「二人とも来てくれたんだ……」
さとみは、豆蔵とみつが示す険しい表情に、思わずごくりと喉を鳴らした。
「へい……」豆蔵が答える。「百合恵姐さんに来るようにって言われやしてね。まあ、用心棒代わりと思って来たみたんでやすがね……」
「何やら、只ならぬものを感じます……」みつが周囲を見回し、腰の刀の柄に手を掛ける。「以前より、時々感じていた妖かしの雰囲気が、今夜は強いですね……」
「……と言う事は、わたしたちが来るってことが分かっているからとか……?」
「そうかも知れやせんね……」
「前に探索した時に、誰かが居たようだって話だったわ」
「じゃあ、今夜も誰かが居やがるかも知れやせん」
「さとみ殿には悪いが、凶悪なヤツであれば……」みつは鯉口を切った。「斬ります」
「そんな危険な感じなの……?」
二人は無言でうなずいた。
「……百合恵さんも知っているのかしら?」
「知っておりやす。嬢様を迎えに行く前に、その事を話しやした」
「さとみ殿と他の娘たちの保護を頼まれました」
「そうなんだ……」さとみは朱音と一緒に歩いている百合恵を見ながらつぶやく。「百合恵さんも朱音ちゃんを気遣っているようね」
「へい、本当に、良く出来た姐さんですよ」
百合恵が振り返った。
「さとみちゃん、行くわよ」百合恵はそう言うと、にっこりと笑む。「お二人さんもよろしくね」
「へい!」
「承知!」
豆蔵とみつが力強く答える。さとみは霊体を戻した。
「え?」朱音が振り返る。朱音にはさとみがとことこと動き出した姿しか見えない。「百合恵さん、お二人さんって……?」
「ふふふ……」百合恵は朱音の肩に回した手に力を入れる。朱音ははっとしてぽうっとする。「さあね、何の事かしらね? とにかく、朱音ちゃんは、わたしから離れちゃダメよ」
「……はい……」消え入りそうな声で朱音が答える。耳元まで真っ赤になっていた。「……離れません……」
さとみは、鯉口を切って周りを警戒しながら歩くみつと、懐手をしながら何時でも石礫を放つ用意をしている豆蔵とに挟まれて歩いている。
一行は松原先生を先頭にして、教職員専用の通用口に着いた。
「あら、わたしの頃は、こういうドアはガラス張りだったわ」百合恵が言う。目の前のドアは重そうな鉄製だ。「突破する不届き者がいるからなのかしらねぇ……」
「そうなんですよ」松原先生は言いながら慣れた手つきで鍵を取り出す。「学校なんかに侵入しても、大したものはないんですけどねぇ……」
「わたしの頃には、テストの前日に忍び込んでテストを燃やそうとした同級生がいたわ」百合恵がくすっと笑う。その可愛らしい顔に松原先生は見惚れている。しのぶがちょっとだけむっとする。「その彼、普段から素行不良で、点数が悪いと留年確定だったの。でもね、普段から学校に来ないような生徒だったから、職員室が分からなくって、結局は何にも出来なくて帰ったのよね」
「そうれで、どうなったんですか?」
朱音が百合恵の隣できらきらした瞳で訊いた。百合恵は朱音を見つめる。
「ふふふ…… テストがほぼ白紙状態だったから、当然、留年よ。でもそれが不満で学校辞めちゃったわ」百合恵が笑う。「ところが、最近お店の傍であったのよね。中々羽振りのいい感じになっていて、幾つかお店を経営しているんだって言っていたわ」
「百合恵さん……」松原先生が割って入る。「……そう言うお話は、まだ未成年の、それも女の子には、ちょっと……」
「あら、これは失礼」百合恵は言うと微笑む。「でも、いずれは知るような話だわ」
「はぁ……」
松原先生は困ったような顔をした。百合恵はさとみに振り返り、ぺろりと舌を出して見せた。松原先生をからかっているのだ。みんなの緊張をほぐすためだろう。……こんな時なのに。さとみは呆れると同時に、危険にも動じない百合恵に尊敬の念も抱いた。
松原先生はぶつぶつ言いながら、ドアを開け、セキュリティを遮断した。先頭で松原先生が入る。
「さあ、入って下さい」
松原先生が言う。もうすでに豆蔵とみつが松原先生の隣に立っていた。やはり周囲が気になっているのだろう、きょろきょろとしている。
「百合恵さん……」
さとみが二人を見ながらつぶやく。
「ええ…… 今夜は何かありそうね……」
つづく
さとみは、豆蔵とみつが示す険しい表情に、思わずごくりと喉を鳴らした。
