野田里子歌集『紙と鉛筆ときみ』
ほどいてはまた編みすすむセーターの胸のあたりで春がちかづく
新聞歌壇の投稿からスタートした作者。セーターを編み直す中で寒さが緩んできたのか。残念に思うよりもどこかで弾んだような明るさがある。
束ねたるミモザをだいてあなたへとむかっています青い空です
こころみに息を殺して鍵をさす表札のないわたしの居場所
はずしおく指輪は楕円の影をなし死者をみおくる霜月の午後
一首目のようなのびやかで明るい歌が作者の持ち味なのだろうが、その中にすっと入る影のある歌に惹かれた。誰からも遠い居場所で心を休め、日常に戻るのだろう。
(令和4年5月2日 ミューズ・コーポレーション 税込一七六〇円)
角川『短歌』2022/8月号 歌集歌書を読む 後藤由紀恵
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