セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

お芝居観て、幸せになろう、そう誓った

2011年02月08日 20時50分56秒 | クエスト163以降
 セントシュタインの城下町に、旅の劇団一座がやってきた。誇り高き魔族の王子と、美しいエルフの娘の恋物語を描いた芝居は瞬く間に大評判となった。国王一家まで自ら、期間限定で設置された芝居小屋へ出向いた程だ。
「王妃様、もう涙が止まらなくて、持っていらしたハンカチを全部使っても足りなかったんだそうです。そんなにステキなお芝居なのかな」
 ミミがうっとりして呟くと、イザヤールは笑って答えた。
「あの王妃様のことだから、大概の芝居ならハンカチは足りなくなりそうではあるがな。・・・行ってみたいか?」
 ミミは少し恥ずかしそうにこくりと頷き、実は・・・と、チケットを取り出した。
「フィオーネ姫から、宿屋のスタッフみなさんの分に、そのうえ私たち二人の分までチケットを頂いたんです。リッカたちはもう見に行って、すごくよかったって言ってました」
「アタシとラヴィエルさんももう行ったのヨ♪」サンディが言った。「すっごくロマンチックで、悲しくて、でも最後ちゃ~んとハッピーエンドになったから超ヨカッた☆」
 言いながらサンディは、目に星を浮かべ、うっとりしている。
「我々はチケットがいらないからな」ラヴィエルが笑って言った。「連日見放題だ」
「ラヴィエルさんの感想は?」
「そうだなあ」ラヴィエルは首を傾げ、腕を組み、呟いた。「私なら、塔に居る間に、武術か呪文の修行をして、曲者を撃退したものを、と思った」
「それじゃお話成り立たないじゃん!」サンディが唇を尖らせる。
「まあそうだが・・・でもミミ、君もそう思うだろう?」
「う~ん・・・そうかも・・・でもまあ人には向き不向きがあるから。全部の女の子に、強くなって、って言っても無理だし」
 妹とミミのやり取りを聞いたイザヤールは、おまえたちらしい、と笑う。
「塔の上の美女か、確かに芝居にうってつけだな」
 呟いてから彼は、ふと、塔の上に恋人を住まわせておく男の心理に、思いを馳せた。
 誰も知らない場所に、誰よりも愛しい者を隠し、訪れることができるのは自分だけ。程度は多かれ少なかれ、そのような願望を抱かない男は居まい。・・・ただ、それが恋人の幸福に繋がるとは思えないから、自分はそうしようとは思わないのだが・・・。
 ではさっそく行きましょうか、というミミの声で我に返り、イザヤールは微笑んで頷いた。そして、おデートのジャマしないワヨ、いってらっしゃ~い、と手を振るサンディに、苦笑した。

 芝居小屋は満員で、立ち見をする者で通路が埋まるほどだった。この盛況ぶりは、ストーリーのおかげだけではなく、役者や演出もレベルが高いことに由来するであろう事もうかがわせた。
 ヒロインはエルフの少女というにはやや艶やかな感じの美女だったが、なかなかの演技力で可憐さをかもし出していた。主人公の魔族の王子役は、細身の銀髪の青年で、悲哀と絶望を目だけで表現できる力量を持っていた。
 恋人たちのささやかな幸せの時間。王子の側近の、野望と裏切り。その為にヒロインは命を落とし、魔族の王子は、愛する者を失ったことで狂気へ堕ち、そして見るもおぞましい魔王へと変貌していく。
 その場面でミミは思わず息を呑み、イザヤールの手を労るように握り締めた。
(似ている・・・この主人公の身の上は・・・エルギオス様に似てるの・・・)
 愛する者に裏切られたと思い込んだことで、堕天使へと変貌したエルギオス。愛する者の裏切りは、つまり愛する者を喪うことと同じではないか。
 イザヤールは、半ば無意識に握り締められた手に自分の指を絡ませ、食い入るように舞台上の狂気の魔王を見つめていた。
 エルギオス様、貴方は。やはりこれほどの絶望を抱えて囚われていたのだろうか。真の牢獄は、帝国の鎖などではなく、貴方の。貴方の絶望が、悲しみが、闇の檻となって貴方を。三百年も、閉じ込めた・・・。
 芝居は佳境を迎えた。世界樹の奇跡で再び生命を得たヒロインは、その愛の力で魔王を愛する青年の姿へと戻した。二人は、今度こそ、ささやかな幸せの日々を共に続けていくことができるようになり、一緒に初めて出会った森を歩むところで、幕は閉じた。
 会場は割れるような拍手で埋まり、女性客の大半どころか、強面の男性さえも、ハンカチをぐしゃぐしゃに濡らしている者が大勢居た。再び幕が開いて出演者が深々と頭を下げると、再び拍手が轟いた。
 ミミとイザヤールは、指を絡めたまま、そっと小屋から出た。

