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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第二章 骸骨標本の怪 22

2021年12月12日 | 霊感少女 さとみ 2 第二章 骸骨標本の怪
 翌日、昼休みに朱音としのぶがさとみの教室に来た。教室の前の通路にアイと麗子がいた。
「アイ先輩! 麗子先輩!」
 朱音が元気よく声を掛ける。アイと麗子が振り返ると、朱音は手を振り、しのぶはぺこりとお辞儀をした。そのまま二人はアイたちの傍に行った。
「さとみ会長は?」しのぶが言いながら教室を覗く。さとみに席は空いていた。「おトイレですか?」
「さとみは今日はお休みよ」麗子が言う。「色々あって疲れたんだって」
「色々…… ですか?」しのぶが不満そうに言う。「せっかく、面白い話を持って来たのに……」
「なあに、面白い話って?」
「あれだろう?」アイがつまらなさそうに言う。「グラウンドにぶっ壊れた骸骨標本が転がっていたってヤツだろう?」
「なあんだ、もう知っていたんですか……」しのぶはアイ以上につまらなさそうに言う。それから、ふと気がついたように顔を上げる。「……でも、アイ先輩、どうしてそれを知っているんですか?」
「その現場にいたからさ」
「えええええ~っ!」朱音が素っ頓狂な声を上げた。「と言う事は、アイ先輩が、やったんですかあ?」
「……たしかに」しのぶは冷静にうなずく。「アイ先輩なら、有り得そうですね」
「馬鹿! そうじゃない!」アイが怒鳴る。周りの生徒たちがちらちらと見てくる。アイの一睨みで視線を避けて通り過ぎるが、ひっきりなしな感じだ。「……話をしてやるから、屋上へ行こう!」
 むすっとしたアイを先頭に、「骸骨標本って重いわよ」「アイ先輩って力持ちね」などと話をしている朱音としのぶが続き、聞きたくない気持ちでいっぱいだが表情には出さない麗子が少し離れて続いた。
 北側のフェンスを背にしてアイが立ち、その前に朱音としのぶ、少し離れて麗子が立った。アイが話し始める。
「昨日の夜の事だ。わたしは百合恵姐さんのお店の手伝いをしていたんだ……」
「ええっ? 百合恵さんのお店って……」朱音が驚く。「あの、大人のお店じゃないですか?」
「姐さんはレストランもやってんだ。そこの手伝いさ」
「そうでしたか」朱音はほっとした息をつく。「わたし、先輩がドレスを着てお酌しているのかと思っていました……」
「ははは、それは卒業してからさ……」アイは何か言いたそうな朱音を軽く睨んで黙らせる。「そうしたら、姐さんから呼び出しを受けた。さとみ会長の一大事だ、出入りになるかもしれない、ってな」
「うわあ、喧嘩ですか!」しのぶが瞳をきらきらさせて訊いてきた。「会長って、あんなにぽうっとしているのに、結構怖い人なんですね! 凄いなぁ!」
「……それで、姐さんの車で会長を迎えに行った」アイは変な感心の仕方をしているしのぶを無視して続ける。「会長と合流して向かった先が、ここだった。グラウンドに相手がいると言う事らしい。先ずは姐さんが向かって行った……」
「百合恵さんが出張るなんて、相手は大人だったんですか?」しのぶが言う。声にわくわく感がにじみ出ている。「やっぱり会長って、怖い人なんですね!」
「だが、ちょっと形勢が不利になってしまって、わたしが飛び出した」アイはしのぶを無視する。「姐さんの名誉のために言っておくが、姐さんはものすごく強いんだからな。相手がふざけた野郎だったんで、姐さんがちょっと戸惑っただけなのさ。そいつ、骸骨の着ぐるみを着てやがったんだ。蹴り飛ばしてやったけどな」
「骸骨の、ですか?」朱音が言う。「そんな変な着ぐるみなんて、あるんですか?」
「暗い夜に浮かんで見える骸骨なんか、着ぐるみだろう?」
「……わたしたち、昨日先輩が帰っちゃった後、理科室の骸骨標本を見に行ったんです」朱音が言う。「標本が『寒い、寒い』って言ったり、かたかた揺れるのを確認するために」
「それで? 骸骨は喋ったのか? 震えたのか?」
「ダメでした。下校時間も過ぎちゃって…… でも、会長が霊に見張りを頼んでくれたんです」
「で、その霊が寒がる骸骨を見たって言うのか?」
「それは、分かりません……」
「でも」しのぶが割り込んでくる。「アイ先輩の話から思うんですけど、骸骨が動いたんじゃないでしょうか? それを、見張っていた霊が、会長や百合恵さんに連絡したって言う感じじゃないかと思うんです」 
「……そう言やぁ、会長、すぐに家から出てきたものなぁ……」アイは思い出しながらつぶやく。「百合恵姐さんとも段取り済みみたいだったし……」
「じゃあ、間違いないですよ!」しのぶが勢い込む。「アイ先輩が蹴り飛ばしたのは、標本の骸骨だったんです!」
「……そうか」アイはうなずく。「着ぐるみだと思ったら、そこには、ばらばら散らばった骨があったから、不思議だったんだよな。しゃれこうべがふわっと浮いて、その下に散らばっていた骨が集まって、またからだを作ったんだ。驚いていたら急に殴られたみたいでさ、気を失っちまったんだ…… 殴られて記憶がごちゃごちゃになったのかと思っていたんだけど、本当だったようだな…… でもな、恥ずかしい話だよ。姐さんも会長も守れなかったんだからな……」
「そんな事ありません!」しのぶがぐっとアイに近寄り手を握った。「怖れずに立ち向かった勇気って、凄いと思います! わたし、アイア先輩を尊敬します!」
 しのぶのきらきらした瞳に圧倒されて、アイは照れくさそうにそっぽを向く。と、麗子がイヤな顔をしているのが目に入った。
「麗子、どうかしたのか?」
「いや、別に……」麗子は白々しく答えた。「わたし、その場にいなかったから、良く分からなくって……」
「そうじゃないでしょ、弱虫麗子!」
 声がした。皆で声の方を見ると、さとみが立っていた。


つづく  

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