西川課長は壁の時計を見上げた。
「よし、じゃあ、そろそろ・・・」
西川は言って、机の上の書類を片付け始めた。清水と印旛沼も西川に倣って片付けを始めた。
「コーイチさん・・・」洋子が小声で話しかけた。「まだ退社時間まで一時間近くありますけど・・・」
「何かイベントがある時は、いつもこんな感じだよ」
「仕事はそっちのけなんですか?」洋子は呆れた顔でコーイチを見た。「そんな事で良いんですか?」
「う~ん、良いかどうかは分からないけど・・・」
「これも、この課の良い所・・・なんですか?」
「ま、そう言う事にしておこうよ」
洋子は椅子の背もたれに思い切りもたれかかった。背もたれがきしみ、大きく反った。
「親しくして下さるのは、とても嬉しいんですけれど・・・」洋子は右のこめかみを右の人差し指でつつきながら言った。「前に居た支社では全く考えられません」
「じゃ、課長、わたし着替えてきますわ」清水は大きなショルダーバッグを肩に掛けて言った。「場所は分かっていますから。では後ほど・・・」
「遅れないように」
西川は真顔で言って、右手を軽く振って見せた。
「清水さん、着替えてくるっておっしゃってましたけど、自宅は近いんですか?」
清水が部屋を出て行くのを見ながら、洋子はがコーイチに聞いた。
「え~と。たしか・・・」コーイチは腕組みをして考え込んだ。目が自然と寄り目になった。考え込んだ時のコーイチの癖だった。「清水さんのマンションは、ここから電車で二時間近く離れた所なはずなんだけど・・・」
「じゃあ、間に合わないじゃないですか!」
「それが、間に合うんだな。こう言うイベントがあると、清水さんは必ず着替えに戻るんだけど、どんな場所であっても遅れた事はないんだよ」コーイチは不思議そうな顔で、清水の出て行ったドアを見ていた。「・・・まるで魔法使いだよ」
「じゃ、課長のあの一言は・・・」
「多分、精一杯のジョークなんだと思う」
洋子はやれやれと言わんばかりに大きな溜め息をついた。
「それじゃ、私も・・・」印旛沼も立ち上がった。「林谷君に連絡したら『ぜひぜひ、お願いしまぁす』なんて言っていたんで、先に行って打合せをしておきます」
「分かりました。楽しみにしていますよ」
西川は笑顔で言って、右手を軽く振って見せた。
印旛沼はコーイチに近寄った。コーイチが顔を上げると、印旛沼はウィンクして見せた。
「逸子にも連絡しておいたよ。コーイチ君も来るって言ったら、夜の仕事、全部キャンセルするって言っていた」
「キャンセルなんて、そんな・・・」コーイチは心配そうに印旛沼に言った。「無理をさせちゃったんじゃ・・・」
ふとコーイチは鋭い視線を感じた。視線の主は洋子だった。コーイチをこわい顔でにらみつけ、机の上に置いた消しゴムを取り上げると、またきつく握りしめた。・・・なんだ、なんだぁ・・・ コーイチはなんとなく不安になっていた。
つづく
いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ
(ちなみに、プロフィール紹介の画像をご覧下さい。気が付いた方は私と同様に○○ファンの方ですね。)
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「よし、じゃあ、そろそろ・・・」
西川は言って、机の上の書類を片付け始めた。清水と印旛沼も西川に倣って片付けを始めた。
「コーイチさん・・・」洋子が小声で話しかけた。「まだ退社時間まで一時間近くありますけど・・・」
「何かイベントがある時は、いつもこんな感じだよ」
「仕事はそっちのけなんですか?」洋子は呆れた顔でコーイチを見た。「そんな事で良いんですか?」
「う~ん、良いかどうかは分からないけど・・・」
「これも、この課の良い所・・・なんですか?」
「ま、そう言う事にしておこうよ」
洋子は椅子の背もたれに思い切りもたれかかった。背もたれがきしみ、大きく反った。
「親しくして下さるのは、とても嬉しいんですけれど・・・」洋子は右のこめかみを右の人差し指でつつきながら言った。「前に居た支社では全く考えられません」
「じゃ、課長、わたし着替えてきますわ」清水は大きなショルダーバッグを肩に掛けて言った。「場所は分かっていますから。では後ほど・・・」
「遅れないように」
西川は真顔で言って、右手を軽く振って見せた。
「清水さん、着替えてくるっておっしゃってましたけど、自宅は近いんですか?」
清水が部屋を出て行くのを見ながら、洋子はがコーイチに聞いた。
「え~と。たしか・・・」コーイチは腕組みをして考え込んだ。目が自然と寄り目になった。考え込んだ時のコーイチの癖だった。「清水さんのマンションは、ここから電車で二時間近く離れた所なはずなんだけど・・・」
「じゃあ、間に合わないじゃないですか!」
「それが、間に合うんだな。こう言うイベントがあると、清水さんは必ず着替えに戻るんだけど、どんな場所であっても遅れた事はないんだよ」コーイチは不思議そうな顔で、清水の出て行ったドアを見ていた。「・・・まるで魔法使いだよ」
「じゃ、課長のあの一言は・・・」
「多分、精一杯のジョークなんだと思う」
洋子はやれやれと言わんばかりに大きな溜め息をついた。
「それじゃ、私も・・・」印旛沼も立ち上がった。「林谷君に連絡したら『ぜひぜひ、お願いしまぁす』なんて言っていたんで、先に行って打合せをしておきます」
「分かりました。楽しみにしていますよ」
西川は笑顔で言って、右手を軽く振って見せた。
印旛沼はコーイチに近寄った。コーイチが顔を上げると、印旛沼はウィンクして見せた。
「逸子にも連絡しておいたよ。コーイチ君も来るって言ったら、夜の仕事、全部キャンセルするって言っていた」
「キャンセルなんて、そんな・・・」コーイチは心配そうに印旛沼に言った。「無理をさせちゃったんじゃ・・・」
ふとコーイチは鋭い視線を感じた。視線の主は洋子だった。コーイチをこわい顔でにらみつけ、机の上に置いた消しゴムを取り上げると、またきつく握りしめた。・・・なんだ、なんだぁ・・・ コーイチはなんとなく不安になっていた。
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