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ジェシル、ボディガードになる 112

2021年05月11日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「ちょっと待ちな!」
 カーブした通路の奥から鋭い声がした。ジョウンズは振り返る。
「お前は……」
 ジョウンズは両目を見開く。カーブから姿を現わしたのは、レーザーライフルを構えたケレスだった。途中で武装警備員から奪い取ったのだろう。銃口はジョウンズに向いている。
「……ケレス……」苦痛の中でジェシルが言う。「どうしたのよ? 帰ったんじゃなかったの?」
 出入り口のドアが乱暴な音を立てて開いた。蝶番がねじ切られ、ドアはひしゃげていた。ドアから入って来たのはミルカだった。ミルカがドアを蹴り開けたのだ。ミルカも途中で奪い取ったレーザーライフルを手にしている。
「……ミルカまで……」ジェシルは言う。「一体何をやっているのよう……」
「わたしたちはこの要塞衛星を離れて、しばらく様子を見ていたのよね」ミルカが楽しそうに言う。「そうしたら、衛星は停止するわ、観客たちは逃げ出すわって、大騒ぎじゃない!」
「そう言う事さ」ケレスが笑む。「これは久し振りのお祭り騒ぎだと思ってね。これに乗っからない手は無いだろう?」
「そうそう」ミルカはうなずく。「ジェシルがやったってすぐに分かったし」
「でも……」ジェシルが言う。「手を出さないって言っていたじゃない……」
「そう思ったんだけどね、こんな楽しそうな事、独り占めなんて許せないじゃないのよ!」
「そう言う事だな」ケレスが言う。「まあ、わたしたちが勝手に加わったんだから、今回は無料サービスって事にしてやるよ」
「それにさ、一匹狼の団体って面白いじゃない?」ミルカはジェシルにウインクする。「今回限りだろうけどね」
「……でも、良くここに居るって分かったわね」
 ジェシルがからだを起き上がらせて言う。ジョウンズは驚いているらしく、手に加わる力が弱まっていた。
「ほら、あなたが三階の外階段から出てきたのを見たって言ったじゃない?」ミルカが言う。「それに、あなたは宇宙パトロールだし。きっとジョウンズと関係があるって思ったのよ」
「それで、わたしが貴賓席の方から攻め込んで、ミルカはそこのドアから攻め込んだのさ」ケレスが笑う。「警備員たちは、わたしたちを見ると武器を放り出して逃げて行った。教育が成ってないぜ……」
「……それにしても、ジェシル、あなた派手にやられているんじゃない?」ミルカがジェシルの脇腹と首元を見て言う。「それと、あなたにしがみついているその手は何なの?」
「あれはジョウンズの手です! サイボーグ化されたものなのです!」
 ミュウミュウが言う。ケレスとミルカは、改めて銃口をジョウンズに向け、引き金に指をかけた。
「おい、ジョウンズ」ケレスが言う。穏やかな声だが、ぞっとする殺気が漲っている。「ジェシルから手を離すんだ……」
「それが良いわよ」ミルカが笑む。だが、目は笑っていない。「言う事を聞かないと、死ぬわよ」
 ジョウンズはケレスとミルカを交互に見ながらも、笑みを浮かべている。
「あらあら、一生懸命に虚勢を張っちゃって」ミルカが小馬鹿にする。「まあ、大ボスだものねぇ、それくらいは、しなきゃあねぇ……」
「さあ、それはどうかな……」ジョウンズが答える。「撃ってみるか?」
「あの……」ミュウミュウが割って入る。「ジョウンズは、攻撃に備えて全身をコーティングしていると言っていました!」
「ミュウミュウ!」ジョウンズはミュウミュウを睨みつけ、舌打ちをする。「余計な事を!」
「まあ、危ない危ない……」ミルカは驚いた顔で言う。「それじゃ……」
「そうだな」ケレスがうなずき、ライフルを操作する。甲高い金属音がした。「パワーをマックスにした。これを二人で撃ち込めば問題は無いだろう」
