郁子と初めて口をきいたのは、学生のクラブの有志たちで
スキーに行ったとき。
妙高の杉野沢という所のスキーロッジに、みんなで泊まりました。
彼女は初心者でしたので、すこしづつ、教えながら仲良くなりました。
小柄な子でしたが、明るく、礼儀正しいので、感心していました。
いまでも、明るく、礼儀正しい女の人、タイプですね。
さて、郁子と、もっと仲良くなりたいと思って、でも方法を思いつかなくて
井上ひさしの本を読んでいたら、
アンケートと称する不思議な往復はがきの話が載っていたので、
それをヒントにさせてもらって、郁子の自宅に往復はがきをだして
(親は、男の名前で往復はがきなんて警戒しただろうね)
3月17日の後楽園球場(むかしだねええ)日本ハム対中日戦を誘いました。
さいわい、行きますという、返事が来て、新宿駅の南口で待ち合わせました。
あたしは、今と同じで無口でした。でも新宿から水道橋まで国電で移動中も
彼女は愛想よく話しかけてきてくれて、とてもリラックスできて、
郁子のことをすっかり気に入りました。
後楽園球場は小雨で中止になり、映画を見に行きました。
いきなり、高瀬春奈の性交シーンが出てきて、
まだ生娘だった郁子はびっくりしていました。
仕切り直しに、4月7日、西武球場の西武対近鉄戦を誘いました。
彼女の最寄駅に行くと、前回より数段着飾って、髪も整えてブロー完璧の
郁子が、瞳を大きく開いて、じっとあたしのことを見上げてくれました。
彼女が、きっと俺のことを好きになってくれているって、
かなり自信を持ちました。
西武球場は堤 義明さまのお慈悲で、屋根が上に付くまで
一滴の雨でも、簡単に試合を中止にする、けっこういやな球場で、
また、都心に出て映画を見て帰りました。
彼女の家まで送ってあげたところ、おかあさまが出てきて、
当方狼狽し、必死で挨拶しました。これが、義母との初対面でした。
4月11日、桜が満開、その下で、告白しようとして誘いましたが、
今日は用事があるの、だめですって、硬い表情で断られました。
がっかりして、新宿駅の16番線で電車を待っていると、
またまた、郁子にばったり、バツがわるそうな表情をしていましたが、
歌の練習なのよって、普通に言ってくれたので。(男ではないね)と安心しました。
4月13日 土曜日
練習の後、もう桜も散ったしどうでもいいや、喫茶店で話すかって
彼女を誘い、そこで、告白できなくて、散歩に連れ出して、
野川のほとりのベンチで、やっときちんといいました。
郁子はとても嬉しそうな顔をして、はい、それでは、よろしくお願いします、
そう言ってくれました。
今から、29年前のことでした。