ドラクエ要素ほとんど関係無くてすみませんのイザ女主話(になるのかな?)。何だか妙に少女漫画ちっく?な話です。津久井は少女漫画ほとんど読まないのに、不思議だあ。少女漫画風かどうかはともかく、けっこうベタな展開のような気もします(笑)イザヤール様がちょいやきもきするようなしないような。突発的に思い付いて書いたのですが、こんな感じの話は珍しいので、後で書いたのを悔やみそうな気も(汗)ほぼ勢いです。
ルイーダの酒場の隅のテーブルで、冒険者カップルが、いつものように仲良くグラスを傾けている。
男の方は、程よく逞しい体躯に剃髪、整った顔や雰囲気は精悍で一見怖そうだが、傍らに座る恋人を眺める眼差しはとてもあたたかく、優しい。その目を見つめ返す美しい濃い紫の瞳は、彼に劣らず愛しさに溢れて潤んでいる。瞳の持ち主は、一見華奢でやや小柄なのに悩ましい肢体を持つ娘だ。
男が何か囁き、彼女は見た者まで幸せになるような愛らしい微笑みを浮かべ、ほんのりと頬を薔薇色に染めた。その笑みに彼もまた、幸せそうに微笑んだ。
そんな二人を、少し離れたテーブルから、そっと見つめている者が居た。魔法に従事している者なのか、フード付きの足元まで覆うマントを着ている為、中背で半分程覗いた顔が、繊細でなかなか整っているということしかわからない。その人物は、小さく溜息をつき、心の中で呟いた。
あの人がああして微笑むのを見るだけで、ボクはとても幸せだけど。でも・・・一度でいい、お話してみたいな。
翌日、リッカの宿屋の宿屋のカウンター内では、最近よく来る客のことが密かな話題になっていた。
「ねえルイーダさん、あのお客さん、また来てるね」
リッカが小声で囁いた。
「誰だれ?ああ、あのフードを深くかぶっている長いマントの人。あの人、冒険者風だからてっきりうちに登録に来ると思ったのに、そんな様子ないのよね」
ルイーダが答え、不思議そうに首を傾げた。
「そうなの。あのね、あのお客さん、ごはんをよく食べにいらっしゃるけど、泊まっていったことはないの。それも不思議。お料理が気に入ってくれたのかもしれないけど、でも・・・あんまり食事に興味なさそうっていうか、上の空っていうか」
リッカもまた腕組みして首を傾げる。
「ねえロクサーヌ、あなたのお店のお客?」
ルイーダがロクサーヌに顔を寄せて囁くと、ロクサーヌは首を振った。
「いいえ。一度、アクセサリーフェアの時にいらしたんですけど、『どれもあの人のイメージとは違うな』とおっしゃって、それ以来はいらっしゃいませんの」
「好きな人への贈り物探しに来てたのかな?」
リッカがわくわくと顔を輝かせた。
「そのようですわね。どんな方への贈り物をなさりたいかおっしゃってくだされば、相応しい品をお探ししますのに」
「まあ用がなきゃ来ちゃいけない、ってことはないから、悪いことしない限りあんまり詮索しちゃダメよね。さ、仕事、仕事」
話題の主の客は、テーブルの上の空のグラスに物憂げに触れて、じっとエレベーターの方を見ていた。そのフードの下の視線の先には、エレベーター係と楽しく談笑しているミミとイザヤールが居る。
ここに泊まることも考えたけど。あの人が同じ屋根の下に居る、しかもあの人の恋人と互いの腕の中に居るかもしれない、それを考えるだけでボクは・・・。苦しくなって落ち着かなくなる。
数日後。イザヤールは、リッカの宿屋のロビー兼ルイーダの酒場に降りてきて、目に入った光景に、片方の眉を僅かに上げた。二人用のテーブルに、この頃よく見かけるフード付きマントの客が座っている。その傍らにミミが立っていて、何やら話をしている。食事や飲み物のオーダーにしては長いような気がする。
