「あれが……」
ジェシルはつぶやきながらゲートを見つめる。禍々しいほどに赤い。
「コルンディ!」ジェシルはコルンディを睨み付ける。コルンディはびくっと身を震わせる。「わたしたちやマーベラたちをこの世界へ送ったのは何故なの?」
「……ここにしたのわしだ」マスケード博士が申し訳なさそうな表情で言う。「アーロンテイシアとデスゴンの衣服を見つけてから、それら神々が生きた時代へと思いを馳せていた。そのうちにコルンディ君と知り合い、空間移転装置の事を知り、さらには、その頃は邪魔者と思っていた君たちを一度で葬り去る事が出来ると言われたのだよ。……ジェシル君についてはコルンディ君の提案だったな」
「やっぱりあなたの入れ知恵だったのね……」
ジェシルはコルンディを睨み、手にした草をコルンディの目の前で振ってみせる。コルンディはひたすら愛想笑いをしている。
「それで、わしはジェシル君の屋敷と、アロンサンデンの遺跡群の地下宮殿、いや、地下貯蔵庫にゲートの設置を提案したのだよ」博士は言うと大きなため息をついた。「……わしの話を素直に聞き入れて調査に向かう君たちだったが、今思えば、わしは考古学界の威厳を悪用した形になるのだな。……済まなかった……」
博士は頭を下げた。ジャンセン、マーベラ、トランも頭を下げた。無事に和解したわね、ジェシルは笑む。
「あ、そうそう……」ジェシルはふと浮かんだ疑問を博士に向ける。「わたしの屋敷の図面なんて、良くお持ちでしたわね」
「そう言った地図やら図面やらは無数にあるのだよ」博士は答える。「マーベラ君たちの様な専門家が探し出してくれたものもあるし、一般からの寄贈もある。ジェシル君の屋敷に関してはタルメリック評議員が、その他の資料も含めてかなりの量を寄贈してくれたのだ」
「叔父様が……」ジェシルは驚いたようにつぶやく。「……そう言えば、一時期やたらと屋敷に来てあちこちの部屋を見て回っていたけど、それらを集めるのが目的だったのね」
「ジェシルが持っていたら、ある日庭で燃やされていたかもしれないからな」ジャンセンがうなずく。「叔父さんの先見の明、正しい判断に感謝感謝だ」
ジェシルはジャンセンに向き直って言い返そうとしたが、図星なので何も言えなかった。
「空間移転装置は辿り着く場所と言うか、空間を設定すれば良いし、搬入はゲートを通せばできるのだから、大掛かりな作業はいらない」博士が続ける。「これは、様々な発掘現場へ投光器その他の機材を費用を抑えて搬入できるだろうとも思った。……君たちの事が済んだら、考古学界でも活用しようとコルンディ君とも話をしていたのだよ」
「でも、本当の目的は武器の性能テストだったんでしょ?」ジェシルはコルンディを睨む。「ここにあるレーザーライフルやパルスマシンガンみたいにね」
「出世の糸口にってのが一番の目的じゃないの?」マーベラもむっとした顔でコルンディを睨む。「あなた、考古学、いえ、歴史ってものをどう思っているのよ! 過去の世界で馬鹿な事をやったら、わたしたちの生きている世界が変わってしまうかもしれないのよ!」
「そうそう」ジェシルはうなずく。「コルンディ、変わってしまった世界じゃ、あなたは今日のご飯もままならない事になっていたかもしれないわ。あ、これから戻って宇宙パトロールに連行すれば、そうなっちゃうか」
ジェシルは言うと笑い出す。マーベラも笑い、傭兵たちも笑う。
「そうわならねぇよ!」座り込んだままのコルンディは顔を上げて反論する。「オレはこれでも優秀な技術者なんだぜ! 今の会社を追われても次の会社が待っているのさ!」
「そう……」ジェシルはすっと笑みを消した。「と言う事はあなたは危険人物って事ね。やっぱりここに置いて行くわ!」
「え? おい、なんて事を言いやがるんだ! こんな所に置いて行かれたら、どうすりゃいいんだよ!」
「じゃあ、一思いに首のロープを濡らしちゃう? その方が楽になれるわよ」
「おい、ジェシル!」ジャンセンが止めに入り、ジェシルの前に立つ。「いくら悪党で出世しか考えてない自己中心者で生きていてもしょうがない諸悪の権化みたいなどうしようもないヤツでも、それはひどくないか?」
「ジャン、あなた、無意識にひどい事を言っているわ」
「えっ?」
ジャンセンはジェシルが顎で示した方を見ると、すっかりと意気消沈したコルンディはじっと地面を見つめていた。
「まあ良いわ……」ジェシルはコルンディを冷たい眼差しで一瞥する。「ジャン、あなた、ナイフ持っている?」
「え? ああ、ナイフは必帯だよ……」
ジェシルに顔を向け直し、突然の展開に戸惑いつつも、ジャンセンは鞄の中を探りだす。今回はすぐに見つけたようで、鞄から抜き出した右手に折りたたみナイフが握られていた。ジェシルは右の手の平を上にしてジャンセンに差し出す。ジャンセンはその上にナイフを置く。ジェシルは顔をコルンディに向ける。何かを察したコルンディが立ち上がり、後ずさる。背中が壁に当たった。
「おい ジェシル! ナイフなんて、どうする気だ!」コルンディは必死の声を上げる。しかし、ジェシルは無言だ。「わかった! ここに置いて行けよ! その方がまだ命が助かるかもしれねぇからな!」
「だが、君の顔はベランデューヌにもダームフェリアにも知られてしまっておるぞ」博士が言う。「君を見つけても助けてくれるかどうか……」
「ひえぇぇぇぇ!」
コルンディは悲鳴を上げて、再び座り込む。
「な~にを一人でやってんのよ、コルンディ」ジェシルは小馬鹿にした様に言う。「ナイフは傭兵のみんなのロープを切るのよ。武器の入った箱も戻さなくちゃいけないからね」
つづく
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