セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

悪魔の瞳

2012年09月29日 02時31分19秒 | クエスト184以降
今週も丑三つ時更新すみませんの捏造クエストシリーズこと追加クエストもどき。今回は、うらみのほうじゅではない呪われ宝石登場です。相変わらず前フリ長いです(笑)綺麗な物が好きな女主も、怖がるようなイヤな気配があるようです。どこかで聞いたようなネーミングはご容赦。実在の何かとかち合った名前だとしても、それはほんとに偶然です。美しすぎる宝石は、血なまぐさい逸話に事欠かないようですね。石そのものに罪はないのに、その価値に目がくらむ人の心こそが呪いということなのでしょうか。

 サンマロウの前町長の妻である現町長は、宝石に目がないことでも有名である。今日も、宝石商人が並べる、色とりどりの美しい石に夢中になっていた。
「まあ、この輝きと大きさでたった一万ゴールド!これはお買い得ねえ」
 うっとり目を細める妻に、前町長はおずおずと口を挟んだ。
「なあ、おまえ、高い買い物なんだから、もう少し慎重に考えた方が良くないかね・・・」
 この助言は、黙殺という形で処理された。
「さすがにお目が高い!では取って置きの品もぜひご覧頂きましょう」
 宝石商人は揉み手して、厳重に包まれた小さな宝箱を取り出した。彼が蓋を開くと、白い絹張りの箱の中心から、たちまちプリズムのような光がほとばしり出た。
「んまあ・・・なんて美しい・・・」
 それは、大粒のブラック・オパールに見える石だった。闇のような黒地の中から、炎と黄金と夜空と針葉樹林がちりばめられ、煌めいている。そんな色合いだった。
「本来なら五万ゴールド!と、申し上げたいところですが、他でもない町長様の為なら、特別価格で三万ゴールドにお勉強させて頂きます!」
「二万ゴールドもおトクなの?買うわ、買いますわ!」
 こうしてその宝石は、サンマロウ町長の物となった。彼女はさっそくこの石を、ブローチにしようか、いやいや、首飾りにしようかと楽しい考えを巡らせ始めた。
 宝石商人はかしこまって町長宅を辞去したが、建物の外に出るやいなや、声を殺して笑い、呟いた。
「馬鹿が・・・。盗品に、大金を出しやがって」
 そして彼は、足早に町を出て、カラコタ方面へ歩いていった。

