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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第二章 骸骨標本の怪 20

2021年12月10日 | 霊感少女 さとみ 2 第二章 骸骨標本の怪
 黒い影は何事もないかのように、こちらには全く関心が無いかのように、ゆらゆらとしている。
「みんな、この場から逃げて!」
 百合恵の声がした。さとみが見ると、骸骨の足の縛めが無くなって、やっと起き上がった百合恵がグラウンドに座り込んでいた。
「見たでしょ! そいつは霊体を消し去ることが出来るのよ! だから、早く! さとみちゃんはからだに戻って!」
「ですが、百合恵殿……」みつは切っ先を影に向けたままで言う。「このまま逃げるなど…… 権左の仇も討たねば!」
 そこへ豆蔵が現われた。辛そうな顔をしている。
「みつ様! 百合恵さんの言う通りに致しやしょう! あいつにはあっしらの武器は効かねぇ!」
「くっ……」みつは、豆蔵の礫が通り抜けてしまった事、また、自分の刀が影に奪い取られた事を思い出した。刀を鞘に納める。「承知!」
 みつは悔しそうに影を睨みつけながら姿を消した。
「さあ、嬢様も早く! あっしもお暇いたしやす!」
「……でも、竜二たちが……」
 さとみは豆蔵越しに視線を送る。豆蔵が振り返ると、ぐったりしている虎之助を抱え起こそうと苦闘している竜二の姿があった。
「あっしが手伝いに行きやす。嬢様は早くお戻りを!」
 豆蔵は言うと竜二の元へと向かった。影は豆蔵を追うかのように向きを変えた。影の縁取りがうっすらと赤くなって行く。その様子にさとみは危険なものを感じた。
「竜二さん! 早くしねぇと!」
 豆蔵が竜二の肩を叩く。竜二は困った顔をしている。
「分かってんだけどさあ、虎之助が重くって…… 霊体のくせに重いなんて、どうなってんだろうなぁ……」
「かなりのしおつくを受けたんじゃねぇですかい?」
「しおつく? ……ああ、ショックね。そうかもしれねぇなぁ」
「呑気な事を言ってねぇで、さっさと行きやしょうぜ」そう言うと豆蔵は影を見る。「いけねぇ、縁取りが赤くなってきやがった! 何かありそうですぜ!」
「でもさ、虎之助を置いては行けないよ」
「竜二さん、あんた、惚れなすったのかい?」
「馬鹿言うなよう! 虎之助は男なんだぜ!」竜二は言い返すが、頬が赤い。「結構話が合う友達、そう、友達なんだよ」
「分かりやした。じゃあ、竜二さんは脚の方を持って下せえ。あっしは頭の方を……」
 影の縁取りの赤さが増して行く。 
「や~い! この真っ黒お化けめぇ! 出来そこないのクラゲお化けめぇ!」突然、さとみが影に向かって小馬鹿にしたように言った。影の注意を豆蔵から逸らせるつもりなのだ。「狙いはわたしなんでしょ? それともわたしに敵わないから相手を変えたのかしら?」
 影は豆蔵からさとみに向きを変えた。赤い縁取りは消えた。豆蔵と竜二で虎之助を抱え上げると姿を消した。さとみはほっとする。影はさとみをにらみ付けているかのように漂っている。
「じゃあ、わたしも失礼するわね!」
 さとみは影に向かってあっかんべえをして見せると、霊体を生身に戻した。
「……あれぇ?」
 さとみは呆然と立ち尽くしている。生身の自分を見ている自分がいるからだ。
「さとみちゃん! 早くからだに戻りなさい!」
 百合恵の声が聞こえる。百合恵はさとみの生身の横に立ち、霊体のさとみに手招きをしている。さとみはもう一度生身に戻ろうとする。しかし、戻れなかった。
「さとみちゃん!」百合恵の声に緊張が走る。「まさか……」
「そうなんです……」さとみは泣き出しそうな顔を百合恵に向ける。「……戻れないんです……」
「……そんな……」百合恵はつぶやくと漂う黒い影を見る。「あいつのせいね…… なんて力なの……」
 さとみは影を見上げる。縁取りがうっすら赤くなって行く。赤さが次第に増して行く。
「……どうしよう……」
 みつたちの様に、既に霊体だけになっているのなら、この場から逃げ出すことは可能だったが、さとみには戻る生身がある。生身を置いて遠くまで行く事は出来ない。さらに、霊体を抜けたままにしておくと、下手をしたら生身が死んでしまうかもしれない。
 影の縁取りが赤さを増し、一瞬、強く光った。百合恵は眩しさに顔を逸らした。光が消え、見直すと、さとみの姿が無かった。影が漂っているばかりだった。
「さとみちゃん!」
 百合恵が叫ぶ。もしかしてと、生身のさとみを見るが、目と口を半開きにしたまま動かない。霊体は戻っていなかった。
「なんて事なの!」百合恵はその場に崩れるように座り込んでしまった。グラウンドを握り拳で叩く。叩きながら涙が溢れる。「なんて事を……」


つづく

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