剣術の鍛錬を怠ることはなかった。天使界でもトップクラスと言われる彼の剣の実力は、素振りはもちろん、上級天使同士の練習試合や技の手本を披露する度、見習い天使たちに賛嘆の念を抱かせた。
 そんな彼の剣の身のこなしを、中でも一番熱心に眺めていたのは、弟子のミミだった。彼女は、元来武器を使うことは得意ではない。それどころか、何かを攻撃すること自体が不得手だ。だが、苦手だと逃げていては、師匠であるイザヤール様にまで恥をかかせてしまうと、健気なくらい懸命に訓練に勤しんでいる。その甲斐あって、少しずつ剣の扱いに慣れてきた。
 同じように動くのはまだまだ無理でも、参考にしたいと、機会がある毎にイザヤールの剣の動きを見ているミミだったが、気を抜くと剣の動きだけではなく、彼の精悍な顔や、無駄なく鍛えぬかれた美しい体躯にも、うっとりとみとれてしまう。
 魔物が其処に居ると仮定した、仕留めるまでの一連の動きは殊に鮮やかで、剣術どころか極められた剣の舞を見ているかのようだ。そんなときミミの紫の瞳は、綺麗なものや愛しいものを見たときの常で、グラデーションを描いて美しく煌めいた。
(微笑んでくれるイザヤール様もすてきだけれど、鋭く厳しい戦う顔のイザヤール様もかっこいい・・・)
 ミミは小さく溜息をつき、潤んだ瞳を長い睫毛の陰に隠す。そして、訓練の為でないそんな見方をしてしまうことに呵責を感じて、胸を痛めるのだった。ちゃんと観察して、お手本にしなきゃならないのに。それなのに、私は・・・。
 そんな彼女の気持ちを知らず、仲間たちや上級天使たちは、ミミはあんなに師匠の剣術を観察して熱心で偉いと褒めて、ミミの良心はますますずきずきと痛んだ。鍛錬を終えたイザヤールに、汗を拭くタオルを持って行くときはいつも、ミミは僅かにうつむいてそんな胸の痛みを隠していた。だが、手渡すときはつい、顔を上げて彼の顔を見上げてしまう。
「ありがとう」
 タオルを受け取る度、先ほどまでの峻厳な表情とはうって変わって優しく微笑むイザヤールにまたときめいて、薔薇色に染まる頬を慌ててまたうつむいて隠す。
 隠しきれてはいないのだが、弟子の想いに全く気付いていないイザヤールは、そんな彼女を、褒められたり礼を言われたりするとすぐ照れてしまう恥ずかしがりやだと思っていた。実際そうでもあるのだが、しかし、もしもイザヤールが、ミミの長い睫毛に隠された潤む瞳を見たら、ただ恥ずかしがっているだけではないと、さすがに気付いてしまっただろう。
 ミミの洗い上げたタオルは、今日も白くふんわりとしていて、まるで天使の羽のようだ。イザヤールは、その優しい感触を快く味わいながらも、僅かに憂いを浮かべ、目を伏せて静かに立っている弟子を見つめる。ミミは時折、何かを抱えきれなくて苦しんでいるように見えることがある。だが、すぐ愛らしい笑顔は戻るから、気のせいかとも思う。
 もしも苦しんでいるのなら、その苦しみを軽くしてやりたい。だが一方で、己にそんな資格はあるのかと、彼は思う。・・・弟子に密かに片想いをしている。そんな自分に。

 見習い天使たちは、大概夕刻に、寮の側にある教会に祈りに行って、神に今日一日の出来事を告白する。心の内で起こっていることも、打ち明けないといけないのだろうか。でもきっと、神様はなんでも知っている。そう思ってミミは、最後に殊に懸命に祈る。
 神様、私が想いを打ち明ける資格を得るまで、この想いは決して口外しませんから、だから・・・。許されない想いを抱いていることを、どうかお許しください。・・・イザヤール様の傍に、居させてください。
 一方、守護天使であるイザヤールは、今日も世界樹に星のオーラを捧げてから、優しくたたずむ大樹を見上げ、思った。
 神も、世界樹も、この世の全てを、知っているのだろうか。一天使が抱く、弟子への許されない想いすらも。心の中だけに懸命に留めて忍ぶ想いでも。
 慈悲深き世界樹よ、我々天使を護り給え。・・・そして私に、愛しい者を護り続ける力を。
 世界樹は知っていてもいなくても、おそらく許してはくれる。世界樹を見上げていると、何故かそう信じられた。彼は、静かにその場を後にした。