 事件は、その数日後に起きた。カラコタ橋の宿屋で、男が頭を殴打され、有り金と持ち物を奪われて、川に浮かんでいるところを発見されたのだ。
 それは、あの宝石商人だった。実は彼は、商人などではなく、手段を選ばないやり方で金を稼ぐことで嫌われ、ギルドにも入れてもらえない盗賊だった。幸い一命はとりとめたが、担ぎ込まれた先で、ずっとこんなうわごとを呟いていた。
「うう・・・まさか・・・ほんと・・・に、悪魔の瞳の呪いに・・・やられちまうとは・・・」
 その話は、さっそくサンマロウにも伝わった。前町長は、妻が買い取った宝石が盗品で、しかも呪われているという噂があることに、仰天した。
「なあ、おまえ!この前家に来た商人は実はならず者で、しかも買った石は呪われていると噂だぞ!早く手放さなくては!」
 しかし、現町長はにべもなくはねつけた。
「イヤよ。呪いだなんて、そんなのバカバカしい迷信だし、わたくしはちゃんと三万ゴールド出して買い取ったんだから、当然所有権がある筈よ!」
 言い放つと彼女は、やっぱり指輪にしようかと、また楽しい計画に夢中になり、夫の心配そうな声に耳を貸さなかった。
 その宝石にまつわる噂を詳しく調べて、前町長は更に心配が増した。彼は気をもみながらとぼとぼと家を出た。そして、まだ夕方ではあるが、一杯ひっかけたい気分になって、宿屋の地下にある酒場にふらりと入った。
 すると、そこには先客が居た。一人は美しい濃い紫の瞳が印象的な可憐な踊り子、もう一人は剃髪に程よく逞しい体躯の精悍なバトルマスターだった。
 ああ、確かマキナさんに船をもらった女の子とその連れの青年だな。前町長は思った。あの子は外見に似合わず、妻に、ドラゴンのなみだとかいう宝石を持ってきてくれた、凄腕の冒険者でもあったな。
 ミミとイザヤールは、船の定期的なメンテナンスを終えて、セントシュタインに帰る前に、酒場で軽く一杯を楽しもうとしていたところだった。そこへ、沈んだ様子のサンマロウ前町長が現れたので、挨拶をしてから首を傾げて尋ねた。
「元町長さん、どうかなさったんですか?」
 ミミの問いかけに、彼は苦笑してから答えた。
「キミ、『悪魔の瞳』という宝石のことを聞いたことがあるかね?」
 初耳だ。ミミがふるふると首を横に振ると、前町長は説明を始めた。
「わしもついこの間まで知らなかったんだがね。・・・できれば一生知りたくもなかった・・・あ、いやなんでもない、独り言だ。
素晴らしい色に輝くブラック・オパールなんだが、持ち主に不幸をもたらす呪われた宝石だという噂があってな。実際、その宝石を手に入れたとたんに事業が下り坂になって破産した富豪もいれば、その宝石の相続を巡って殺し合いをした兄弟もいたし、とある修道院の院長が所有したら彼は破戒僧となってしまって院は閉鎖に追い込まれ、とある屋敷ではこの石を保管しておいた部屋から火が出て屋敷は全焼、石は火事のどさくさに盗まれ・・・と、こんな話が枚挙できないほどある。
『悪魔の瞳』は、最近まである村に隠居していたコレクターが所有していたらしいんだが、健康体だったのに不治の病にかかってしまって彼は亡くなり、その葬儀で石は盗まれてしまった。それが巡り巡って、なんと・・・」
 ここで前町長は、大きく溜息をついた。
「うちの妻が、盗品とも知らず買ってしまったという訳さ!」
 それはお気の毒に・・・と言うべきか、なんと声をかけたらいいのか困って、ミミは眉をひそめた。
「妻は迷信だと笑い飛ばすし、わ、わしも迷信なんか信じておらんがね・・・。なんだか薄気味悪いじゃないか。しかし、妻は頑として手放すのを拒む。どうしたものやら・・・」
 前町長はぶつぶつ言いながらぐいっとグラスをあおったが、急に真剣そのものな顔になって、ミミたちに向き直った。
「一生の頼みだ!キミたち、泥棒になってくれんか!」
 あんまりな頼みに、ミミとイザヤールが唖然としていると、前町長は慌てて言った。
「いやいや、ホントの泥棒という訳ではなく。つまりだね、『悪魔の瞳』が盗まれたことにすれば、妻も諦めると思ってな。わしが持ち出せばすぐバレてしまうから、キミたちにお願いしたい。なあに、夫婦の財産は共用財産!わしがわしらの持ち物を持ち出して良いと言っとるのだから、何も問題ない!」
 そんな理屈が通用するのかどうか甚だ疑問なミミたちだったが、持ち出した後は元々の持ち主であるコレクターの遺族に返したいという前町長の言葉に、引き受けることにした。ミミはクエスト「悪魔の瞳」を引き受けた!

