ふと、時計を見ると、22時を回っていた。
私の目線を追って、ヒカルも時計を見る。
少しの間を置き、私たちはヒカルと目が合う。
「・・・ところでさ」
何?という表情でヒカルが眉を上げる。
「その・・・中々眠くならないんだけど、どうしたらいいのかな。夢を見ないといけないんだよね」
「うん。仕方がないわ。自然と眠くなるのを待つしか無い」
「あ、やっぱりそうなの?じゃあさ・・・」 . . . 本文を読む
私は、沈黙した。
少しの間、言葉を発する気が起きない。
あまりの事の重大さに、脳のヒューズが飛んでしまった、そんな感じかもしれない。
なぜ、自分の選択一つで宇宙が消えなくてはならないのか。未だ釈然としない。
かといって、目の前のヒカルや、変わってしまった橋爪部長やアサダさんが、こぞって自分をからかっているとも思えない。
ヒカルから聞いた話は、全て事実として受け止めなければならないの . . . 本文を読む
「そんな・・・!じゃあ宇宙の消滅は、もう始まっているの?」
慌てて問う私に、ヒカルははじめて、少しだけ焦りの色を隠せずに返す。
「巡りの影響が宇宙にフィードバックされるまでまだ少し猶予があるみたいだけど、恐らくそんなに時間は残されていないでしょうね」
私は安堵する間もなく、次の質問が頭をよぎる。
「・・・で、どうすればいいの?」
ようやく本題に入れることになり、ヒカルは一区切りつ . . . 本文を読む
その日の夜。自宅に約束の来訪者がやってきた。
やってきたのは、愛しの彼女、ではなく、謎の女性、ヒカル。
今日初めて会うまで全く見知らぬ人物なのに、今の私が置かれる状況を、一番良く理解してくれている。
なぜか?それは未だに判らない。
彼女は今、相変わらず涼しい顔をして、私の目の前に居る。玄関で簡単な挨拶を交わした後、部屋の中に上がってもらってから、特段会話が無くても . . . 本文を読む
「今は演技をしないでちょうだい。話がややこしくなるから」
三芳ひかるは、続けざまに声のトーンを抑えながら早口でそう言った。
私は、昨日、今日と、自分の記憶と現実とが一部結びついていない周囲の状況に、懸命に同調しようとしていた。そうでなければ、自分が自分であるという確証が揺らいでしまうような気がしていた。まるで、周囲の環境に合わせて自分の体の模様を変えて敵から身を守る、擬態するカメレオン . . . 本文を読む