ふと思い出したことがある。それは、高校2年の頃の話である。
他のクラスの男が、先生の車にバイクをぶつけて傷を入れたことがあった。先生は怒り、その男に「弁償しろ」と言った。うちのクラスのSは、その男の友人だった。男からそのことを聞いたSは、「どうしようか」とぼくに話を持ちかけてきた。
「修理代って、高く付くんやろ?」
「うん。7万かかると言われたらしい」
「7万かあ。大きいのう。一人じゃどうしようも出来んやん」
「そうやろ。どうしようか?」
「こういう場合は、カンパしかない」
「やっぱりそうなるか」
「それしかないやん」
「じゃあ、悪いけど、しんた集めてくれん?」
「え、おれが?何でおれが集めないけんとか。別にあいつと親しいわけでもないのに」
「頼むっちゃ。おまえ顔広いんやけ」
Sに押されて、結局ぼくは引き受けた。
翌日からぼくは箱を持って各クラスに出向き、「実は…」と先ほどの話をして、お金を集めて回った。
1週間ほどお金を集めた結果、何万かのお金が集まった。
「もう少しで目標達成やの」とクラスの連中と話していたときだった。Sが「しんた悪い。せっかく集めてもらったけど、いらんようになった」と言ってきた。
「えっ、何で?」
「先生が、『もういい』と言ったらしい」
「えっ?おまえ、この金どうするんか。もう返せんぞ。誰がいくら払ったか、もうわからんし」
「そうか。どうしようか?」
「『どうしようか?』、おまえが考えれ。おれは知らんぞ」
そう言って、箱ごとSに渡した。
Sも困ったようで、「しかたない。○○に預けて、どうにかしてもらおう」ということになった。
それから何日かたって、ぼくはSに「おい、あの金どうなったんか?」と聞いてみた。
「あ、そうやった。あの金どうなったんかのう」
「えっ、知らんとか?」
「おう、忘れとった」
「○○に預けるとか言ってたやないか」
「ああ、そうやった」
ということで、ぼくたちはその○○のところに行って、金の行方を聞いた。
○○は「ああ、そうやった。金預かってから、△△に預けたんやけど、その後は知らん」と言う。
その△△も、そのお金のことは忘れていた。
「××に預けたような気がするんやけど…」
話はどんどん広がっていった。
最後に聞いた人間は、「ああ、カンパの金やろ。しんた、おまえが集めよったやん。おまえ知らんとか?」と言った。
ぼくは「おれが知らんから、聞きよるんやろ」と言った。
「そうか。おれも知らん」
「・・・」
さて、あのお金は、いったいどうなったのだろうか?わかっているのは、ぼくたちが聞いて回った時、誰もがそのお金のことを忘れていたということだ。
誰も嘘をついている様子はなかった。いったいどこに消えたのだろう。30年来の謎である。
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