『人を憎むのは、ネズミ1匹追い出すために、家全体を焼き払うようなものだ』
ハリー・エマソン・フォスディック(アメリカのプロテスタント神学者)の言葉です。
何故「独眼竜政宗」を語るにあたってこの言葉を挙げたのか?
それは“憎しみ”に関して、私が知る限りもっとも印象的なエピソードを、このドラマは描いていたからです。
原作:山岡荘八、脚本:ジェームス三木
主な出演:渡辺謙/北大路欣也/岩下志麻/桜田淳子
「梵天丸もかくありたい」という名言も生まれました。視聴率も今と違ってとても高く、NHK大河ドラマといえば、とてもステータスが高かった由緒あるドラマ──。
ストーリーを簡単に説明しますと、
伊達政宗(1567~1636)・・・仙台藩祖。永禄10年(1567)8月3日米沢城主伊達輝宗(北大路欣也扮す)の長男として生まれる。母(岩下志麻扮す)は最上義守の女。幼名は梵天丸といい天正5年(1577)元服して藤次郎政宗と称し79年三春城主田村清顕の女愛姫(桜田淳子扮す)と結婚、天正12年(1584)18歳で家督を相続する。
3歳のおり、後に独眼竜と呼ばれる原因となった疱瘡にかかり奇跡的に回復するがその毒のために右目を失明。
15歳の初陣から、数々の戦を経て浜通りを除く会津(福島県)の大部分と米沢地方および仙台(宮城県)を合わせる百万国並の大領土を築き上げたが、天正18年(1590)小田原征伐時に豊臣秀吉に服属し、会津と米沢を没収、57万国となり、玉造郡岩出山に移る。慶長5年(1600)関ヶ原の戦い後、62万石を領し、仙台城を修築しここに移った。その後、南蛮との通商を企画し慶長18年(1613)支倉常長をスペイン、ローマに派遣したが目的を達することはできなかった。
寛永13年(1636)、5月24日江戸桜田にて死去。70歳。仙台端鳳殿に眠る。「独眼竜」と畏敬されてはいたが隻眼であることにコンプレックスを感じていたようで、死後の肖像には”両眼をそなえよ”と遺言したという。
というわけで、実はあまり要所要所は覚えていません。なにせ随分前の作品ですから。渡辺謙も当時はまだ新人。大抜擢だったと記憶しています。
さて、私がもっとも印象に残ったシーンへ話を戻しましょう。
前述のとおり政宗(渡辺謙扮す)は病気で片目を失ってしまうのですが、この失ってしまった目、母の岩下志麻が食べてしまう、というシーンがありました。母親の愛情が表れた、感動的なシーンです。(真相は定かではありませんが、この母子の愛情関係がドラマの大きな伏線になっているので要注意!)
のちに政宗には弟が生まれます。母はこの弟(小次郎:岡本健一扮す)を溺愛。歴史でも現代社会でもありがちですが、父親の死後、伊達家の跡取り騒動が勃発し、家臣を含め、人間関係は突如、複雑になっていきます。
母は中立を保つふりをしながら小次郎を推し、断腸の思いで、ある日、政宗の食事に毒を盛ろうとします──。
母としての迷いがここで表出し、息子の毒殺は結局失敗に・・・。政宗は母の行為を察知すると同時に、激しい怒り、憎しみ、嫉妬にかられてしまいます。
彼はその夜、すぐに弟、小次郎に会いにいき、邪気のない、ただ母の欲望に翻弄されただけの弟に即刻切腹を申し付けます。
「母上に一言だけ挨拶させてください」
震えながら訴える弟。
政宗の心中はまだ怒りと嫉妬でいっぱいです。いくら弟に愛情があってもその感情を抑えることは出来ません。
「駄目だ」と政宗は言い、とりすがる弟を自ら斬ってしまう──。
「兄上・・・」小次郎はそうつぶやいて、政宗にしがみつき、息絶えます。政宗は我慢しきれず涙を流し、弟を抱きしめながら
「許せ。母の変わりに斬ったのだ・・・!」と叫びます。
このシーンの壮絶さ。あまりのショックで、しばらく私はこの場面を忘れることが出来ませんでした。
母への憎しみ、怒りが政宗の理性を奪い、他の事が考えられなくなるほど彼の頭の中を真っ白にしてしまったのです。政宗はそのエネルギーを、罪のない実の弟にぶつけるしかなかった──。
当時は「母親を殺すことはさすがに政宗の良心が許さなかったのか」と思いましたが、そうではなく、彼女の一番大事なものを奪うことで、怒りを静めたかったのかもしれません。それほどに激しい憎しみが渦巻き、どうしようもなかったのだろうと・・・。
これ以上、このドラマについてどうこう言うのは、いつものように無用かと思うのですが(誰かがどこかで語っているはず!と確信しているので^_^;)、憎しみとはこういうものだろうと、今は思います。
自分がたどってきた歳月がそうさせるのでしょうけれど、理性では判断しきれない、抑えられない感情が人間にはあるのだ、と、このドラマを通じて理解した気がするのです・・・。
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