イザヤールは思わずその客を観察した。長いマントに覆われているが、テーブルの上に置かれている手は、やや大きいがほっそりと繊細で芸術家の手のようだ。今日はミミを見上げて話している為か、フードがいつもより若干上がっていて、繊細な横顔の輪郭がくっきり顕だった。切れ長の目も筋の通った鼻も、優しげな顎もなかなか美しい。
ミミが何だか少し困っているようだったので、イザヤールは急いでそのテーブルにつかつかと近寄り、声をかけた。
「ミミ、どうした。お客様、何か失礼がございましたか」
イザヤールが近寄った途端に客は弾かれたように立ち上った。それでミミの隣に立つ形になって、すらりとした中背だとわかった。それから僅かに顔を赤らめて唇を噛みしめ、呟いた。
「いえ、何も。ボクの方こそ、失礼しました」
僅かにかすれた落ち着いた声もまた、なかなか魅力的だった。客は、飲み物代をテーブルに置くと、止める間もなく急いで立ち去ってしまった。
「やだイザヤールさん、またミミに絡むナンパ客を怖がらせちゃったワケ?」
ちょっぴりからかい口調でサンディが言った。
「脅したつもりは一切ない。ごく丁寧に対応したつもりだ」
「イザヤールさんが足早に寄ってくるだけでじゅーぶんキョーハクだっつーの」
「サンディ、やめて。見ていたんだから、ナンパじゃないってわかっているでしょ」
ミミが哀願するように言うと、サンディは目をぱちぱちさせた。
「ん~、でも、ナンパかもよ~。今どきはわかんないって、お・・・」
サンディがまだ喋っている間なのに、イザヤールが静かな、だが迫力ある声で尋ねた。
「サンディ。教えてくれないか。あの客が、ミミと何を話していたのか」
「わー!だから~、その顔と声が怖いっつーの!」
「こんなに穏やかに丁寧に尋ねているだろう?」
イザヤールは、まだ迫力ある声で喋っていたのだが、目は笑っている。逆に彼にからかわれていることに気付いて、サンディはふくれた。
「なんだ、怒ってないんじゃん!教えてやんない!」
「すまんすまん。ミミ、聞いても構わないか」
「はい」ミミはこくりと頷いた。「あのお客さん、初めは何かお天気の話とかしてて、それから私にお料理やお裁縫はできるかとか呪文は使えるかとかいろいろ聞いてきて、そして急に、不思議なことを聞いてきたの」
「不思議なこと?」
「聞いてきたんです・・・『キミは、今、幸せ?』って。私、突然そんなことを聞かれて戸惑ったけれど」ここでミミはほんのり頬を染めた。「普通に答えてしまったの。『はい、とっても幸せです』って。そうしたらお客さんは、『そうか・・・』ってどういうわけか何だか寂しそうな顔をして、それで困っていたところにイザヤール様が来てくれたの」
「そうか・・・」
「やだ、イザヤール様までそうか、って言うの?!」
その頃、件の客は、セントシュタインの教会方面の路地を急ぎ足で歩いていて、ようやく歩調を緩め、息を吐いて立ち止まり、呟いた。
「ああ、びっくりした・・・」
彼女はやっぱり、とってもすてきな人だった・・・。それにしても、ほんとにびっくりしたな・・・。
一方ルイーダの酒場では、ミミがリッカに呼ばれてちょっとその場を外したので、イザヤールは空いたそのテーブルに腰かけ、少し考え込んだ。
ミミはさっぱり気付いていないようだが、あの客はほぼ間違いなく、ミミに好意を抱いているのだろう。端から見たら、如何にも戦士風のごつい体格の自分より、すらりとした繊細な美貌のあの青年の方がお似合いに見えるかもしれない。だからといって、ミミを渡す気はさらさらないが。
「イザヤールさん、妬いてんの~?」
先ほどの逆襲からかい返しとばかりに、サンディがニヤニヤしながら言った。
「妬いてはいない。気になることは否定しないが」
「ま、妬く必要ないと思うケドね~。あの客は、お・・・」
ここでミミが戻ってきたので、この話題は慌てて打ち切りとなった。