「そうね」ミルカもライフルを操作し、金属音を立てる。「このマックスパワーで頭をやっちゃいましょうよ、ケレス」
「そうだな。ジョウンズの偉そうな面、ずっと気に入らなかったからな。吹っ飛ばしてやろうぜ」
 二人の銃口はジョウンズの頭に向いた。
「分かった、分かったあ!」
 ジョウンズが叫ぶ。ジェシルに絡んでいた左右の拳はジョウンズの手首に戻った。ジェシルはぐったりと床にうつ伏せた。
「わたしの負けだ!」ジョウンズは両手を上げた。「これで良いだろう!」
「……良いわけ無いじゃない!」
 そう声を荒げたのはジェシルだった。床に転がっていた熱線銃を拾い上げると、ジョウンズに向けて撃った。熱線はジョウンズの腹に当たっているが、効いてはいない。
「ジェシル、わたしはコーティングされていると言っただろう?」ジョウンズは笑う。「無駄だよ、無駄!」
「ケレス! ミルカ!」
 ジェシルが叫ぶ。察した二人は銃口をジョウンズに向けて引き金を引いた。撃ち出された二本のビームが、ジェシルの熱線と交わる。眩い光が生じた。
 ジョウンズの腹から炎が上がった。
「う、うおおおおおぉぉ……!」ジョウンズが雄叫びを上げた。それは断末魔の雄叫びだった。「くそう…… ジェシル…… お前さえ、お前さえ……」
 炎がジョウンズの全身を包み始める。その姿のまま、ジョウンズはジェシルへと歩を進める。ジョウンズの壮絶な姿にミュウミュウは顔を背け、目を固くつぶった。
「お祭りの最後に相応しい花火じゃない?」ジェシルが言う。「打ち上げ花火じゃないのが残念だけど」
 ジョウンズは両腕をジェシルに突き出した。ジェシルは熱線銃を構える。しかし、ジョウンズはそのままうつ伏せに倒れた。ジョウンズの全身を炎が包んでいる。炎が消えると、焦げた機械の骨格や部品などが散らばっていた。
「何だよ、ジョウンズって全身をサイボーグ化してたのかよ」ケレスが呆れたように言う。「ふざけたヤツだ!」
「道理で力比べをしても勝てなかったわけね……」ミルカがうなずく。「まあ、今さらどうでも良いけどね」
「あ~あ……」ケレスが不満気に溜め息をつく。「これで祭りも終わりかぁ……」
 ミュウミュウはジェシルの様子を診ている。『姫様』を看病しているだけの事はある。手際良く、ジェシルの制服の前ファスナーを下げ、脇腹の傷を直接確認する。
「……思ったほど深くはありませんね」ミュウミュウは言う。「でも、出血が止まりません……」
「ふん、大した事は無いわよ」ジェシルは言う。ミュウミュウがそっと傷口を触ると激痛が走ったのか呻き声を上げた。「……ミュウミュウ、何すんのよう!」
「強がってはいけませんよ」ミュウミュウは優しく笑む。「でも、何とか止血をしないと……」
「じゃあ、これを使って」ミルカが尻のポケットから傷口用の粘着シートを取り出した。「戦場でも使う優れ物よ。すぐに止血すると思うわ」
 ミュウミュウは受け取ると、ジェシルの傷口の上に貼った。ひんやりした感触に痛みも和らいだような気がジェシルはしていた。
「ジェシルさん……」ミュウミュウは改まったようにジェシルを見据える。「……約束通りに救出に来てくださった事、『姫様』共々感謝しております」
「……いえ、わたしだけじゃ、あのまま終わっていたわ。ケレスとミルカのお蔭よ」
「お二人にも感謝いたします……」
 ミュウミュウはケレスとミルカに礼を言う。礼を言われ慣れていないのか、ケレスもミルカも困惑した顔で頭を掻いている。
「……とにかく、ここを出ようぜ」ケレスが言う。「おい、ジェシル、立てるか?」
「もちろん……」
 ジェシルは立ち上がるが、よろめいてしまった。
「仕方がないわねぇ……」ミルカがジェシルのからだを横抱きに抱え上げた。「……あら、意外とジェシルって……」
「それ以上言うと、逮捕するわよ……」
 ジェシルが言う。皆は笑った。
「さあ、行きましょう」ミルカが言う。「発着場でノラが待っているわよ」

つづく

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