お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 49

2008年12月23日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
 洋子は周囲を見回した。コーイチもつられて見回す。
「大丈夫、あのおじいさんはいないようだ」コーイチは言った。「でも、なんたって、壁抜けができるからなあ・・・」
「どんな人かは知りませんが、こんな人ごみに突然現れたりはしないでしょう」洋子は言った。「それに、お話だと、ピンクの服だそうですから、目立ってしまうでしょうし・・・」
「そうだね。じゃあ一安心だ」コーイチは洋子を見た。「で、思い当たるある物って、あるのかな?」
「そうですね・・・ ひょっとして・・・」
 洋子はいきなり右足をコーイチの方に伸ばした。蹴られると思ったコーイチは身体を仰け反らせ、その勢いで椅子から転げ落ちた。
「大丈夫ですか、コーイチさん?」洋子は心配そうに床のコーイチを見た。「このブーツを脱がして欲しかったんですけれど・・・」
「ああ、そう言う事だったんだ」よろよろとコーイチは立ち上がった。「自分で脱げないのかい?」
「わたし、こんなブーツ履いた事ありません。だから、どうして良いのか分からなくて・・・」
「分かったよ。じゃあ、やってみよう」
 コーイチはブーツの足首と脹脛あたりを持ち、引っ張り始めた。なかなか脱げない。
「もっと、爪先を伸ばしてくれないと、ダメみたいだよ」
「はい」
 洋子が爪先を伸ばした途端、ブーツは脱げた。引っ張る勢いが強かったコーイチは、洋子のブーツを抱えたまま、後ろへと走ってしまった。コーイチは誰かにぶつかり、そのまま倒れ込んでしまった。
「す、すみません!」あわてて立ち上がったコーイチは一緒に倒れた人に向かって頭を下げた。「お怪我はありませんでしたか?」
「OK、OK、平気だよ」すっくと立ち上がったのは、ボーイスカウトの制服を着た川喜多社長だった。ブーツを抱えてぺこぺこしているコーイチに驚いたように言った。「YOU! ブーツ持ってるよ!」
「はい、すみませんっ!」
 コーイチはその場から走り去ると、洋子の所へと戻った。
「ああ、驚いた・・・ まさか社長にぶつかるなんて」コーイチは額の汗を手の甲でぬぐった。それから、思い出したように、ブーツを洋子に渡した。「このブーツに何か意味があるのかい?」
「いえ、そうじゃないんですけど・・・」洋子はブーツに右手を突っ込んだ。「あら、底まで届かないわ・・・」
「中に何があるのか知らないけれど」ブーツと格闘している洋子を見ながらコーイチが遠慮がちに言った。「ブーツ、逆さまにしたら出てくるんじゃないかな?」
「ああ、そうですよね」洋子は笑い出した。「わたし、こんなブーツ初めてなんで、変に緊張したみたいです」
「芳川さん」コーイチも嬉しそうな笑顔になった。「やっと笑った顔が見られた。いつもこわい顔ばかりだったから、ホッとしたよ」
「イヤだ、コーイチさんったら!」
 洋子は照れて、コーイチの肩をぱんと叩いた。
「いたたたたた・・・」
 コーイチは顔をしかめた。そんなに強くは無かったが、逸子と互角の腕前を持つ『龍玉虎牙神王拳』の継承者の洋子は、無意識に急所を狙ってしまったらしい。
「すみません!」洋子は立ち上がった。またどこか触ると痛い思いをさせてしまうかもしれない。そう思っているのか、洋子はコーイチに触らず、おろおろしているばかりだった。「あの・・・ 大丈夫ですか?」
「ははは、大丈夫、何ともないよ」コーイチは笑いながら言った。「芳川さん悪気があったわけじゃないんだから」
「ありがとうございます・・・」洋子はぺこりと頭を下げると、長椅子に座り直した。「コーイチさんって、とっても優しいんですね・・・好きです・・・」
「いや、あの、その、・・・なんだ」コーイチは洋子のきらきらした瞳にどぎまぎしながら言った。「あ、そうそう、ブーツを逆さまにしてみようよ。何かしまってあるんだろう?」
 コーイチはわざとらしく視線をブーツに向けた。洋子は「かわいい・・・」とコーイチに聞こえないようにつぶやいた。
「・・・そうでした」洋子もわざとらしく言うと、ブーツを逆さまにした。何かが転がり出て来たらしく、洋子は右の手の平で受け止めた。「ありました・・・」
 洋子は握った右手をコーイチの前に出し、手の平を上に向け、ゆっくりと指を開いた。

       つづく

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