薩摩反骨2・振動板の構造改革-④DSS振動板の技術詳細と総括

2022年11月11日 | 薩摩反骨(スピーカー維新)

反骨精神! 長い物に巻かれるな(そのうち踏まれちゃうゾ!)

 

 

◆ 振動板の構造改革-④DSS振動板の技術詳細と総括

 

<DSS振動板のトラス構造>

 空飛ぶ円盤形外殻の内部の補強構造につきましては、いろいろな方法が考えられ、硬質発泡樹脂の充填やハニカム・コア材の使用が従来の一般的発想です。しかしこれらでは重く、且つ剛性が不十分なため、更に軽量で剛性の高い手段としてトラス構造を選択する事になりました。トラス構造とは、鉄橋や大屋根などの建築物にみられる三角形を基本単位とした骨組構造です。下図にDSS振動板にトラス構造を適用した場合の断面構造を示します。(その他様々な補強構造についても特許出願済)

※ トラス構造の内部補強構造例

 

 因みにコーン形振動板では、放射状の補強リブ(若しくはエンボス加工)がしばしば見受けられますが、これは剛性向上というよりも、分割振動における共振を分散させて目立たなくする効果として理解すべきと思います。放射リブでは振動板全体としての剛性はそれ程向上しません。

 

<DSS振動板はP波伝搬>

 ところで、地震にはP波とS波がある事をご存知かと思います。これらは揺れ(振動)の伝搬メカニズムが異なっており、到達時間にかなり差があります。P波(プライマリー波)は疎密波とも呼ばれ、伝搬する方向に沿って押したり引っ張ったりする力で伝わります。棒を持って押し引きするのと同じで、素早く直接的に伝わるのが特長です。対してS波(セカンダリー波)は横波とも呼ばれ、長縄遊びのニョロニョロ蛇のごとく、波打ちながら伝搬します。ご想像の通りS波はゆっくりと伝搬します。

 

 

 そしてここで、従来のコーン形、ドーム形振動板の振動伝搬はS波に近く、DSS振動板の場合はP波に近いというお話しをします。従来型の振動板は板構造ですから、板が波打ちながら振動(S波)が伝搬します。対してDSS振動板では、トラス構造ならではの力学的性質によって押し引き(P波)伝搬になります。即ち、DSS振動板は振動伝搬が早いので、波打ち現象がほとんど起こらず、分割振動を本質排除出来る、という事を意味しているのです。

 

<紙ではなくアルミの理由>

 従来のコーン形振動板の素材は伝統的に紙コーンが良いという意見が多いと思います。軽くて硬い(硬さ÷比重=比弾性、が高い)という点ではアルミ材やカーボン繊維等の方が断然有利なのですが、もう一つ重要な物性として内部損失というものがあります。内部損失というものは、前述の共振現象を抑える役目を果たします。これが紙コーンの使い易さと言って良く、反対に特にアルミ材には内部損失がほとんど無いので、癖のある音質になり易いという弱点があります。

 対してDSS振動板の場合はどうでしょうか。DSS振動板はそもそも分割振動を使用帯域内から排除していますので、共振現象(最高音域で発生する軸対象共振は除く)そのものが存在しません。従って内部損失は重要ではなく、比弾性の高い事が最優先となります。DSS振動板の場合は、高比弾性で尚且つ細かな形状の加工性が良いアルミ材を選択しています。

 

<応答性能に関する誤解>

 DSS振動板は、その立体構造によって従来よりも重くなるため、能率が低めになります。そうしますと、低能率=応答が悪いという従来の常識を思い浮かべる方が多いかも知れません。しかし、実際にDSS振動板の音を聴いた方々は、その応答の良さに一様に驚きます。

 なぜこの様な事が起こるのでしょうか。理解のカギは、「応答は、その系の最も応答の遅い部分に律速される」という事にあります。従来の応答性能は振動板(振動系)の重さと、駆動力(磁気回路の強さ)の比率だけで考えられて来ました。しかし振動板自体の応答に問題がある事にも気が付く必要があります。

 

※ 従来のコーン形スピーカーとDSS振動板スピーカーの周波数特性比較(概念図)
※ 軸対称モードの共振開始周波数では、振動板の内周と外周で動きが逆転するため、音圧が相殺されて特性に谷間が生じる。また、釣鐘モード共振のピークは正面特性にははっきり出ない。

 

 応答の速さは、その再生帯域上限の高さで決まります。しかしスピーカーの公称周波数帯域の上限は、分割振動を起こしている音域までをも含めているため、真の応答可能周波数(上図の「共振開始点」)よりもかなり高く評価されている事になります。低い周波数から生じる釣鐘モードの共振開始周波数を基準にすれば、スペックとして言われている周波数上限の10分の1以下の応答性能(例えば300Hz程度)しかない事になります。反対に、分割振動をより高い周波数に排除したDSS振動板では、当然ながら応答可能周波数も高くなっており、これが良好な応答感の理由となります。

 

<総括>

 「薩摩反骨1・良い音とは何か」において、質感(聴感)を無視した現代のスペック偏重論には問題がある事を訴求しました。更に今回の「薩摩反骨2・振動板の構造改革」においては、分割振動が不可避である従来型スピーカーに対して、周波数特性フラット論を無理に適用する現代的スペック論には誤りがあり、癖や歪み感は少なくなっても、音の生き生き感が失われている事を指摘しました。

 そして、釣鐘モードを含めた共振開始周波数を非常に高い音域に排除したDSS振動板の開発によって、歪みを減少しつつ、尚且つ応答の良い音質を得る事が可能になりました。即ち、音の基礎体力の「柔らかい」と「クリアー」の高度な両立を実現しました。

 更に、現代型の低歪みスピーカーであっても、分割振動そのものは排除出来ていないので、オーケストラの重奏音の様な混み入った複合音を濁らせずに再生する事は極めて困難でした。DSS振動板では、この問題も明確に改善しました。

 今後は、より大きな口径のDSS振動板開発や、2way、3way化等の試みを行って参ります。ご期待を頂けましたら幸いです。長文のご高覧ありがとうございました。

 

 

以上

 

追伸

 DSS振動板の「DSS」とは、当初はDiamond Shaped Shell(菱形殻)の略でしたが、今後はDome Shaped Shell(ドーム形殻)の意味も持たせる事になります。

 

 

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