ファンタジーノベル「ひまわり先生、事件です」

小さな街は宇宙にリンク、広い空間は故里の臍の緒に繋がっていた。生きることは時空を翔る冒険だ。知識は地球を駆巡る魔法の杖だ

第1章連載≪2≫ 「ひまわり先生、大事件です。6年2組の新聞班たち…」 

2015年11月16日 | ファンタジーノベル

小さな街は、宇宙に繋がっていた、広い世界の先は、生まれた街の臍の緒に繋がっていた。生きることは、いつも時空を翔る冒険だ。知識は、地球を駆巡る魔法の杖だ。見つけたものは、地球を闊歩した巨大恐竜の足跡とグーテンベルクと戯れる蝶だった。

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登場人物の紹介★美佳編

美佳は商社マンの娘。ニューヨークに赴任している父から離れて、母親とともに海外から帰国した子女。

美佳は小学校を卒業した後、ニューヨークの高校に戻る。父は銃社会アメリカで、財布を盗まれ拳銃で撃たれた。以来、犯罪が彼女のテーマとなった。10年後の彼女はニューヨーク大学で日本文学を教える若き教授。傍ら、アメリカ文化の中の病巣、幼児犯罪と文学の相関関係を研究するうちに、FBIから多発するアメリカ社会の幼児犯罪の分析を依頼され、幼児誘拐、幼児殺人、幼児虐待のプロファイルを専門とするようになった。現在、FBIの専門チームに参加、残虐な幼児犯罪を憎む日本人として、頻繁にテレビ番組に登場して有名となる。いま、六年二組の仲間たちが約束した10年後の誓いのために日本に再び帰国した。

誘拐されたひまわり先生の子ども、勇樹を捜すために、君子、悟、美佳、太一、徹たちの6年3組の新聞班は、10年後にもう一度、小学校の桜の古木の下に戻ってきた。5人は手をつなぎ桜の満開の下で、今この時の再会に感涙した。時の経過と共に失ったものに哀しみ、世界を彷徨い探し続けた心の糧を見つけたことに歓喜した。

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第1章「ひまわり先生、大事件です! 6年3組の新聞班たち…」    
 6年3組の徹たち新聞班はクラスの「壁新聞」を作ることになった。どんな記事を掲載しようかと、相談を始めた。「どうしようか、どうする」と、悟がぼやいた。姉のように手ごわい君ちゃんが、「悟君、考えているだけでは、何も出来ないよ」と、激励した。君子のほうが大人っぽく見えるが、近所に住んでいる二人は幼稚園から続いている幼馴なじみである。君子は悟をサトシと呼びつける。「悟君」と、ぎこちなく他人行儀に君づけして呼ぶのは、ついこの頃のことで、手をつないで幼稚園に通っていた頃は、あどけない声で、「サトチャン」と呼んでいた。 その頃より、二人が仲良く近所の幽玄寺の山門前にいると、「仲がいいな」と、二人に微笑みながら手を振っていた和尚は、今でも二人の成長を暖かく眺める大人だった。「そろそろ、君子に乙女心が芽生えたかな、赤飯を炊かないとなー」と、父親のようなことを言う。

 いつも騒がしい6年3組に、一瞬の静寂がよぎった時、4年生の夏までアメリカの学校にいたバイリンガルの美佳が、「新聞って、トゥデイズ、ペーパーだから、今日の出来事を書くのがベストじゃないの!」と、英語訛りのアクセントで沈黙を破った。美佳の母は、コテコテの大阪弁を話す。英語圏で生まれた美佳は、母の母乳を吸いながら、可笑しい大阪訛りの日本語も一緒に吸い取った。

 日本に転校してきた初めての挨拶で、「グットモーニング。アイムミカ、カミングフロム、ニューヨーク。あんまりジャパニーズ上手くないよって、あんじょうにな。ほな、よろしく…」と、英語と関西弁のチャンポンで自己紹介を喋り捲り、同級生を唖然とさせたことがある。