教会の礼拝堂で、例の客は、物思いにふけって硬いベンチに座っていた。
・・・見ていると、もちろんわかるよ。あの二人はとっても幸せで、ボクが入り込む隙間なんかないって。ましてや、ボクはあの人のこと、ほとんど何も知らないのに。でも、あの人がとっても素晴らしい人で、とっても優しいんだってことは、見ているだけでわかるよ・・・。やっぱり、大好きだ。叶わないとわかっていても、伝えてはおきたいな。
更に翌日。イザヤールが、兵士長に用があってセントシュタインの城に行ってきて、帰るところだった。建物の陰から、例の客が静かに滑り出てきた。
「あの・・・少しお時間頂けますか」
その思い詰めた、切なそうな様子に、イザヤールは承諾の意を込めて頷いた。
「これを」
手紙のような物を渡されて、イザヤールはまた頷いて言った。
「わかった。必ずミミに渡しておく。・・・ただし、ミミを渡すつもりは金輪際ないが」
すると相手は、また切なそうにうつむき、やっとのことで呟いた。
「いえ・・・あなたに、なんです・・・」
「・・・は?!」
あまりに思いがけない言葉に、イザヤールは一瞬呆然とし、聞き間違いかと思ってまじまじと相手を見つめた。
「あなたはボクのことを知らないのは当然ですよね。ボクは、以前あなたに護衛してもらった隊商の長の・・・娘です・・・」
イザヤールはそれを告げられて更に呆然とした。何故気付かなかったのかと己の観察力の甘さに呆れ、サンディが言いかけていたのは「女の子」という言葉だったのだろうと思い当たった。
「そ、そうだったのか、私はてっきり・・・。これはたいへん失礼した」
「いいえ。ボクは元々女にしては背丈があって痩せぎすだし、跡取り息子が欲しかった父の教育の名残クセで『ボク』って言ってしまうし、旅だからってこんな身なりだし、間違われて当然です。て言うか、男装していたつもりでしたからよかったです」客は・・・彼女は恥ずかしげにくすりと笑って話を続けた。「ボクは、あなたが居た旅の間ずっと馬車の中に居て、幌の隙間から、父やみんなを守ってくれるあなたをずっと見てて、感謝してました。
でも、それ以来あなたのことが忘れられなくなって。ボクは親が決めた婚約者も居るし、どうにもならないけど、あなたがどんな暮らしをしているか見たくて、セントシュタインに来てしまいました。そうしたらあんなすてきな人が、あなたの傍に居て。
ボクは彼女に、ミミさんに聞きました。幸せか、って。そうしたらミミさんはとってもって答えてくれて。その笑顔見てたら、そんなミミさんと一緒に居られるあなたもきっと幸せなんだ、よかった、って素直にそう思えました。やっぱりちょっと寂しい気持ちもあったけど。
でも、ほんとあのときびっくりしましたよ。あなたとお話したいとは思ってたけど、心の準備ができてないうちにいきなりあなたが酒場でずんずん近づいてきたときは、もうパニックになっちゃって。思わず逃げちゃいました。
でも、今日は・・・。故郷に帰らなくちゃいけなくなったから、ちゃんとお話しようって、心に、決めて・・・」
そこまで言って彼女がまたうつむいたので、イザヤールは静かに口を開いた。
「私はその想いに応えることはできないが、ありがとう。君も君の幸せを見つけられるよう、願っている」
彼女は顔を上げた。その表情は、晴れやかだった。
「ありがとう。あなた方も、お幸せに」
彼女の立ち去る後ろ姿を見送って、イザヤールは手紙を開いた。
『大好きです。あなた方の幸せを、心から願っています』
簡潔だが優しさの溢れる言葉に彼は微笑み、そっと手紙をポケットにしまった。「あなた方」と書いてくれたということは、ミミにも見せて構わないのだろう。ミミは、どう思うだろうか。悲しませないなら、ほんの少し妬いてもらうのも悪くはない、と思うのは自惚れが過ぎるか。
