枯淡

ざっくりと素肌にカシミアセーターを着るような旅でおわりにしたい/里

『短歌』

2022-07-25 17:11:06 | 短歌
野田里子歌集『紙と鉛筆ときみ』
 
    ほどいてはまた編みすすむセーターの胸のあたりで春がちかづく
 
 新聞歌壇の投稿からスタートした作者。セーターを編み直す中で寒さが緩んできたのか。残念に思うよりもどこかで弾んだような明るさがある。
 
  束ねたるミモザをだいてあなたへとむかっています青い空です
 
 こころみに息を殺して鍵をさす表札のないわたしの居場所
 
  はずしおく指輪は楕円の影をなし死者をみおくる霜月の午後
 
 一首目のようなのびやかで明るい歌が作者の持ち味なのだろうが、その中にすっと入る影のある歌に惹かれた。誰からも遠い居場所で心を休め、日常に戻るのだろう。
 
 
(令和4年5月2日 ミューズ・コーポレーション 税込一七六〇円)
角川『短歌』2022/8月号 歌集歌書を読む 後藤由紀恵
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『紙と鉛筆ときみ』

2022-07-19 20:52:54 | 短歌

『週刊新潮』7月21日風待月増大号で

俵万智さんが「新々句歌歳時記」で取り上げて下さっていました。

いちじくのジャムはもうじきできるのにいまだ探せぬ結句七文字/野田里子

「作歌あるある」に大いに共感した。言葉が見つからぬうちに、片付けが終わったり、料理が完成したりする。掲出歌の場合は、いちじくのジャム。香りに包まれつつ、心を煮詰めてみても言葉は探せなかった。けれど、とも思う。いちじくが経てきた時間は、花を咲かせ、実になるまでを含めてのこと。言葉だって、それくらいの時間をかけて探せばいいのかもしれない。『紙と鉛筆ときみ』(令和四年・ミューズ・コーポレーション)俵万智

『週刊新潮』7月21日風待月増大号より転載

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