 6年3組には多摩川小学校の役者が揃っている。いつもスットンキョな大声で珍案をだす太一が、さっきから大声を張り上げている。「野菜が売れ残っているんだ、お店は赤字で大損害だよ。どうだーい、ダイオキシンの話題を載せるというのは…」と、親譲りの、べらんめえ調でさっそく提案した。彼のー家は学校近くのスーパーで八百屋「一心太助」を商っている。なんか魚屋みたいな看板だけれども、れっきとした八百屋です。つい二、三日前に、県内の清掃工場から吐き出された煙突の煙にダイオキシンが含まれていて、大騒ぎになった。近郊農家で栽培された大根から猛毒のダイオキシンが検出されたと、保健所が分析した。新聞でもテレビでも大々的に取り上げて書いた。だから、みんながダイオキシンの汚染に敏感になっていた。悟の顔が緊張して、異議ありといった表情で、「太一よ、そんなの誰でも知っているよ。それじゃ、まるで八百屋の宣伝だろう。学校新聞でもさ、大胆なスクープを狙っていこうぜー」と、仲間の顔をぐるりと見回した。級長の徹は、悟と太一を見ながら、「ぼくたちの住んでいる多摩川の街で起こった事件や問題を壁新聞に載せようよ、なー。きつと、ワー大変だ、と驚くようなスクープがどこかに転がっている筈だよ…」。面長の涼しい目をした徹は、ジャニーズジュニア系の甘いマスクをしている上、勉強が出来るので、クラスの女の子には圧倒的に人気がある。みんなの反応を窺っていたが、彼に真っ向から反対するものなど一人もない。しかし、呼びかけた最後の一言は、徹自身も一抹の不安が含まれていた。多少、気弱の徹である。ひとみ先生に向かって、「壁新聞に何を書いたらいいのですか…?」と、悟がまた悠長にボヤいた。

 六年二組の若い担任は黒田ひとみ先生です。いつも顔をニコニコさせて、まん丸の顔だから、町内の誰からも、「ひまわり先生」と呼ばれていた。生徒からは、真夏の校庭いっぱいに咲くひまわりの花が大好きで、オレンジ色と黄色のファションがよく似合うので、ひまわり先生と呼ばれていた。徹たちの学校では、ひとみ先生はスポーツ選手のように美しく明るく、なんでも教えてくれる物知りだから、学校で一番の人気者の先生です。新聞班の会議を近くで見ていたひまわり先生がようやく助け舟を出した。「時間はまだ、たっぷりあるわ。よく話し合ってみようーね。街にでて商店街やお店の人に聞いてみたらどう?直接直に話題にらなりそうな事件やハプニングを町の人に取材してみようよー」と、一言だけ口を挟んだ。ふたたび、君子が悟をリードして、「悟君、二人で協力して、街でスクープを見つけよう。でも、急がば廻れよ、頭にピンとひらめいたら取材ね…」と、もう悟を尻に敷いている。それもその筈である。小学校1年生の校門をくぐった時から、宿題を手伝ってもらっている悟は、君子に頭が上がらない。「ひとみ先生、君ちゃんの言うとおりだと思います」と、佳が手を挙げて君子の肩を持つ。みんなも君子の意見に大賛成のようだ。続けて、「本物の事件記者みたいに、「多摩川学校、新聞記者証」というIDカードを作ってもいいですか…」と、みんなのYESを美佳が求めた。ひまわり先生は顔をいっそうニコニコさせて、「さすがね、美佳。身分証明書みたいなものね、みんなの意見が同じなら作ったらいいわよ」、と賛成する。

