お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 51

2024年07月20日 | ベランデューヌ

「……今頃、訊くの?」マーベラは呆れた顔をする。「遅くない?」
「あなたから言わなかったじゃないのよ!」ジェシルはマーベラを睨む。「ジャンとの再会に惚けちゃってたんでしょ? 状況も把握できないなんて、非常識極まりない女ね!」
「うるさいわね!」マーベラもジェシルを睨む。「あなただって、何にも言わないじゃないのよ! 石で攻撃してきちゃってさ! 乱暴の極みなくせに!」
「あれはアーロンテイシアの闘神の力が出たのよ! わたしがやったわけじゃないわ!」
「そう言うんなら、デスゴンだってわたしじゃないわよ!」
「どうだか……」ジェシルは嫌味な表情をマーベラに向ける。「あなたのそのねじ曲がった性格がデスゴンに好かれたんじゃないの?」
「じゃあ、あなたは暴力的な所がアーロンテイシアに好かれたようね!」
 二人は睨み合う。不穏な気配が漂い始める。
「あの……」ジャンセンがおずおずと二人に声をかける。「もう良いかな? これじゃ、何時まで経っても話が進まないよ。それにみんな怖がっているし……」
 ジェシルとマーベラは周囲を見回した。民たちは神たちの新たな戦いが始まるのかとこわばった表情だ。
「いいかい、二人とも」ジャンセンが言う。「和解をみんなに伝えるんだ。言葉は分かるよね? 言葉を伝えた後、手を取り合ってから互いの右頬をくっつけ合うんだ。そうすれば和解となる」
「それは知ってはいるけど……」マーベラは言うと、目を細める。「ジェシルとは何があったって絶対にごめんだわ!」
「わたしだって絶対イヤ!」ジェシルは頬を膨らませる。「歴史が変わっても良いわ。マーベラをぶちのめしてやるわ!」
「おいおい、良く考えてくれよ……」ジャンセンは二人を諭すように言う。「君たちの意地の張り合いで歴史が変わるかもしれないんだ。それだけじゃない。今、こうして目の前にいるみんなにもどんな影響が生じるか……」
 ジェシルとマーベラは民たちを見る。不安そうな顔が老若男女問わず並んでいる。二人は顔を合わせる。承服できない内容だったが、民たちの様子から、受け入れざるを得ない状況だ。二人はジャンセンにうなずいて見せた。二人は深呼吸をする。
「……民たちよ」ジェシルが厳かな口調で民たちに呼びかけると、笑顔を見せた。「デスゴンは去った。憑かれていた女と穏やかに話していただけだ」
「その通り」マーベラも笑顔を見せた。「もうデスゴンはいない。わたしはアーロンテイシアに感謝の言葉を伝えていたのよ」
 そして、ジェシルとマーベラは手を取り合った。互いに顔を寄せ、右頬を付けた。民は安堵の息を漏らす。「……でも穏やかにも感謝しているようにも見えないけどなぁ」ケルパムがそっとつぶやく。
「……この暴力女!」
「……何よ、非常識女!」
 頬をつけ合った際、ジェシルとマーベラは相手の耳元で囁いたが、民の歓声でかき消されていた。頬を離し、民たちへ笑顔を向けた。互いの唇の端が引き攣っていたのを誰も気がついては居なかった。
 と、再び茂みが揺れた。歓声が止み、揺れる茂みを皆が見る。茂みを割って出てきたのはマーベラと似た外見の青年だった。薄汚れた青色の繋ぎの作業着を着ており、ジャンセンと同じ様な鞄をたすき掛けしている。
「トラン!」
 ジャンセンとマーベラが同時に声を上げる。

 

つづく


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