 サンマロウ町長宅は、さほど警備は厳しくない。町長と言っても、大富豪の屋敷の豪華さには到底及ばないのである。とはいえ、最近今の町長がしばしばに宝石を買うので、金庫の管理は厳重だ。
 ミミとイザヤールは盗賊に転職して、町長宅の外から様子を窺った。勝手口の側の小窓はあけておくと、前町長は言っていた。
 観光地サンマロウの夜は、ひっそりと静まり返っている。観光で栄えてきたとはいえ、グビアナのようになるには、まだまだ時間がかかるだろう。この様子なら、多少不審な動きをしても大丈夫そうだ。
 勝手口側の小窓は、少し高い位置にある。踏み台になる樽や木箱はないかとミミが辺りを見回すと、イザヤールは声を出さずに笑った。そして、彼女に囁いた。
「私の腕と肩を踏み台にして上ればいい。その方が静かだしな」
 言うやいなや彼は軽々とミミを抱き上げ、片腕に座らせた。ミミはごめんなさい代わりにイザヤールの頭をぎゅっと抱きしめてから、ほとんど体重をかけずにとんとんと踏み台にして、瞬く間に小窓に潜り込んだ。彼女が家の中に入ったのを見届けると、イザヤールは足音をしのばせてすぐに玄関の方に向かった。間もなく、ミミが中から開けてくれた。
 宝石類は、全て頑丈な金庫に入れてあるらしい。なるほど、ギガンテスでも持ち出せなさそうなゴツい金庫が、居間に置いてある。わしも暗証番号を知らんのだと、面目無さげに言っていた前町長だが、さいごの鍵を持つミミたちには、全く問題なかった。
 音を立てないように金庫を開けると、小さな宝箱を探した。その中に件の宝石は入っていると、聞いていたからだ。間もなく小型の宝箱を見つけ、そっと蓋を開けると、僅かな灯りを全て吸収したかのように、中からプリズムが煌めき、溢れ出た。
 暗いせいか何なのか、今回は赤を基調にしたプリズムのようで、まるで地獄の炎のようなその色合いを、綺麗だと思う反面少し怖くて、ミミは体を震わせた。イザヤールはそんな彼女にそっと優しく腕を回し、それから自ら無造作に石をつまみ上げ、袋に入れた。
 それから二人はきちんと金庫の扉を閉め、静かに外に出た。そしてそのまま、コレクターの遺族のところに向かった。前町長についでに返却も頼まれていたからだ。

 天の箱舟を使って、ちょうど朝になった頃目的地にたどり着いた。目当ての家も、すぐに見つかった。
 コレクターの遺族は、若い娘だった。父親のコレクションに執着することもなく、静かに暮らしているようだった。
 娘は、ミミたちから経緯を説明され、宝石を渡され、それをしばし手のひらに載せてじっと見つめていたが、やがてそっとミミに返して寄越して、言った。
「父は亡くなる前、言っていました。これは、本当に悪魔の石だと。自分が死んだら、人の手の届かないところに処分してくれと。しかし、そうする前に盗まれ、父の遺志を果たせませんでした。・・・旅の方、この石を破壊してくださいますか」
 ミミとイザヤールはためらいなく頷き、それぞれ剣を抜いて、この宝石を放り投げて、交互に剣を振るった。オパールは元々、美しいがガラスよりもずっと硬度の低い、やわらかく傷付きやすい石である。剣の刃でたちまちバラバラになって、輝きのかけらもとどめずに地に落ちた。
「ありがとうございます。これで、父の遺志を果たせました。もう、誰の運命も狂わせることはできません。・・・私の父のような目に遭う人は、もう二度と」
 深々と頭を下げた娘に見送られ、ミミとイザヤールはその場を後にした。

 サンマロウの町長宅に戻ると、案の定大騒ぎだった。家の鍵はかかっていた筈だし、金庫の暗証番号は町長しか知らないし、鍵だって合鍵を作れないほど複雑で、その鍵は枕の下にしまって寝ていたのだ。すなわち盗まれる筈はないのに、「悪魔の瞳」だけ、煙のように消え失せた。
「氷でも掴まされたのではないか?」
「そんなわけないでしょうっ。なんでよりによってあの石だけっ」
「だからわしが言ったろう、あの石には悪いことが起きる呪いがあると」
「呪いで石だけ消えるってどういうことですのよっ、きー!」
「きっと神様が助けてくれたのだよ、そう怒るでない」
 怒り狂う妻をなだめながら、前町長はミミたちにそっとウインクをして、こっそり「すばやさのたね」をくれた!
 町長宅を後にして、係留してある船に向かいながら、ミミはぽつりと呟いた。
「宝石に罪はなくて、美しい物は美しいと思っていたけれど、でも・・・あの石は、本当になんだか怖かった・・・」
「ああ、そうだな。何か、邪悪な気配があった。しかし、その呪いも、もう終わりだ」
 イザヤールは答え、ミミをあたたかい腕に抱き寄せた。

 結局サンマロウ町長から「悪魔の瞳」を盗んだ犯人は不明のままで、腹を立てた町長は、八つ当たりで夫の背広を三着いくらいくらの、更に安物に格下げしたという。〈了〉

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