 さっきからもじもじしていた太一が、「俺、一つだけ大事件のスクープを知っているんだ。これ絶対にスクープになるよー。俺の話を信じてくれるなら、話してもいいけどな…」。すかさずに君子が、「オイオイ、もったいぶるな、太一!」と男勝りの野次を入れる。太一は「まあ、まあ」と言った仕草で、手を振りながら、依然、もつたいぶつて話し始めた。この前に、父ちゃんがね、商店街の組合で温泉旅行に行ったんだよ。ほら、3丁目の角の印刷工場をやっている、淳子の父ちゃんも一緒でさ。で、宴会の時に、俺のオヤジと淳子の父ちゃんが、「はいお酌、ジャーご返杯」、とベロベロに酔っ払ってさ…。話が少し脱線してきた。「太一、肝心なことを早く言えよ」と、徹がその先を促す。太一と徹も幼園から大の仲良しで、竹馬の親友と言える。幼稚園の年長組みの時に、隣町の「悪餓鬼グループ」に腕を掴まれて、虐められそうになったことがある。5対1の多勢に無勢の形勢であったが、太一が悪餓グループの群れに立ち塞がって、小学校の上級生をあっという間に蹴散らかした。間一髪のところで太一に助けられて、徹は、「太一、いつまでも友達でいようね…」と、頼りなくか細い声で言ったことがある。時代劇の好きな太一のお婆さんが、一心太助のように真直ぐな子どもに成長してくれと名付けた「太一」という名前で、太一は期待通りの太一にふさわしい子供に成長していった。以来、「太一、困っているひとがいたら、絶対、見て見ぬ振りは駄目だよー」と、太一の家では家訓のように繰り返されている。太一の父ちゃんと母ちゃんにとって、この事件は永遠に語り継がれる息子の武勇談で、店先でたびたび自慢話の花が咲く。今、太一に一寸だけ厳しいことを言った徹だが、太一は信頼できる無二の友達である。

太一は頭を掻きながら、「この先が大事件のニオイがするんだよ…」と、さらに絶好調の弁で続けた。耳をかっぽじって、聞けよ!淳子の父ちゃんが言うには、まるで宴会の席で顔を赤らめながら酔っ払っているオヤジ口調である。「…最近、OA機器の技術がよくなって、パソコンのスキャナーでも偽札が作れるようになっちゃってさ、これは内緒、ここだけの秘密だぞ、じめじめした陰気な富田工場長がよ…アイツの趣味がまたへんてこで、歪んでいるんだ。旧い紙幣やら、古代のコインを、部屋に溢れるくらい集めて、二階の畳が二センチぐらいは沈んでいるよ。奴がスキャナーで昔の百円札やら、外国の紙幣をコピーしたんだってさー」と内緒話を大声でしゃべていたんだってさ。

 本物みたいにきれいな偽札が出来ちゃって、それを見せびらかして喜んでいるんだ。会社に持って来て、自慢、「どれどれ、見せろ見せろ」と、工場の若いオペレーターが集まって、騒いでいるんだ。「よく出来てるなー、本物と見分けがつかねな、風呂屋の番台で使っても、ばれないだろうな」とか、「社長、うちの工場でも紙幣を印刷しようよ、商店街のチラシなんか作っているよりも、よっぽど儲かるだろ」とか、こっちが驚くようなことをアッケラカントと平気で言うのさ。こっちもうっかりすると、ふらっと、口車に乗ってしまいそうだったがな、「バカなことを言うな、そんなもの早くどこかに捨ててしまえ」と、怒鳴ってやったさ。うちは30年の歴史を持つ真っ当な印刷工場だぞ、本当は赤字続きで、にっちもさっちも行かないだけどな…。ワイワイ騒いで、話はそれでお仕舞いなんだ。お酒が入った勢いの話だけれども、大事件の匂いがしないかな。みんなは、息を呑んで太一の内緒話に耳を傾けた。が、徹も、悟も、君子も、美佳も、太一のスクープに半信半疑である。徹が疑念を晴らそうと、「酔っ払いの座興で、与太話ではないのか?それで、太一のお父さんは、偽札を見たのか」と、聞いた。「そこ、そこ。そこよ!肝心な話は、見たかどうか、使ったかどうかが、インポータントね」と、美佳も同じ疑いを口に出した。

 ひまわり先生のニコニコ顔が半分だけ曇った。「日本で一番古いお札は1600年頃、伊勢市あたりで「山田羽書」という、短冊形の預り手形の様なお札が発行されたそうよ。その頃には、もうその贋札が偽造されたそうよ。戦争中は、多摩川の登戸の陸軍研究所で、中国紙幣の偽札が進められていたのよ。…」と、ひまわり先生は、偽札の薀蓄を皆に披露した。みんなは先生の不思議なエピソードに聞き入ってしまった。「だったら、放課後に淳子さんにもっと詳しく聞いてみよう」と、いつもの悟らしくない、気の利いた提案をした。みんなは一斉に頷いた。その時、終業のチャイムが鳴って、下校時間となった。


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