神戸学生手話サークル「それいゆ」

関西の大学手話サークル同士の意見・情報交換や、交流の場となることを目的に活動しています。

「学生」を切り口に見た、聴者にとって手話ってなんだろう たね

2023年07月25日 | コラム


こんにちは。たねです。
前回と同じ写真の使いまわしをしています。
一連のコラムと分かりやすくなればいいなと思ってやっているだけで、深い理由はないです(笑)

 

さてさて、近日と言いながら、第1章を書いた翌日に、卒業コラム第2章です。正直書いてて疲れました(笑)

前回は、「私からみて、手話の変わったところと、変わっていないところ」というテーマでした。
今回は、私が長いこと所属してきた「学生手話コミュニティ」という視点から、「変わったところ・変わらなかったところ」を書きたいと思います。

 諸注意に関しては、前回のコラムで述べたので、出来ればそちらのコラム(こちら)を読んでから、本編を読んでいただくことをお勧めします。

 なお、再度強調しますが、これはあくまで一個人の経験と意見を語るものであり、十分手話を取り巻く社会実態を反映できていないことがあります。その点を理解していただいたうえで、見ていただくようよろしくお願いします。

では早速本編です。始まり始まり~。

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学生手話コミュニティの間で「変わったところ・変わらなかったところ」
 かれこれ、大学に入学し、学生手話コミュニティに携わって7年目になりました。大ベテラン過ぎて、引いています…。数字の持つインパクトの強さよ…。

 さて、昨今の新型コロナウイルスの影響がいろんな場面で取り上げられるようになりました。無論、学生手話コミュニティにも大きな影響をもたらしたと思います。ですが、コロナ以上に、この7年の時間軸ではもっと大きな変化が起こっていると思います。
(大学生の時の経験については、過去のコラム(こちら)で書いているので是非ご覧ください。)
(新型コロナの影響について考えたコラムがある(こちら)ので、是非見てみてください。)


さて、変わったと思うところです。

変わったところ①
手話の文法に興味を持つ学生が増えた。
 私的には、手話に興味を持つ学生の、興味の対象が変わったという印象を持ちます。私が大学1年生の時には、どちらかと言えば対応手話が中心であり、日本手話のことを考える機会は少なかったです。

 そして、
周りにも「言語としての手話」に興味を持つ学生が多くなかったと思います。学生同士で会って話したとしても日本語対応手話を使って話していました。そして、いろんな本を見ていても、自分が普段使っている手話とはどうしても別のように感じてしまって、ハードルが高いように感じていました(後に、様々な選択肢を見なければ…と思い立ち、日本手話の勉強も始めることになりますが…)。

 そんな環境で過ごしてきたので、手話という言語をより深く学習しようとするための手段に、なかなかアクセスできる状況ではありませんでした。そのため、自分の中で「日本手話」という新しく言語を身に付けるためのハードルを高く設定していたと思います。
 ですが今はどうでしょうか。多くの学生が手話の文法書の存在を知っていたり、ネットやSNSを通して独学で勉強している人を見かけるようになりました。

大きな変化ですね。やっぱり、手話を学ぶための「周りの環境」って大事だなと思います。


(2023年に若い学生の人と、手話の講演会に参加した時のたね)


特に印象に残っていることというか…。
最近私が聞かれた質問で、一番印象に残っていることと言えば

「この口形ってどういう意味ですか?この口形、実際に見たことありますか?」

独学で口形という細かいところに注意できる人がいるとは…びっくりです…。「silent」「星降る夜に」、当事者インフルエンサーたちのSNSでの発信、オンライン手話講座の充実など…いろんな活動の成果なのでしょうか。何が原因かは分かりませんが、手話が社会的に広まっていることはとても良いことだと思います。

 その波に乗り遅れないように、大ベテランの私も若い人たちと並走していきたいと思います(/・ω・)/

変わったところ②
手話サークルに関わる学生が少なくなった。
 先ほど書いたことと逆に感じるかもしれませんが、手話を言語として興味を持つ学生が増えれば増えるほど、手話サークルに参加する学生が減っていったと感じます。

 私の経験からその理由を考えると何となく楽しむ手段だった言語」が、急に言語であることを強調するあまりに「真面目な雰囲気になり、馴染めない」と感じ、手話を始めるためのハードルが高くなった…のかなと感じます。

