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ジェシル、ボディガードになる 57

2021年03月07日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「うおおおおぉぉ!」
 ガルベスの咆哮が通路中に響いた。ガルベスの輪郭が白く浮かび、消えた。突然、沈黙が支配する。
「……どうなったの……」
 ノラは銃を構えたままでつぶやく。闇が全てを包んでいるので、何も分からないのだ。倒したのか? いや、油断させて、再び襲いかかってくるかもしれない。
 長い沈黙。ガルベスの気配は感じられない。ノラの緊張が徐々に解けて行く。
「おう、娘っ子!」
 アーセルの声がする。それから、ロープが一本天井の穴からぶら下がってきた。ノラはロープをつかもうとするが、それを伝ってアーセルが下りてきた。
「何よ、わたしが上がるためじゃないの?」ノラが口を尖らせる。「おじいちゃん、何しに下りてきたのよ!」
「本当にうるせぇ娘っ子だなぁ……」アーセルはうんざりしたように言う。「銃を貸してやったじゃねぇか!」
「おじいちゃんがわたしの銃のエネルギーを使わせ過ぎたんだから、当然よ!」
「ふん!」アーセルは鼻を鳴らす。「そんな憎まれ口ばっかり叩いていやがる娘っ子には、これだ!」
 アーセルが言い終わると、いきなり眩しい光がノラの目に飛び込んできた。
「きゃっ!」ノラは思わず悲鳴を上げ、目の前に左手をかざして光を避けた。ノラが怒鳴る。「何やってくれてんのよう!」
「ほう、目をつぶらずに光を避けるたぁ、やるじゃねぇか。それも銃を持たねぇ方の手を使うたぁな……」アーセルは感心したように言う。「……でもよ、悲鳴が良くねぇ。それじゃ、そこいらの娘っ子と変わらねぇぜ。ふあっふあっふあっ!」
 アーセルは楽しそうに笑う。アーセルが手にしているのは携帯用のビームライトだった。わざとノラに向けて点灯したのだ。
「もう! 褒めてくれてるの? それとも、馬鹿にしてくれてるの?」
「両方だ」アーセルは言うと、ビームライトで通路を照らす。「見てみろい、娘っ子。何にも無ぇぜ」
 照らし出された先にはガルベスはいなかった。
「……でも、ガルベスは居たし、光線銃は確実に当たったわ」ノラは手にしている光線銃を見る。「ひょっとして……」
「そう言う事だ」アーセルはうなずく。「この銃の発する光線で、ガルベスの野郎は消えちまったのよ」
「そんな強力な銃には思えないけど? 軽いしコンパクトだし……」
「これはなぁ、あのエネルギー結晶体の一個を使った銃なのさ」アーセルが自慢げに言う。「しょぼそうな銃に見えるだろうがな、半永久的に使えるんだぜ。しかも、威力は半端ねぇ。見ての通り、あのガルベスが影も形も無くなっちまったんだからな」
「じゃあ、ガルベスは本当に消えて無くなったのね……」
 ノラはアーセルが照らし出している通路を見てつぶやく。
「どうでぇ、すごい銃だろ? え? 欲しいか?」アーセルは意地悪っぽくノラに言う。「素直に欲しいって言えば、くれてやらねぇでもねぇぜぇ」
「そうね……」ノラは足元にある自分の熱線銃を見る。「おじいちゃんのおかげで、わたしの銃が使えなくなっちゃったからね。もらっておいてあげるわ」
「ちっ! 口の減らねぇ娘っ子だ!」
 アーセルは言うとロープを上って行った。ノラは足元の熱線銃を拾い、手にしている光線銃と共にポシェットにしまい、ロープを上った。
「あら!」
 ロープを上り、天井の穴から頭を出すと、ノラは思わず声を上げた。幾つかの丸テーブルが並んでいるのが見えたのだ。すると、エリスとダーラが寄ってきて、ノラを引き上げてくれた。丸い穴が開いているのは年季の入った木製の床だった。テーブルに備え付けの椅子に座って唖然としているメリンダを見つけた。
ここはノラが一晩泊まった酒場だった。
床に座り込んだノラは周囲を見回す。マスターがカウンターの中にいた。相変わらずマスターは無表情だ。その横にアーセルがいる。
「ふあっふあっふあっ!」アーセルが笑う。「どうでぇ、娘っ子! 驚いただろうが!」
「……まあ、ちょっとだけね……」
「ふん! 相変わらず負け惜しみの強ぇえ娘っ子だ!」
 アーセルは吐き捨てるように言うと、グラスをつかんで一気に中身を飲み干した。
「ノラ……」そう呟くと、メリンダは椅子から立ち上がり、ノラへと近づく。座り込んでいるノラの前に座わった。「いきなり居なくなっちゃって…… マスターに聞いても『出掛けた』しか言わないし。ずっと心配だったわ……」
 メリンダは涙を流し、ノラに抱きついた。ノラはその背中を優しく撫でる。
「だって、メリンダったら、爆睡中だったんだもの……」
「でもさ、無理やり起こして一言くらい言ってほしかったわ」メリンダはすんすんと鼻を鳴らしながら、少し身を離し、ノラのドレスを見る。「そんな高級なドレスまで着ちゃってさ……」
「でも、こういうのって好かないのよねぇ…… ほら、下半身がすうすうしちゃって」
「それは、ノラが女の娘っぽくないからよ」
「ひどい事を言うのね」ノラは口を尖らせるが、すぐに笑顔になった。「でも、無事に戻って来れたわ」
「本当、ノラには感謝してもしきれないわ」エリスもノラの前に座る。こちらも涙を流している。「もう、あそこへ戻らなくっても良いのね」
「ガルベスさんも居ないのね」ダーラもエリスの横に座る。「びくびくする必要はないのね」
「そうよ。ガルベスは居なくなったわよ」ノラがうなずく。「それにさ、あんなヤツに『さん付け』なんてする必要はないわ」
 そこへアーセルとマスターが来た。アーセルはマスターの背中を親しげに叩いている。マスターは、無表情だったが、何となく嬉しそうに見えた。
 ……これで一件落着ね。内心のジェシルはほっと安堵の息をつく。……でも、もう少し続きがあるのよねぇ。内心のジェシルは溜め息をつく。


つづく

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