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第二話 マルコーさんは肩凝り、ヒロインは頑張ります、免許ないけど

2020-09-04 12:52:29 | 日記

男性の名前はティム・マルコー、黒髪で白髪混じりの小柄な男性の自宅兼診療所に住まわせてもらっているのだが、目が覚めるたびに今日で何日目だろうと思ってしまう。
 追い出される事もなく、図々しく一日、三食つきの日々を過ごしている自分に正直、呆れてしまうのだ。
 でも、何処に行けばいいのか分からないのだ、だから少しでもお礼代わりといってはなんだか、部屋の掃除や洗濯をしているのだ。
 驚いたのはマルコーさんは料理が趣味で作るのが好きらしく、スープ、サラダ、メインディッシュという、おしゃれなカフェメニューを出されたときには驚いた、しかも、この間はクッキーまで焼いてくれて、紅茶が美味しかったこと。
 奥さんは幸せ者ですねと言ったら、今までずっと一人だと言われて、余計な事を言ってしまった、失言だと思ったが、本人は気にしていないようでほっとした。
 ずっと研究職で医師を続けていると言われて、ああ、そういう人は少し前なら日本にもいたなあと思ってしまった。
 あと、顔だと言われた、顔全体が火傷でもしたみたいに皮膚が爛れているけど、そんなにひどいとも思わない、映画、アクションやホラーが好きなので顔の表面が火傷したからって、そんなに、ひどいと思ってしまうのだ。
 普通の人間が、へへへと笑って金槌やチェーンソーを持って追いかけてくる方がよっぽど怖いと思ってしまうくらいだ。
 顔のいい男が世の中、全てなんて嘘だ、今ならよくわかる。
 それに料理のできる男が、どれほど貴重な存在か、知らないのだろうか、世間の女は。

 天気のいいうちに洗濯物を干す、履き古したブリーフを見ながらゴムが伸びてるし、これ一枚、もらえないかなと思った。
 替えの下着がないのでズボンの下は○ーパン、ついでにいうと少し前に買ったスポーツブラでかぶれてしまい、ここ最近、○ーブラで裸族だ。
 海外旅行で日本人が身ぐるみ剥がされ、レ○プされて殺されたりとか悲惨なニュースを思い出すと自分は運が良いなんてもんじゃない、マルコー先生の部屋に足向けて寝られない。
 掃除と洗濯だけでは駄目だ、もっと働かないと。
 土地勘もないのに追い出されたら行き倒れて悲惨な未来が待っているのは確実だ。
 最初は体でも売ってでもと思うが、あれは若い女だから簡単で手っ取り早い方法だ、三十路のババアには需要も未来はない、美人なら少しはましかもしれないが。
 (化粧すれば少しは牛丼の中盛りぐらいにはなるかな)
 そんな事を思いながら家の中に入り時計を見ると、もうすぐ昼だ、帰って来るかもしれにない、今日は朝から往診に出かけていて留守なのだ。
 見ず知らずの人間を残して家の中の物を盗んで逃げたりするとか、考えないのだろうか。
 少しは信用してくれているということだろうか、それなら少しはほっとするというか、安心できるのだけど。
 普通なら警察に通報、連れて行かれてもおかしくはないのよねと女は思った。
 

 夕食の後、女が自分の背後に立ち、いきなり両肩に手を置いて、ぐっと押してきたのでマルコは驚いた。
 疲れたという自分の言葉を聞いて、肩凝りですかと聞かれても意味がわからなかった。
 「凝ってますよ、鉄板みたいに堅いです」
 女はタオルを持って台所に消えるとしばらくして戻ってきた。
 服を脱いでうつ伏せになってください、女の言葉に、えっ、えっという状態になったが、断る事ができずに言われるがままだった。
 「自覚がないんですね、外国人は肩凝りって言葉も、それはどういう状態なのか感じで分からないって聞いたことありますから、肩凝りはね、辛いんですよ、私もですが」
 辛いんですよと言われても自分の場合は歳だから普通ではないのだろうか。
 シャツを脱いで枕に顔を埋めると女は背中にタオルをかぶせてきた、湯で濡らしたタオルは暖かい、まるで風呂に入っているような感じだ。
 女の手がタオルの上から背中に触れると、体が震えたが、しばらくすると慣れてきたのかもしれない。
 これはシン国の錬丹術と関係しているのか、以前、メイから腰や首筋を指で突かれて目や腰に激しい痛みを感じた事をマルコは思い出した。
 痛かったら言ってくださいと言われて、ああと呟いたマルコだったが、何故か、声が出なかった、眠りかけていたのだ。。
 
 先生、起きてください、風邪ひきますよ、小さな声だったが、目が覚めたマルコは自分が眠っていたことに驚いた、時計を見ると真夜中だ。
 「なんだか、肩が、それに足も軽いな」
 「よかった、足裏と脹ら脛も揉んでおきましたから」
 施術師なのかと思いマルコは尋ねたが、返ってきたのは意外な返事だった。
 「実はマッサージ、て○みんで免許をと思ったんですけど、ずっとバイト生活で、この歳になるまで、先生みたいにちゃんとした勤めというか、仕事はしていなかったんです」
 水分を、たくさん取ってくださいと水入ったコップを手渡されて口をつけるとかすかな甘みがする、オレンジの匂いも、そういえば食べようと思っていたのに手をつけていなかったことを思い出した。

 「先生、その」
 何か言いにくそうに女が口ごもる口調で話しかけてきた。
 「あたし、警察とかに行った方がいいんでしょうか」
 日本という国の名前を聞いたことがないと言ったときの女の顔を思い出して、やはり悩んでいたのかと思いながらマルコは自分の考えを話したほうがいいかもしれないと考えた。
 警察、軍の施設に行けば問題解決の糸口が見えるかもしれない、だが、不安も感じていた、女の話を聞いていると、こことは全く違う世界から来たという感じがするのだ。
 

 「実は警察関係で色々と仕事をしている人、知り合いなんだか、相談してみようと思っている、信用できる人間だ、少し待ってくれんかね」
 マルコの脳裏に浮かんだのはマスタングとアームストロングの長女の顔だ、だか、二人とも忙しい立場だ、スカーから打診をしてもらおうと考えていた。
  マルコの言葉に女は無言だった、だが。
 「本当ですか」
 女が頭を下げるのを見てマルコは不安になった、ここ数日、住まわせて面倒をみたせいかもしれないが、それでもだ。
 「君の国と違ってここは犯罪も多い、あまり他人を信用しすぎてもいかん」
 自分の言葉に真面目な顔で頷くが、でもと言葉が続く。
 「先生はいい人です、マルコーさんを信用しています」
 多分、ここよりも平和な国で生きてきたのだろう、一体どこから来たのか、だが、聞いても本人にも説明ができないようなのだ。
 そろそろ寝なさいと声をかけようとすると、女は少し、がっかりとした顔になった。
 「もう少しだけ、話しませんか」
 そういえば朝から往診で帰ってきたのも遅かった事を思い出す、来客があっても出ないようにと言っていたのだ。
 「退屈だったかね、一人で」
 返事の代わりに笑う、その顔を見てマルコは、あることに気づいた。
 「そういえば、名前を聞いていなかったな」
 「ミヤ、木桜美夜っていいます」
 どんな字を書くのかと思い紙とペンを渡す、だが、書かれた文字は見たことのないものだ。
 自分が知っている国イシュヴァール、シン国のものとは違う。
 仕事柄、他国の書物を見たことのあるマルコだが、こんな文字は見たことがない。
 不安を感じずにはいられなかった。



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