ファンタジーノベル「ひまわり先生、事件です」

小さな街は宇宙にリンク、広い空間は故里の臍の緒に繋がっていた。生きることは時空を翔る冒険だ。知識は地球を駆巡る魔法の杖だ

序章連載≪1≫ 【ひまわり先生、大事件です。勇樹の姿が闇に消えていく・・・】

2015年11月15日 | ファンタジーノベル

序章連載≪1≫『ひまわり先生、大事件です。勇樹の姿が消えていく。太鼓が響き、祭りの闇に、蛍が浮かぶ……】

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ウトウトと、いつのまにか寝てしまった。あれから何時間立ったのだろうか、確か、教え子の徹から電話があったのは、ついさっきのように思い出します。「ひまわり先生、6年三組の皆が戻りました。勇樹を探す為に、あちこちにチリジリになっていた皆が故里の桜の大木の下に帰りました…」と、徹が言っていた。「もう心配しないで、ひまわり先生。僕たちが可愛い勇樹ちゃんを必ず見つけるからー」と美佳が励ましてくれた。もうみんな頼りがいのある大人になってしまった。瞳は、その時急に涙と共に、勇樹の記憶が洪水のように押し寄せてきた。勇樹がいなくなってから。もう10年たった。徹も、美佳も、太一も、悟も、君子も、竜も、淳子も、茜も・・・、皆大人になっただろうなー。そう皆の顔を思い浮べると、幼かった勇樹の顔がダブってきて、余計になみががあふれてきた。生きていれば、6年三組のあの当時の皆と同じ年だーわ。勇樹生きていてちょうだい、生きているならば、もう一度、私の手を握って…、笑顔で「お母さん、ただいま」と、帰ってきて。

瞳はあれ以来、幽玄寺の奥の離れの一軒家にも寝起きしている。優雅の妨げになってはいけないと、瞳の申し出でここに住んでいる。毎朝、和尚が「おはよう、気分はどうかーね」と、声を掛けてくれる。時々夜に、ひっそりしたお寺の奥まで優雅も訪ねてきてくれる。勇樹の消息を知る手がかりがつかめるかもしれないと、中国大陸と未だ深いパイプを持つ父親の会社を引き受けた。いやだ嫌だと避けていた貿易会社を継いで、中國にも仕事と勇樹探しを兼ねて歩き回っていた。

祭り囃子が、近く大きく、遠くに小さく、暑い夜に広がって鼓動する。どれ程、時間が過ぎたのか、瞳の中で、時間の流れは停止して、朦朧としていた。もう祭りは終わったのか、夜は祭りの浮かれた騒々しさはもとの静けさをとりもどした。ドーン、バリバリバリー、あがる打ち上げ花火の雷鳴も、静かになった。すべてのことが夢、現であるかのようだ。祭りの賑わいが終わり、夜空に輝く美しい花火も終わった。もうそろそろ、「お母さん、ただいま、今帰ったよ。お祭り、とても面白かったよ…」と、遊樹が元気な声で、昨日と同じ様に、私のそばに現れそうな気がした。いつもならもう、戻って来てもいいのに…。どうした事か、勇樹も祭りの喧騒と一緒に消えてしまった。


花火は闇を照らし、蛍を追いかける勇樹の姿は、音の中に消えた…

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瞳は、勇樹と手をつないで祭囃子の音のする方へ歩いている。夏の日の宵闇に蛍が飛ぶ…。「ユウ、暗いから気をつけて、その先に行ってはダメよ、ユウキそれ以上暗闇に入っては危ないです…」と瞳は、こちらを振り向きながら楽しそうに闇の中で光る蛍を夢中で追いかけるユウキの姿に向かって声をかけた。「暗いから躓きますよ、転んだらどうするの、闇の迷子になってしまうわよ、暗闇は恐いのよ…」と、思わず叫んでいた。「大丈夫だよ、お母さんもこっちに来てよ、蛍が、たくさん、こっちに、飛んでいるよ、あっちにもたくさん光っている。一緒に、捕まえてよ…」と、勇樹がはしゃいで返事をするが、もう勇樹の嬉しそうな顔は、闇のなかに消えて見えなくなっていた。「お母さん、たくさんいるよ、蛍がたくさんいるよ、掌にぽーと光っているよ…」と、蛍の不思議な光を母に話していた。勇樹の声は次第に小さく遠ざかっている。瞳は慌ててすでに暗闇に吸い込まれて消えてしまった勇樹の姿を懸命に追いかけた。さっきそばにあった勇気の手を握ろうと懸命に腕を伸ばした。が、幻のように消えてしまった虚空を掴むだけで、幼いわが子の指先を握ることが出来なかった。「ユウキ、どこへ言ってしまったの、蛍を追いかけているの、お母さんの声が聞こえるの。ユウキ、ユウキ、ユウキはどこに行ってしまったの、返事をして…」と、瞳が叫び声を上げると、どこからともなく太鼓の音が霧のように流れてきた。