 しばらく黙って寄り添って歩いてから、イザヤールがぽつりと呟いた。
「・・・あの方に、似ていたな・・・」
「・・・はい」
 ミミは頷き、彼の顔を見上げ、尋ねるというよりは断言するように言った。
「イザヤール様なら・・・あんなふうにはなりませんよね」
「買いかぶり過ぎだ。おまえを悲しませるようなことはしたくないと、今、頭で思っていても・・・本当にそうなったらどうなのか・・・わからない」
 だから。そんな絶望に陥らないよう、おまえだけは守りぬく。そうきっぱり言って、彼は決意を充たした瞳で、恋人を見つめる。
 そんな彼に、イザヤール様はきっと大丈夫、とミミは内心呟く。「わからない」と言ってくれたから。自分の弱さの可能性を認められるからこそ、イザヤール様の心は、誰よりも強いのだと。
 そして、イザヤール様は、どんな絶望に陥っても、心に灯した光を決して失わない人。だからこそ私も、この人を一度喪ったときも、何とか生きてこられた。空で見ていてくれているこの人を、悲しませたくなかったから。本当には無理でも、この人のように強くなりたかったから・・・。
「ミミ」イザヤールは立ち止まり、ミミの頬に手を触れ、囁いた。「おまえも、たくさん辛い目に遇ったのに・・・ああはならなかったな、偉かったな」
 だから、イザヤール様やみんなのおかげなんですってば、と、彼女はなでられている頬を少しふくらませた。
「おまえは、大丈夫だ。たとえ私が堕天使になったとしても・・・止めてくれたと信じている」
「イザヤール様こそ・・・きっと、私がそうなったら、止めてくださいましたよね」
「ああ」彼は頷いた。「何としても助ける」
 かつて力が及ばず、結局何もできなかった自分。愛する者に重荷と悲しみを残していってしまった自分。その償いの為にも。たとえどんな絶望的な状況に陥ったとしても守り、そして・・・自らの手で幸せにしてみせる。イザヤールは決意の色を更に濃くして、恋人を見つめた。
「よーするに、二人で幸せになれば大丈夫ですよねっ」
 ミミは、わざとおどけて言った。これ以上考えると、泣きたくなってしまう。
「ああ、そうだな。私も・・・おまえの信頼に応えられるよう、努力しよう・・・」
 そうだ。イザヤールは呟く。二人で幸せになればいい。
 もう人間となり、堕天使となる畏れは決してないであろう自分たち。もしも闇に堕ちたら・・・と考えるだけ不毛かもしれない。しかし、人間としては有り余る力が、何かのはずみで闇に転じないと、どうして断言できるだろう。
 だから。愛する人を悲しませないように。いや、たとえ悲しみが襲ってきても、それに耐えうるだけの幸せの思い出を、共に少しずつ積み重ねていけば。きっと・・・きっと大丈夫だから・・・。同じ思いを抱いて、二人は互いの瞳を見つめた。

 涙が堪えきれなくなりそうになったミミは、思いきりはしゃいだ声を出して言った。
「あ、そうだ!みんなにちょっとスイーツ買っていこうっ。ちょっと待っててくださいね、イザヤール様」
 ミミは言うなり駆け出し、手の甲で涙を払い、深呼吸した。もう、大丈夫。
 イザヤールは、その後ろ姿を優しく微笑んで見守っていた。・・・だが、その優しい顔が、少し曇り、やがて、何かを抑えた表情となり、僅かに眉が上がった。眉間に溝も入っていく。
「彼女~、一人?ボクとちょっとお茶でもどう?」
 菓子店に向かって走っていたミミに、スマートな身なりの青年が声をかけてきたのだ。
「私、人を待たせてますから」
 ミミがきっぱり断っても、「待たせておけばいーじゃん☆」と、青年は譲らない。
「・・・その待たされている連れは私なのだが」
 イザヤールは、つかつかと近付いていって、感情を殺した顔と声で言った。それだけに余計に迫力があった。
「あ、ども・・・失礼しましたっ」
 青年は、はぐれメタルより素早く姿を消した。
「・・・まったく、油断も隙もない」イザヤールは呟き、それからふいに低い声で笑いだした。「今の男、それこそ魔王にでも会ったような顔をしていたな」
 誓ったそばからもうダークサイドに傾きかけてしまった、とイザヤールは笑う。
「やめてください、そんな冗談・・・」
 ミミはせっかく止めた涙をまた溜めて呟く。
「ではとりあえずしっかり守るか」
 イザヤールは囁いて、ほら、とミミに手を差し伸べた。ミミの表情が憂いから晴れやかなものに変わり、伸ばされた手を、しっかりと繋いだ。
「ではとりあえず菓子店まで、護衛よろしくお願い致します」
「了解」
 また幸せの思い出が、もうひとつ。
 繋いだ手の感触を心に刻むようにしながら、二人は菓子店に向かって歩いていった。〈了〉

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2 コメント

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レベル上げ悩みますよね・・・ (津久井大海)
2011-02-22 23:51:15
悩むところですよね。でもずいぶん進まれたのですね、すごい☆

あ、そうか、エルギオス様の素性、かなり後にならないとはっきりしませんものね。ネタバレ話も読んで頂けて嬉しいやら申し訳ないやら。ここは本編話が少ないのが救い?ですが(笑)

では本日も鮭夜様の無事クリアを祈願して、「おうえん」!

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女神の果実を世界樹に捧げました (鮭夜)
2011-02-22 21:47:40
通学の時間だけで、何とか将軍(雑魚)2匹を倒しました。
このままストーリーを進めるか、レベル上げするかで悩みます。(現在30レベル)

エルギオス師匠は女性だと信じていました。
イザヤール様が必死に探し求めている方なんだよな、きっと初恋の天使だ。とか痛い妄想していたので驚きました。
ラフェットさんと三角関係じゃんwwwwとか全く違いました。

自分ルールにて攻略や掲示板の閲覧は基本禁止ですが、ファンサイトは巡回しているので師匠との別れや再会について知っています。
なので、ネタバレも喜んで読みますね。

長文失礼致しました。
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