千曲川のうた

日本一の長河千曲川。その季節の表情を詩歌とともに。
人生は俳句と釣りさ。あ、それと愛。

胡桃

2013年08月01日 | 千曲川の植物
  青胡桃しなのの空のかたさかな  上田五千石

千曲川の流域は胡桃の産地である。






普通に栽培されている胡桃はこんな感じ。今年は実の着きが悪いようだ。


こちらは川筋でよく見掛ける鬼胡桃。野生種で実はひとまわり小さくて先が尖っている。



  はるか来て雨の信濃の鬼胡桃   数馬あさじ



  蓼科は山なみやさし鬼くるみ   峰尾北兎



鬼胡桃は水辺に自生するのでその実は川に流されることも多い。川岸や中州の石に混じって落ちているのもよく見掛ける。
  あさきゆめみし水中の鬼胡桃   宮坂静生
  簗番の掃き残したる鬼胡桃    西村英子
  最上川簗簀に躍る鬼胡桃     粕谷容子

これらの句はよくその感じを捉えている。

鬼胡桃の実を拾い集めるのは難しくないが、これを割って食うのは大変だ。ともかく硬くて綺麗に割れないし、中の部屋割りが複雑なので上手く取り出せない。爪楊枝で僅かな身をほじくり出していると嫌になってくる。
ネットを検索すれば上手な割り方とかが出ているけれど、実際はどうやっても駄目なのだ。

  鬼胡桃割れぬを石と思ひ見る   山口波津女



知人から、丁寧に洗って干した鬼胡桃を1箱頂いたのだが、結局諦めた。
普通の胡桃を買った方がずっと良い。胡桃を入れた焼き菓子、胡桃だれの蕎麦。いいなあ。

ところで私はこの鬼胡桃を別名サワグルミとも呼ぶのだと思い込んでいた。しかしサワグルミは全く別のもので、そもそも食べられるような実はつかない。
世間には私同様これをサワグルミだと思っている人が多いようだ。あるいは地方的な名称としては定着している場合もあるかも知れない。

  野猿すら取らず鈴成り沢胡桃   某氏

例えばこれは、サワグルミと言いながら実際は鬼胡桃を詠んだものだと思われる。

  岩すべる水音へ垂る沢胡桃    伊藤敬子

こちらは多分サワグルミを詠んでいる句だ。

最後にオニグルミをもう1句

  痛きまで握り一茶の鬼胡桃    藤沢紗智子


木を植えた男について

2013年07月12日 | 千曲川の植物


わっちゃんは私の亡父の幼馴染みで、同級生で、碁敵で、生涯の友だった。

あのころ70歳くらいだったろうか、わっちゃんは、千曲川の河川敷に個人的に「自然公園」を作った。さまざまな動物を飼い、花を咲かせ、木を植えた。ドラム缶にペンキで「菊根分けあとは自分の土で咲け」という句を大書して立ててあった。
大勢の子どもとその母親が遊びに来て、山羊の子に草を食べさせたり、半ば野生化したニワトリを追いかけたり、兎を抱いたり、木陰で休んだり、サツマイモを掘ったりした。
しかしここは国有地で、そのような行為は個人には許可されない。この違法「自然公園」はたびたび河川事務所から撤去を求められていた。



わっちゃんは少々変人だった、といっても多分怒らないと思う。国と争いながらこの妙な公園を何年か続けていた。公園に集まったお母さんたちは、存続を求めて署名運動なども試みたものだった。
わっちゃんが死んで何年になっただろうか。「自然公園」は跡形もないが、わっちゃんの植えた合歓の木は大きく育っている。今は地元の方々が草刈りや木の世話をしてくれているようで、今年も咲き始めた。
この夏も、きっといい日陰を作ってくれるだろう。




オオブタクサ

2013年07月10日 | 千曲川の植物


ブタクサは明治時代の帰化植物、このオオブタクサは戦後の帰化植物だという。
オオブタクサ、漢字で表記すれば大豚草ということになる。「大豚の草」ではなく「大きい豚草」である、もちろん。クワモドキという別名もある。
いつからだろう、千曲川の河川敷でも大いに増えている。大きいものでは草丈3メートルを越えるので威圧感さえある。
例えば講談社の新日本大歳時記は、ブタクサを夏の季語としている。概ね8月に花が咲くので、開花期によっているのだろう。この写真は7月初め。季語で言えば「夏草」とか「草茂る」が相応しいところである。

さてこの写真を見ていただこう。この葉はだいぶ虫に食われている。 良く見ていただくと食害している虫が見えると思う。拙者は接写レンズを持っていないので拡大写真をお示しできないが、この虫はブタクサハムシというのだそうである。ブタクサの葉を食うのがブタクサハムシ。ある意味びっくりである。
 薔薇の木に薔薇の花咲く何事の不思議なけれど
という歌があるが、ブタクサハムシがブタクサの葉を食うのも「不思議なき」話だ。実にごもっとも。

しかし話は単純でない。前述のようにブタクサは明治時代、オオブタクサは戦後まもなくやって来たのだが、これらを食べるブタクサハムシは1990年代に渡って来たというのだ。この虫は日本にブタクサが繁殖していることを知ってやって来たのだろうか?
日本へ帰化したブタクサが景気よくやっとるという噂話を聞いて追ってきたのか。あるいはそんな話に騙されて連れてこられたのだろうか。私の頭の中では「満州の花嫁」とか、訳の分からぬ言葉が明滅する。

私は何十年もアレルギー鼻炎に悩まされている。スギ花粉には全く反応せず晩夏から秋がアレルギーシーズンなので、ブタクサは不倶戴天とも言うべき存在なんである。ブタクサハムシに声援を送りたいところだが、この写真でも分かるように、彼らはブタクサを食い尽くしたり枯らしたりはしない。ちょんちょんとつまみ食いしながら共存しているように見える。