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母と子が追いかけっこをしているような幸福そうな日常の風景の描写…瞳は浴衣姿の子供の手を掴もうとした時に幻のように消えてしまう勇樹の手を、さらに必死につかもうとする。勇樹の幼い指先がすっと消える最後の感触をもう一度探して闇の中をしばらく彷徨った時、暗闇に向かって、「ユウキ、どこに行ったの、ユウキ、生きているの…」と、声帯が破裂したかのように、力の限りに叫んだ、「ユウキ、生きているの、返事をして…」と叫んだ。すると闇の中から浴衣の白い袖が伸びて、幼い勇樹の指がひとみの手に答えた。瞳は自分の叫ぶ声で、ようやく目が覚めた。でもまださっきの朦朧としたゆめが瞳の脳裏に続いているようだ。「僕、ココにいるよ。お母さんが大きな声を出したんで、びっくりしたよ…・」と、勇樹の確りとした返事が返ってきた。勇樹の柔らかい指がひとみに触れた。「勇樹、無事だったのね、よかった、よかった、本当によかった…」と、ひとみは涙を流して、子供の生きた感触を喜んだ。「お母さん、僕、生きているよ。いつもお母さんの側にいるよ。若しも僕が迷って消えてしまったら、一番大きく光っている蛍を探して。僕は蛍と一緒に遊んでいるからね…」。白い浴衣姿の親子が祭りの音が響く闇の中で、手をつないで歩き始めた。

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「お母さん、助けて…、祭りのお面をかぶった人が、むりやり僕の手をひっぱるよ。お母さん、助けて…、誰かが、木の陰に僕を連れて行くよ。お母さん、助けて…、暗くて寂しくて、お母さんの手の温もりがぼくから消えてしまったよ。お母さん助けて…、僕の手を握って、僕を連れ戻して。返事をしたくても、お母さん、助けて…、声が出せない。誰かが押さえつけて、僕の力では戻れないんだ、お母さん助けて…。お母さんの姿が、見つからないんだ。僕は迷子でないよ。誰かが、僕をさらっているんだ…」。「勇樹…、どこかに隠れてるの…。迷子になったらどうするの?  返事をしないとどこに居るのか分かりませんよ。勇樹、返事をして…」寝汗を、びっしょりとかきながら、瞳は浅い眠りから目を覚ました。あの時と同じだ。村の祭囃子が、瞳のもうろうとした意識に響いた。あのときの狼狽が、祭囃子ともによみがえった。誰かが、勇樹を、わたしの子どもを誘拐した。

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「お母さん、じゃ、行ってくるね。」柔らかく小さな指を瞳の方に軽くふった。「お母さん。お祭りが終わったら、直ぐに戻るからね。」未だ祭りばやしは、ここまで鳴り響いていた。ついさっきまでのことです。それが今はもう、村人たちのはしゃぐ声も、太鼓の音もかき消え、静まり返っていた。「お母さん、帰り道が分からなくなったら、どうしようか…。」別れ際に、手を振る背中から振り向いて、心配そうに勇樹が聞いていた。「誰か、顔見知りの村の人に聞きなさい。」と、勇樹の小さな心配を鎮めようと、瞳は、微笑みながら言った。「綿あめの夜店は、出てるかな。僕、綿あめ買ってもいい、お母さん。」勇樹が、母の返事で破顔した。「いいわよ、お祭りを楽しみなさい…」。勇樹のあのときの笑窪に、もう一度頬ずえすることはできるのか。瞳の心配は次第に濃くなった。「やはり、私が一緒についてけばよかったー。」急に勇樹の笑窪を早く見たいと、懐かしむように待ちわびる気持ちに変わってたいった。

勇樹の姿が消えていく。太鼓が響き、祭りの闇に、蛍が浮かぶ…
花火の閃光は闇を照らし、微かな蛍の光を追いかける勇樹の姿は、鵺の夜に鼓動する音の中に消えた…



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