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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 48

2020年05月01日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
 呼ばれて入って来たケーイチは二人の姿を見てうなずいた。
「なかなか動きやすそうで良いんじゃないかな? しかも、これから戦いに行くって感じも伝わるし」ケーイチは言う。「オレも何か着たくなったよ」
「大丈夫ですわ。わたしとナナさんは武闘系、お兄様は頭脳系を担当してもらいますから」
「そうかい。じゃあ、このままで良いな。……逸子さんの服って、ナナさんのじゃない?」
「そうなんです!」逸子は嬉しそうに言うと、立ち上がった。「こういう服、着て見たかったんです! ヒロインになったみたい!」
「良いんじゃないかな?」ケーイチは逸子に言うと、ナナを見た。「ナナさんも似合ってるよ。コマンド部隊って感じだね」
「……はい……」ナナは逸子とは逆に、そわそわしている。「でも、ちょっと恥ずかしいです……」
「恥かしい? 服を着てるのに?」
「ナナさん、普段はだぼっとした服を着ているので、慣れないようなんです」逸子が助け舟を出す。「ぴっちりした服は苦手みたいです」
「そうなんだ」ケーイチはあっさりと言うと、腕を組んだ。「……さあて、コーイチを取り戻す作戦だけど、どうするかなあ」
「あの、ケーイチさん……」ナナの言葉にケーイチは振り向いた。「……ケーイチさんは服装には関心が無いんですか?」
「関心?」
「だって、さっきのスカートの時も、このぴっちりしたコマンドウェアにも、全然気にかけてないから……」
「う~ん…… 悪いけど、言っていることの意味がちょっとわからない……」
「あれですよ、お兄様!」逸子が割って入る。「美女二人の艶姿を見て、わくわくしませんかって事です。……ねえ、ナナさん?」
「……はい」ナナは恥かしそうだ。「さっきもスカートで逸子さんと歩いていたら、変な男たちに絡まれて…… もちろん撃退しましたけど…… それに着替えの時に大あわてしちゃったり。わたし、ケーイチさんのような男性に会った事が無いんです……」
「ナナさん、タイムパトロールの制服でも恥ずかしかったそうです」
「そうなんだ……」ケーイチはナナを見ながらつぶやく。「まあ、気にし過ぎだよ。そりゃあ、裸で出て来られたら別だろうけどさ」
 ケーイチは笑った。しかし、ナナは笑わない。
「ケーイチさん……」ナナは真剣な顔でケーイチに言う。「……わたしの事、嫌いですか?」
 言い終わると、ぐっと前に出てケーイチを見つめた。
「は?」
 ケーイチは驚いた顔をする。ナナはそれに構わず見つめ続ける。
「ちょっと、ナナさん!」逸子は言うと、ナナの腕を引っ張る。「話があるの、こっちに来て!」
「え? 何ですか?」
 ナナは逸子に玄関まで引っ張られた。ケーイチは固まったままだ。
「ナナさん……」逸子は正面からナナを見据える。声は小声になっている。「一体何を言い出しているの?」「何って…… 好意を持った人にその思いを伝えようとしただけですけど……」ナナは小首を傾げ、小声で答える。「ケーイチさんの反応が凄く新鮮で、好きになりました。わたしの時代では普通なんですけど、逸子さんの時代はダメなんですか?」
「いや、そうじゃないけど、これから戦いが待っているのに、ちょっと、ねぇ……」
「思った時に思ったように言うって、いけないんですか?」
「時と場合ってのがあるじゃない?」
「今の思いを今伝えるのが正しいと思いますけど?」
「でもね、戦いになった時、例えば、ナナさんがケーイチさんを心配しちゃって問題が起きたり、その逆に、ケーイチさんの判断が鈍る事があったりとかしないかしら?」
「どうしてそんな事が起きるんですか?」
「どうしてって…… 意識しすぎると判断が鈍ることがあるからじゃないの」
「それは大丈夫です」ナナはにこりと笑う。「人って、次の瞬間はどうなるか分からないじゃないですか? だから、わたしのこの気持ちもどうなるかなんて分かりません」
「じゃあ、今の気持ちってだけ?」
「そうですよ。……変ですか?」
 逸子はため息をついた。……好き嫌いがその場だけのものだなんてねぇ。時代の違いって事かしらねぇ。そう思うと、逸子は急に老け込んだように感じた。
「……とにかく、ナナさんの今の気持ちはお兄様に伝わったわ。それで良いのよね?」
「はい!」
 ナナは明るく答えると、ケーイチの所に戻った。ケーイチは何事も無かったかのようにナナと話をしている。
 そんな二人の様子を見て、逸子は気を入れ直すように、ぱしんと自分のお尻を両手で叩いた。
「……ところで、お兄様」逸子は言う。「コーイチさんを取り戻す作戦は何かありますか?」
「うん、あるよ」
 ケーイチはあっさりと答えた。……お兄様は何となくナナさんと似ているわ、案外未来的なのかもしれないわね。逸子は思った。


つづく

   

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