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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 35

2022年08月07日 | 霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪
「麗子!」さとみは語気を強める。「ちょっと、麗子!」
 麗子は相変わらずアイにしがみついて震えている。さとみの声が聞こえたのかどうかは分からない。
「麗子、会長がお呼びだぜ」アイが麗子の肩に手を置いて言う。「しっかりしろ」
 しかし、麗子の様子は変わらない。アイが困った顔をさとみに向ける。幾度目かの『般若心経』が唱えられている。
「麗子、片岡さんの筒の蓋を開けて!」さとみが言う。「今が絶好のチャンスなのよ!」
「おい、聞こえたろう?」アイが麗子に言う。「それって、お前以外には出来なかったじゃねぇか」
「イヤっ! 怖いの!」麗子は目を閉じたままで叫ぶと、突然、すんすんと泣き始めた。「もう帰りたい……」
「麗子……」
 アイは困った顔でさとみを見る。
 百合恵が松原先生の所へ駈けた。上半身を松原先生に抱き起されている片岡を見る。
「先生、片岡さんは、まだのようね?」
「はい、よほど精神的な衝撃を受けたようですね。呼吸などは穏やかになったんですが、意識がまだ戻りません……」
 松原先生も困惑の表情だ。百合恵には全身がまだうっすらと青白い光に包まれている片岡が見えていた。この光が更に薄くなり、消えてしまはないと片岡の意識は戻らないだろう。
「松原先生」百合恵が松原先生の傍らにしゃがみ込む。「片岡さんのポケットに筒がありませんか?」
「筒、ですか……?」松原先生は怪訝な表情だ。「筒…… ああ、校長室で見たヤツですね! でも、どうして百合恵さんがその事を?」
 百合恵に話しかけられて一瞬晴れやかになった松原先生の表情が、また怪訝そうなものになった。
「色々と教えてくれる仲間が居るものですから」百合恵は笑む。その笑顔に松原先生は持って行かれる。「さあ、先生、探してみて下さいな」
 松原先生は片岡の上着の内外のポケット、スラックスのポケットと探る。何もない。手も見たが、何も持っていない。
「おかしいですわね、今日が決戦日だと言うのに、忘れるわけが無いわ…… ひょっとして……」
 百合恵は周囲を見回す。片岡は筒を既に手に持っていたが、さゆりの衝撃波を受けた時、手から離れてしまったのではないかと、百合恵は考えたからだ。百合恵はしゃがみ込んだ身をさらに低くして見回す。銀色に光る金属製だと聞いたので、何かの加減で光って見えないかと思ったのだ。しかし、曇天のせいで良く見えない。
「これじゃ見えないわねぇ……」百合恵はつぶやき、空を見上げる。「ちょっとだけでも雲が切れないかしら」
 と、南から風が吹いてきた。雲が動き始めた。星明りが屋上を浮かび上がらせた。
「ほほほ、天もさゆりを嫌っているみたいね」百合恵は言いながら見回す。「あった!」
 少し離れた所に、きらりと光るものがあった。百合恵はそこへと駈け出した。と、背中に強い衝撃を受け、百合恵は床に転がった。全身が痺れていた。何とか顔だけを衝撃の飛んで来た方へと向けると、さゆりが右の手の平をこちらへと向けていた。
「ははは! お前が見えたんなら、わたしにだって見えるんだよ!」さゆりは百合恵に向かって叫んだ。声はさゆりだけのものになっていた。黒い影は離れたようだ。「どうだい、動けないだろう? これだから、生身ってのは軟弱なのさ! もう一発喰らわせてやろうかい!」
 百合恵は悔しそうに唇をかむ。しかし、それ以上の事は出来なかった。
「おい、さとみ!」さゆりはさとみに言う。「動くなよ! ……まあ、動いても良いけどさ。動くとあの念仏娘たちにかましてやるだけだ」
 さゆりは左に手の平を朱音としのぶに向ける。二人は目を閉じて一心に『般若心経』を諳んじていて、さゆりの言葉が聞こえていないようだ。
「あ、そうだ!」さゆりは言うと、にやりと笑う。「両手から打ち出せば良いんじゃない! まだまだ、気は充分に溜まっているからね」
「やめてよう!」さとみは言う。「狙いはわたしなんでしょ? だったら、わたしを打てば良いじゃない!」
「あはは! 知らないの? お楽しみは最後まで取っておくものなのよ」さゆりは言うと、みつたちを見て、にやりと笑う。「お前たちも動かないでよ。わたしの打ち出す気はね、生身より霊体に効くんだからさ。お前たち、一瞬で消えちゃうよ」
 どうやら黒い影がさゆりと一体となった時、その力を取り戻させたか、それ以上にしたようだ。みつたちが悔しそうな表情をしている。
「待って……」
 さとみが穏やかな声で言う。
「何だい?」さゆりが言う。さとみの顔を見て、笑みを引っ込めた。「……どうしたの、そんな真面目な顔をして?」
「みんなには手を出さないで」さとみが言う。「あなた、って言うか、あの黒い影は、わたしが邪魔なんでしょ? だったら、わたしだけを倒せばいいじゃない」
「お守り着けてるあんたが、そんな事を言ってもねぇ……」
「分かったわ……」
 さとみは言うと、両手を首の後ろに回した。ペンダントを外そうと、留め具をいじっている。しかし、なかなか外れない。さゆりが呆れた顔で見ている。しばらくして、やっと留め具が外れ、鎖ごと勾玉を右手に持った。勾玉はまだ金色に光っている。
「それを捨てちまいなよ。見ているだけでくらくらしてしまうわ」さゆりが言う。「そうしたら考えても良いわ」
 さとみはしゃがんで勾玉を床に置いた。借りものをぞんざいには扱えない、そんな様子だ。床に置かれた勾玉は徐々に光を失っていく。
「さあ! わたしを倒して、そしてどこかへ行っちゃって!」
 さとみは言うと、両手を左右に大きく拡げ、目を閉じた。


つづく

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