恒成美代子さんがブログで取り上げてくださっていました。
野田里子歌集『紙と鉛筆ときみ』/15首抄 足立尚彦
ボブ・ディランは知らんという夫といるそんなもんかも そしてこんごも
どうしたと、なんかあったと、元気かね。読者文芸載らぬわたしへ
川の辺のハクモクレンの花のようになんだかわたし跳べる気がする
うら話おもて話があるという地球に生きて生きて死ぬこと
こころみに息を殺してカギをさす表札のないわたしの居場所
凪いでいる大村湾は耀けど錆びて見づらい「クジラアリマス」
見あげれば白い犬なり啄木が見たかも知れぬゆきあいの雲
ふうせんをぽーんぽーんとうち合って介護ホームに夕日が弾む
パソコンを海で洗えば黙深く落ちてきそうな紺の夜の月
暗いとか存在感がないだとか言われて秋のエアコンのよう
やわらかな冬陽をあびるオカリナの中にあなたはまるまっている
こんな子が息子だったらうれしいと歯科医師をみる薄目あけつつ
両足を少し浮かして思うなりバランスボールの先の浮雲
すてたいと思う荷があるこの日ごろたとえば紙と鉛筆ときみ
東京にはためく五輪旗みるだろう今年地球にうまれる蝉は