 イザヤールが自室に戻ると、ミミは飲み物を用意して待っていた。見られていると気付かず、どこか悲しげな顔で、濾紙から少しずつ落ちるコーヒーの滴を、眺めていた。美しい濃い紫の瞳が、陰影を描いている。そんな顔を見て、イザヤールは思わず息をつめ、僅かにかすれた声で尋ねた。
「ミミ・・・。どうした?」
 声をかけられて、ミミははっと顔を上げた。みるみる花開くような笑顔が浮かんだ。イザヤールが帰って来るときが嬉しくて、思い悩んでいるときですらも、いつも喜びを隠しきれない輝く笑顔になる。
「おかえりなさい、イザヤール様。ご心配おかけしました、ちょっとぼんやりしていただけです」
「・・・そうか」
 やはり気のせいだったのだろうか。だが、どうしてもそうとは思えない。イザヤールは、穏やかな口調を保つように細心の注意を払いながら、続けて口を開いた。可愛い小鳥を脅かさないようにそっと近寄る、そんな気分だった。
「私は、おまえの師匠だ。師匠というものは、弟子と苦しみや悩みを分かち合う務めもある。差し支えなかったら、話してくれ」
 ミミは思わず、曲げた人差し指の背を唇に当てた。言葉を塞ぐかのように。・・・イザヤール様を愛してしまっていて、苦しみ、悩んでいます。・・・そんなこと、決して言えるわけがない。
 ようやく、ぽつりと、呟いた。
「悪いことしなくても、悪いこと考えたら、それは悪いことをしているのと同じになるのか・・・考えていたんです」
 好きになってはいけない人に好きと告げるのも、告げないで密かに想い続けるのも、等しく罪なのか。そうとは、聞けないけれど。
 ミミの言葉に、イザヤールは少し考えてから、言葉を慎重に選んで答えた。
「・・・そうか。それは違うと、私は思うぞ。悪心もまた罪かもしれないが、実際に行動に移す前に悔い改める機会がある。・・・取り返しがつくところが、格段に違う」
「そう・・・ですか、そう・・・ですよね」
 悔い改めて想いを断ち切ることは、到底できそうもないけれど。
「おまえは・・・何か・・・」
 悪いことを考えたかと尋ねかけて、イザヤールは思いとどまった。ミミは、そんな子ではない。おそらく悪意ですらないことを気にしてしまっていて、悩んでいるのだろう。尋ねたら追い詰めてしまうと本能的に感じて、彼は代わりにこう言った。
「いい香りだな。コーヒーをくれ」
「・・・はい」
 ミミの顔にまた愛らしい微笑みが戻った。イザヤールは自分のカップを受け取ると、牛乳を満たした別のカップに、残ったコーヒーを少し落として、ミミに手渡した。
 並んでソファーに腰かけ、それぞれブラックとほぼミルクのコーヒーをすする。ほのぼのとした幸福感と安堵感に包まれ、二人は知らず知らず微笑んでいた。
 せめて、こうして傍らに居られることを許されるのなら。この秘めた切なさに、耐えられる。共に内心呟いた。
「おまえも、明日から訓練の際に練習試合をしてみるか?まだ、少し怖いか?」
 心の内と裏腹な、事務的なことを尋ねる。
「いいえ、頑張ります」
「無理はしなくていいからな」
 練習試合はともかく、またきっと、訓練のときにイザヤール様をうっとり見ちゃうんだ。悪い弟子なの・・・。そう思いながらも、少し心が軽くなったミミだった。〈了〉

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