 具体的に言うと、「通訳者になる/通訳者をやる・言語に興味を持つ人」と「全然知らない人(無関心で去っていく人)」の間くらいの層…というイメージでしょうか。自ら手話を積極的に使っていくことはないけど、「まちなかでろう者に道を聞かれたとき手話でやりとりできる」「筆談・音声認識アプリ以外のやりとりもできる」みたいな人たちが少なくなったと感じます。

(2018年度の写真より。この時の活気はどこへ…
 

 それくらいの感覚の人からすれば、言語学習というのはハードルが高く、「ゆるーく会話できたらいいのに…」「気軽に始められるものだと思っていたのに…」というマイナスな方向に繋がっていくのでしょう。

 手話の言語的側面を推しだす昨今の社会情勢を考えると、これからの手話サークルの運営を行う人たちは、「コミュニケーション」と「言語」の両方の面で手話を考えて、メンバーと関係を作っていかなければならないのだろうと思います。そして、その2つの間で時には楽しみ、時には迷い、戸惑いながらサークル運営が続けていくのだと思います。

 当事者からしたら、このような中間層の人たちをどう感じるのか、と思います。
「だったらもっと勉強してほしい」なのか「そういう人が増えたらいいね」なのか、「中途半端でわかりづらい手話をされるくらいなら筆談のほうがマシ」なのか…。

この「言語」と「コミュニケーション」の間で当惑する、という問題の解像度を上げていくには、当事者の方たちの意見も重要なものになっていくのだろうと思います。積極的に発信していって欲しいと思うと同時に、自分からも色々情報を集めていきたいですね。

 

変わっていないところ①
手話を使って、仕事を見つける人は限りなく少ない。

 以前ブログ(こちら)で書きましたが、若い学生手話コミュニティーの人の多くは、学年が上がるにつれて手話という言語から離れていきます(それは、先ほど述べた中間層の人々なのかもしれませんが…)。
私の中で、手話から離れる人の理由は、はっきりしています。

突然ですが、ここで皆さんに質問です。
就活を始める前の学生が目の前にいたとして、

その人は
・TOEIC試験のための英語の勉強
・全国手話検定1級のための手話の勉強
どちらを勉強するするでしょうか?

そしてもう一つ質問です。
英語、または手話を主に使う働き口(アルバイトを除く)どちらが多いでしょうか?


一般的に多くの人は、英語の勉強を選び、そして英語を使った働き口が多いと考えるでしょう。

それは、手話という言語よりも、英語を使う人が世の中には多くいて、需要がはっきりしているからだと思います。

私は実際、大学1年生で手話をやめた人から、この様に言われたことがあります。
「英語と中国語を学ぶ方が自分の将来につながるので、手話はやめます。」

 手話を始めたばかりの人が、現状の社会で手話を使った
「具体的な働き口」として、「手話通訳士」「ろう学校の先生」以外をイメージできるでしょうか。多くの人、いやほとんどの人はイメージできないと思います(接客業というのは抽象的すぎるので書いていません)。

手話を始める全員が全員、通訳や教育に興味を持っているわけではありません。
よっぽど手話が好きではない限り、「手話に合わせた働き口(通訳やろう学校教員)を考える!」という聴者はほとんどいないのが現状でしょう。また、手話通訳だけで食べていける人が現状ほとんどいないなかで、手話を使って就職するには、それ相応の覚悟が必要になると思います。
(一部、若年層の手話通訳者養成事業というのが行われていますが、いずれにせよ、その事業のお出口としてなにが整備されているのかは、疑問です。)


(歴代のスタッフたちは、どうだったんでしょう…。)

つまり、問題として
「生活・生計を立てること」を求める若い聴者たちの中で、手話が「生活・生計を立てる手段」として成り立っていないから、優先順位が低くなっている。
ということがあると思います。

 受け皿となる「働き口」や「適切な評価」がないのであれば、学生が手話から離れていくのも理解できます。また、「手話」というスキルを身に付けるためには、かなりの時間を要するので、今まで学習してきた英語や、他のことをしたくなる人が多くなるのも理解できます。

 もし、ろう者の中で「聴者に手話を広めたい」と思っているのであれば、私なんかは「手話を通訳という仕事だけではなく、もっと他の仕事でも活かせる(例えば、企業の人事採用)ように仕事を作っていかないといけない。そして手話スキルの社会的評価を上げられるように働きかければいいじゃないか」と思ってしまいます。