それから程なく、通りの先に小さく、迎えに来てくれたらしいそのミミの姿が見えた。微笑んで手を振ってから、彼は足を速めて歩き出した。〈了〉
ルイーダの酒場の隅のテーブルで、冒険者カップルが、いつものように仲良くグラスを傾けている。
男の方は、程よく逞しい体躯に剃髪、整った顔や雰囲気は精悍で一見怖そうだが、傍らに座る恋人を眺める眼差しはとてもあたたかく、優しい。その目を見つめ返す美しい濃い紫の瞳は、彼に劣らず愛しさに溢れて潤んでいる。瞳の持ち主は、一見華奢でやや小柄なのに悩ましい肢体を持つ娘だ。
男が何か囁き、彼女は見た者まで幸せになるような愛らしい微笑みを浮かべ、ほんのりと頬を薔薇色に染めた。その笑みに彼もまた、幸せそうに微笑んだ。
そんな二人を、少し離れたテーブルから、そっと見つめている者が居た。魔法に従事している者なのか、フード付きの足元まで覆うマントを着ている為、中背で半分程覗いた顔が、繊細でなかなか整っているということしかわからない。その人物は、小さく溜息をつき、心の中で呟いた。
あの人がああして微笑むのを見るだけで、ボクはとても幸せだけど。でも・・・一度でいい、お話してみたいな。
翌日、リッカの宿屋の宿屋のカウンター内では、最近よく来る客のことが密かな話題になっていた。
「ねえルイーダさん、あのお客さん、また来てるね」
リッカが小声で囁いた。
「誰だれ?ああ、あのフードを深くかぶっている長いマントの人。あの人、冒険者風だからてっきりうちに登録に来ると思ったのに、そんな様子ないのよね」
ルイーダが答え、不思議そうに首を傾げた。
「そうなの。あのね、あのお客さん、ごはんをよく食べにいらっしゃるけど、泊まっていったことはないの。それも不思議。お料理が気に入ってくれたのかもしれないけど、でも・・・あんまり食事に興味なさそうっていうか、上の空っていうか」
リッカもまた腕組みして首を傾げる。
「ねえロクサーヌ、あなたのお店のお客?」
ルイーダがロクサーヌに顔を寄せて囁くと、ロクサーヌは首を振った。
「いいえ。一度、アクセサリーフェアの時にいらしたんですけど、『どれもあの人のイメージとは違うな』とおっしゃって、それ以来はいらっしゃいませんの」
「好きな人への贈り物探しに来てたのかな?」
リッカがわくわくと顔を輝かせた。
「そのようですわね。どんな方への贈り物をなさりたいかおっしゃってくだされば、相応しい品をお探ししますのに」
「まあ用がなきゃ来ちゃいけない、ってことはないから、悪いことしない限りあんまり詮索しちゃダメよね。さ、仕事、仕事」
話題の主の客は、テーブルの上の空のグラスに物憂げに触れて、じっとエレベーターの方を見ていた。そのフードの下の視線の先には、エレベーター係と楽しく談笑しているミミとイザヤールが居る。
ここに泊まることも考えたけど。あの人が同じ屋根の下に居る、しかもあの人の恋人と互いの腕の中に居るかもしれない、それを考えるだけでボクは・・・。苦しくなって落ち着かなくなる。
数日後。イザヤールは、リッカの宿屋のロビー兼ルイーダの酒場に降りてきて、目に入った光景に、片方の眉を僅かに上げた。二人用のテーブルに、この頃よく見かけるフード付きマントの客が座っている。その傍らにミミが立っていて、何やら話をしている。食事や飲み物のオーダーにしては長いような気がする。
イザヤールは思わずその客を観察した。長いマントに覆われているが、テーブルの上に置かれている手は、やや大きいがほっそりと繊細で芸術家の手のようだ。今日はミミを見上げて話している為か、フードがいつもより若干上がっていて、繊細な横顔の輪郭がくっきり顕だった。切れ長の目も筋の通った鼻も、優しげな顎もなかなか美しい。