「へい……」豆蔵が答える。「百合恵姐さんに来るようにって言われやしてね。まあ、用心棒代わりと思って来たみたんでやすがね……」
「何やら、只ならぬものを感じます……」みつが周囲を見回し、腰の刀の柄に手を掛ける。「以前より、時々感じていた妖かしの雰囲気が、今夜は強いですね……」
「……と言う事は、わたしたちが来るってことが分かっているからとか……?」
「そうかも知れやせんね……」
「前に探索した時に、誰かが居たようだって話だったわ」
「じゃあ、今夜も誰かが居やがるかも知れやせん」
「さとみ殿には悪いが、凶悪なヤツであれば……」みつは鯉口を切った。「斬ります」
「そんな危険な感じなの……?」
二人は無言でうなずいた。
「……百合恵さんも知っているのかしら?」
「知っておりやす。嬢様を迎えに行く前に、その事を話しやした」
「さとみ殿と他の娘たちの保護を頼まれました」
「そうなんだ……」さとみは朱音と一緒に歩いている百合恵を見ながらつぶやく。「百合恵さんも朱音ちゃんを気遣っているようね」
「へい、本当に、良く出来た姐さんですよ」
百合恵が振り返った。
「さとみちゃん、行くわよ」百合恵はそう言うと、にっこりと笑む。「お二人さんもよろしくね」
「へい!」
「承知!」
豆蔵とみつが力強く答える。さとみは霊体を戻した。
「え?」朱音が振り返る。朱音にはさとみがとことこと動き出した姿しか見えない。「百合恵さん、お二人さんって……?」
「ふふふ……」百合恵は朱音の肩に回した手に力を入れる。朱音ははっとしてぽうっとする。「さあね、何の事かしらね? とにかく、朱音ちゃんは、わたしから離れちゃダメよ」
「……はい……」消え入りそうな声で朱音が答える。耳元まで真っ赤になっていた。「……離れません……」
さとみは、鯉口を切って周りを警戒しながら歩くみつと、懐手をしながら何時でも石礫を放つ用意をしている豆蔵とに挟まれて歩いている。
一行は松原先生を先頭にして、教職員専用の通用口に着いた。
「あら、わたしの頃は、こういうドアはガラス張りだったわ」百合恵が言う。目の前のドアは重そうな鉄製だ。「突破する不届き者がいるからなのかしらねぇ……」
「そうなんですよ」松原先生は言いながら慣れた手つきで鍵を取り出す。「学校なんかに侵入しても、大したものはないんですけどねぇ……」
「わたしの頃には、テストの前日に忍び込んでテストを燃やそうとした同級生がいたわ」百合恵がくすっと笑う。その可愛らしい顔に松原先生は見惚れている。しのぶがちょっとだけむっとする。「その彼、普段から素行不良で、点数が悪いと留年確定だったの。でもね、普段から学校に来ないような生徒だったから、職員室が分からなくって、結局は何にも出来なくて帰ったのよね」
「そうれで、どうなったんですか?」
朱音が百合恵の隣できらきらした瞳で訊いた。百合恵は朱音を見つめる。
「ふふふ…… テストがほぼ白紙状態だったから、当然、留年よ。でもそれが不満で学校辞めちゃったわ」百合恵が笑う。「ところが、最近お店の傍であったのよね。中々羽振りのいい感じになっていて、幾つかお店を経営しているんだって言っていたわ」
「百合恵さん……」松原先生が割って入る。「……そう言うお話は、まだ未成年の、それも女の子には、ちょっと……」
「あら、これは失礼」百合恵は言うと微笑む。「でも、いずれは知るような話だわ」
「はぁ……」
松原先生は困ったような顔をした。百合恵はさとみに振り返り、ぺろりと舌を出して見せた。松原先生をからかっているのだ。みんなの緊張をほぐすためだろう。……こんな時なのに。さとみは呆れると同時に、危険にも動じない百合恵に尊敬の念も抱いた。
松原先生はぶつぶつ言いながら、ドアを開け、セキュリティを遮断した。先頭で松原先生が入る。
「さあ、入って下さい」
松原先生が言う。もうすでに豆蔵とみつが松原先生の隣に立っていた。やはり周囲が気になっているのだろう、きょろきょろとしている。
「百合恵さん……」
さとみが二人を見ながらつぶやく。
「ええ…… 今夜は何かありそうね……」
つづく
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