 受け皿となる「社会」が手話の需要に気が付いてないだけであれば、社会にアプローチしていくことで「働き口問題」は解決するという考え方です。

 ただ、それが難しいのが現状なんだと思います。それが私の思う「変わっていないところ②」に繋がります。

変わっていないところ②
学習手段の選択肢が現状の社会状況にそぐわない
 この課題を考えていくと、通訳者の高齢化問題にも繋がっていくと思います。

 多くの若い聴者は、大学の手話サークルで手話を学びます。そして、大学卒業後に多くの人は仕事を始めます。さて。聴者はどうやって手話を学ぶでしょうか。

 現状、手話を学ぶ主要な手段として
「手話奉仕員養成講座」や「手話通訳者養成講座」がいまだにメジャーな方法となっています。この講座自体は、(地域にもよると思いますが)平日の昼間とか夕方に開催されることが多く、聴者とろう者がペアで教えているというのをよく聞きます(この講座自体に対する悪い噂がありま
すが、本コラムの目的外なので書きません)。

 ですが、仕事をしながら学ぼうと思ったとしても、(ライフプランにもよりますが)「結婚」「家族の介護」「子育て」「家事」「仕事」「趣味」などによって、プライベートの時間をなかなか時間を取ることが難しく、そこに通えるのはそれらが落ち着いた世代(40代~50代)が多いです。

 となると、手話をスムーズに短時間で、きちんと体系的に学ぼうと思えば思うほど、(前回のブログでも述べましたが)「日本語の影響を受けていないろう者」にアクセスしていかねばなりません。しかし、つてもない人が「日本語の影響を受けていない聾者」に手話を教わろうと思うと、大抵の場合高額の受講料を払う講座に、何度も行かなければなりません。

ワーキングプアが叫ばれる昨今、そんな高額なお金を払い、「社会的評価が十分なされていない」手話を学びたいと思う若い人がどれほどいるのでしょうか。結局、手話を学ぶための手段というのは多様であったとしても、学ぶための手段が、聴者、あるいは社会側の実態にマッチできていない点があると強く感じます。


(そろそろ写真がなくなってきました…)

現状、そのような高額の講座を開設するろう者側からのアプローチは、

「お金を払ってでも学びたい人」に丁寧に教える、ということかもしれません。
そして、受講料が高額と感じるかもしれないけど、それこそが「適正な手話の社会的評価」なのかもしれません。

ですが、そこにギャップを感じてしまうあたり、私(や多くの聴者)のなかで「手話の社会的価値」を見誤ってしまっているというのが現状かもしれません。

「経済状況」と「手話の社会的価値」というのは密接に関わっていると思います。
だからこそ、この社会で、そして手話を使う人の中で「手話の社会的価値」というのを考えなければならないと思いますし、この環境で学ぶ聴者にとって、学びやすい環境が整えられていくことを願います。
そして、手話通訳者の高齢化問題についても、改善していけばいいなと思います。

ーーーー

ここまで長くなりましたので、改めて「学生手話コミュニティの中で変わったところ・変わっていないところ」の要点を整理します。

 若い学習者の中では手話が言語であるということが広まってきている。
しかし、「手話を学ぶための優先度が低い」人が多くおり、その人たちは手話から離れていく。
理由としては、「社会に受け皿がない(問題①)」、そして「手話を学ぶための手段が現状の社会状況や人の実態に則していない(問題②)」からだ、と私は書きました。
(もちろん、これは私見ですので、異論等あると思います。)


 手話を使った仕事や、それに対する需要が社会の中で定まっていない(議論されていない)のであれば、(自分のような)趣味として手話をして、生活を豊かにしている方が一定いることを前提としても、「聴者が手話を学ぶメリットは多くない」と言えてしまう気がします。そのままでいいのでしょうか。

ろう者からこのような問題意識を聞くことはほとんどありません。そして、聴者の中でも、この様な問題意識を聞くことはありません。

しかし、それではいけないと思います。
決して良くないと思います。

この問題を解決するためには、手話を取り巻く環境を変えなければならない。
「聴者が手話を学ぶメリットは多くない」と言われないために、何か働きかけていかないといけない。

私は、この様な実情を社会に伝えるべく、活動していこうと思います。ろう者にとっても、聴者にとっても「手話」という言語が必要とされるような社会になるために。


さて、ここまでたねの意見を述べてきました。
今見ている皆さんは、若い人の手話の学ぶ環境や、社会をどう見ているのでしょうか?このあたりを分け隔たり無く話していくことが、手話という問題の解像度を上げることに繋がると思います。ぜひ話しましょう。


ということでこれで2章は終わりです。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

書き疲れたので、しばらく間を開けて考えたいと思います(笑)
また第3章でお会いしましょう~。


2023.7.25  たね(種村光太郎)





 

 

 

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