goo blog サービス終了のお知らせ 

物書きひとすじ!時には寄り道、迷ったり、直進したりして、人生は面倒で悲しく楽しくて。

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ海を眺めて哲学者にはなれないのですが、いつも物を考えていますよ。

父の働く姿

2020-03-07 17:05:10 | 自伝風小説
父の働く姿 
 自作農のわが家では、篤農家の祖父母はとてもよく働いていたが、嫁の母は農業嫌いだし父は家には寄り付かずに定職もないから私は父の働く姿は、ほとんど見ていない。スイカ畑を広く耕作したことがあり、若者たちに盗まれると言うわけので番小屋を建てて夜は見張っていたが、採れたスイカを食べた記憶はない。売り物だから失敗作だけを家に持ち帰ったのだろう。
 父がとてもよく働いているのを見たのは、姉の結婚費用を捻出する時だった。その日ぐらしのわが家には、借金はあっても貯金は1銭もない。父は、戦災で裏に住んでいた仕事のないIさんに手伝ってもらって山林から薪を切り出して売ることを編み出した。夕方になるとリヤカーに山のように薪を積んで帰って来たことを覚えている。また冬には、炭窯を築いて炭づくりに精を出した。この作業は夜も寝ずに火の番をしたりするから大変だが、当時はとても高価に売れたからだいぶ稼ぎがあったようだ。
 後に私が俳句を創るようになり「炭負ひの垂るる双手も灯へ急ぐ」が「俳句」(角川出版)誌の特選に選ばれたのもこの情景がもとである。
 子どもの私が父の必死で働く姿を見たのは、この時だけである。
 父は長女を「やよぼう、やよぼう」と呼んで深く愛していた。姉も父には幼時から苦労をかけられていたであろうが、幾つになっても「おとっちゃん、おとっちゃん」と、なついていた。それは、父が誰にも温厚で優しい人柄の持主だったからであろう。

最新の画像もっと見る