ミミが何だか少し困っているようだったので、イザヤールは急いでそのテーブルにつかつかと近寄り、声をかけた。
「ミミ、どうした。お客様、何か失礼がございましたか」
イザヤールが近寄った途端に客は弾かれたように立ち上った。それでミミの隣に立つ形になって、すらりとした中背だとわかった。それから僅かに顔を赤らめて唇を噛みしめ、呟いた。
「いえ、何も。ボクの方こそ、失礼しました」
僅かにかすれた落ち着いた声もまた、なかなか魅力的だった。客は、飲み物代をテーブルに置くと、止める間もなく急いで立ち去ってしまった。
「やだイザヤールさん、またミミに絡むナンパ客を怖がらせちゃったワケ?」
ちょっぴりからかい口調でサンディが言った。
「脅したつもりは一切ない。ごく丁寧に対応したつもりだ」
「イザヤールさんが足早に寄ってくるだけでじゅーぶんキョーハクだっつーの」
「サンディ、やめて。見ていたんだから、ナンパじゃないってわかっているでしょ」
ミミが哀願するように言うと、サンディは目をぱちぱちさせた。
「ん~、でも、ナンパかもよ~。今どきはわかんないって、お・・・」
サンディがまだ喋っている間なのに、イザヤールが静かな、だが迫力ある声で尋ねた。
「サンディ。教えてくれないか。あの客が、ミミと何を話していたのか」
「わー!だから~、その顔と声が怖いっつーの!」
「こんなに穏やかに丁寧に尋ねているだろう?」
イザヤールは、まだ迫力ある声で喋っていたのだが、目は笑っている。逆に彼にからかわれていることに気付いて、サンディはふくれた。
「なんだ、怒ってないんじゃん!教えてやんない!」
「すまんすまん。ミミ、聞いても構わないか」
「はい」ミミはこくりと頷いた。「あのお客さん、初めは何かお天気の話とかしてて、それから私にお料理やお裁縫はできるかとか呪文は使えるかとかいろいろ聞いてきて、そして急に、不思議なことを聞いてきたの」
「不思議なこと?」
「聞いてきたんです・・・『キミは、今、幸せ?』って。私、突然そんなことを聞かれて戸惑ったけれど」ここでミミはほんのり頬を染めた。「普通に答えてしまったの。『はい、とっても幸せです』って。そうしたらお客さんは、『そうか・・・』ってどういうわけか何だか寂しそうな顔をして、それで困っていたところにイザヤール様が来てくれたの」
「そうか・・・」
「やだ、イザヤール様までそうか、って言うの?!」
その頃、件の客は、セントシュタインの教会方面の路地を急ぎ足で歩いていて、ようやく歩調を緩め、息を吐いて立ち止まり、呟いた。
「ああ、びっくりした・・・」
彼女はやっぱり、とってもすてきな人だった・・・。それにしても、ほんとにびっくりしたな・・・。
一方ルイーダの酒場では、ミミがリッカに呼ばれてちょっとその場を外したので、イザヤールは空いたそのテーブルに腰かけ、少し考え込んだ。
ミミはさっぱり気付いていないようだが、あの客はほぼ間違いなく、ミミに好意を抱いているのだろう。端から見たら、如何にも戦士風のごつい体格の自分より、すらりとした繊細な美貌のあの青年の方がお似合いに見えるかもしれない。だからといって、ミミを渡す気はさらさらないが。
「イザヤールさん、妬いてんの~?」
先ほどの逆襲からかい返しとばかりに、サンディがニヤニヤしながら言った。
「妬いてはいない。気になることは否定しないが」
「ま、妬く必要ないと思うケドね~。あの客は、お・・・」
ここでミミが戻ってきたので、この話題は慌てて打ち切りとなった。
教会の礼拝堂で、例の客は、物思いにふけって硬いベンチに座っていた。
・・・見ていると、もちろんわかるよ。あの二人はとっても幸せで、ボクが入り込む隙間なんかないって。ましてや、ボクはあの人のこと、ほとんど何も知らないのに。でも、あの人がとっても素晴らしい人で、とっても優しいんだってことは、見ているだけでわかるよ・・・。やっぱり、大好きだ。叶わないとわかっていても、伝えてはおきたいな。
