京成佐倉駅の改札を出たところに国立歴史民俗博物館(歴博)の催し物を案内するチラシを入れるボックスがある。このボックスに歴博付属「くらしの植物苑」で、5月16日から月末まで伊勢ナデシコを展示するというチラシがはいっていた。
ナデシコについて、響きの良さのせいか、ことばは頭に入っているものの大分長い間、実物と結びつかないで過ごしてきた。昔の日本女性を表現することばに「大和なでしこ」があり、清楚で穏やかで芯の強い女性というイメージがある。でも、「大和なでしこ」から目に浮かぶ女性がいないように、ナデシコという花がどんなものか、すっかり忘れていたのである。
この数日、雨の日が続いていたが今日は快晴で気持ちが良かった。思い立って「くらしの植物苑」に行ってみた。
「くらしの植物苑」にはナデシコについて詳しく説明する印刷物があった。以下にそれを記す。
「じめじめした梅雨に入る前に、日本ではすがすがしい初夏という季節があります。この季節にも歴史の古い古典植物があります。それがナデシコ(撫子)です。日当たりのよいやや乾いた場所を好むナデシコは、清楚で奥ゆかしい美しさをかもしていて、この季節にぴったりの植物です。」
「ナデシコの歴史
秋の七草に数えられるナデシコは和名を「力ワラナデシコ」といい、北海道を除く山野や河原に広く分布する多年草です。その優美で気品ある姿は人々に親しまれ、絵画や美術工芸品に至るまで数多く登場しますが、ときにその花形や色彩は多様性にあふれ、野生型にない姿をしているものがあります。これは、古い時代に中国大陸から薬用として渡来した「セキチク」が同じ庭先に植えられていたことが要因のひとつといわれています。力ワラナデシコとセキチクは、同じナデシコ科ナデシコ属の植物であるため、非常に交雑しやすく、簡単に雑種が生まれていきます。江戸時代後期、この雑種群のなかから選抜改良された花弁の長い品種がとくに珍重されました。伊勢地方で作出されたことから伊勢ナデシコともいわれています。献上品にもなったことから御所ナデシコの名前でも知られ、門外不出とされて厳重に守られてきました。」
「鑑賞法
花弁が深く切れて長く垂れ下がったナデシコは、少しの衝撃にも傷みやすいため・床の間や座敷などに置いて、正座して鑑賞するのが本来の鑑賞法です。一鉢一花仕立てで、後に一鉢三花仕立てとなってきましたが、いずれも花の色合いと優美な形、均整のとれた立ち姿を鑑賞します。鉢から数メートル離れて正座したときに目の高さに開花し、葉は黄緑色で巻きが強く下から着き、花は蛇の目模様のないもの、花も葉もより細くて長いものが極上とされました。
このようなナデシコは、つぼみのなかで花弁がからまってうまく開かない場合があり、このときには傷をつけないよう一本ずつ丁寧にのばしていかねばならないため、この技術も竸われました。開花中は、風雨はもちろんのこと日光までも避け、少しでも鑑賞期間を長くするための配慮が必要とされました。」
どうも、技巧に走りすぎてお金持ちのお道楽といった感もある。わたしにとっては、もう少し素朴な花のほうが性にあうようだ。