更に翌日。イザヤールが、兵士長に用があってセントシュタインの城に行ってきて、帰るところだった。建物の陰から、例の客が静かに滑り出てきた。
「あの・・・少しお時間頂けますか」
その思い詰めた、切なそうな様子に、イザヤールは承諾の意を込めて頷いた。
「これを」
手紙のような物を渡されて、イザヤールはまた頷いて言った。
「わかった。必ずミミに渡しておく。・・・ただし、ミミを渡すつもりは金輪際ないが」
すると相手は、また切なそうにうつむき、やっとのことで呟いた。
「いえ・・・あなたに、なんです・・・」
「・・・は?!」
あまりに思いがけない言葉に、イザヤールは一瞬呆然とし、聞き間違いかと思ってまじまじと相手を見つめた。
「あなたはボクのことを知らないのは当然ですよね。ボクは、以前あなたに護衛してもらった隊商の長の・・・娘です・・・」
イザヤールはそれを告げられて更に呆然とした。何故気付かなかったのかと己の観察力の甘さに呆れ、サンディが言いかけていたのは「女の子」という言葉だったのだろうと思い当たった。
「そ、そうだったのか、私はてっきり・・・。これはたいへん失礼した」
「いいえ。ボクは元々女にしては背丈があって痩せぎすだし、跡取り息子が欲しかった父の教育の名残クセで『ボク』って言ってしまうし、旅だからってこんな身なりだし、間違われて当然です。て言うか、男装していたつもりでしたからよかったです」客は・・・彼女は恥ずかしげにくすりと笑って話を続けた。「ボクは、あなたが居た旅の間ずっと馬車の中に居て、幌の隙間から、父やみんなを守ってくれるあなたをずっと見てて、感謝してました。
でも、それ以来あなたのことが忘れられなくなって。ボクは親が決めた婚約者も居るし、どうにもならないけど、あなたがどんな暮らしをしているか見たくて、セントシュタインに来てしまいました。そうしたらあんなすてきな人が、あなたの傍に居て。
ボクは彼女に、ミミさんに聞きました。幸せか、って。そうしたらミミさんはとってもって答えてくれて。その笑顔見てたら、そんなミミさんと一緒に居られるあなたもきっと幸せなんだ、よかった、って素直にそう思えました。やっぱりちょっと寂しい気持ちもあったけど。
でも、ほんとあのときびっくりしましたよ。あなたとお話したいとは思ってたけど、心の準備ができてないうちにいきなりあなたが酒場でずんずん近づいてきたときは、もうパニックになっちゃって。思わず逃げちゃいました。
でも、今日は・・・。故郷に帰らなくちゃいけなくなったから、ちゃんとお話しようって、心に、決めて・・・」
そこまで言って彼女がまたうつむいたので、イザヤールは静かに口を開いた。
「私はその想いに応えることはできないが、ありがとう。君も君の幸せを見つけられるよう、願っている」
彼女は顔を上げた。その表情は、晴れやかだった。
「ありがとう。あなた方も、お幸せに」
彼女の立ち去る後ろ姿を見送って、イザヤールは手紙を開いた。
『大好きです。あなた方の幸せを、心から願っています』
簡潔だが優しさの溢れる言葉に彼は微笑み、そっと手紙をポケットにしまった。「あなた方」と書いてくれたということは、ミミにも見せて構わないのだろう。ミミは、どう思うだろうか。悲しませないなら、ほんの少し妬いてもらうのも悪くはない、と思うのは自惚れが過ぎるか。
それから程なく、通りの先に小さく、迎えに来てくれたらしいそのミミの姿が見えた。微笑んで手を振ってから、彼は足を速めて歩き出した。〈了〉
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