8の字描いて転がって

くりかえすことのここちよさとつまらなさ

天上

2020-07-31 21:21:34 | 病気
娘が入院した。
前回の退院からわずか3日後のこと。
今回の病室は残念ながら窓際じゃないから、
一日中天気がよく分からない。

ものすごくせまいプレイルームがあって
毎日娘とそこへ通っている。
ふと見上げると、空が見えた。
天井が高いなあと思ったら、
そこに窓が作られていたのだ。
どんよりとくもった空だった。
くもり空は好きじゃないけれど、
あまりに久しぶりに空を見れたので
とてもうれしかった。

すると突然、窓に雨粒が次々に
打ちつけられる激しい音がした。
灰色だった天井が一気に雨粒模様に
変わってしまった。
部屋にいながら雨が落ちてくるのを
下から見るなんて。
とても貴重な体験だった。

部屋に戻って昼ごはんを食べ
娘はお昼寝。

起きてまたプレイルームへ行く。
さっきまであれだけ降っていた雨が
サーっとやみはじめた。
と思うと、みるみるうちに白い雲が消え、
青い空があらわれた。
青空。
一体いつぶりだろう。

思えばこの日は私の誕生日で
これはきっと神さまからの
プレゼントに違いない。
神さまなんていないって
つい先日思ったばかりだというのに
我ながらあきれるほど単純で
忘れっぽく、都合よくできてるのだなあ
自分は、と苦笑するしかなかった。

娘が笑う。
それだけで今は十分。
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満月

2020-07-20 12:32:50 | 
娘が退院した。
今回は1週間の入院だった。
諸手をあげて喜べないのがこの病気のつらいところで、
完治じゃないからとりあえず退院しても外来治療はつづくし、
退院翌日からも相変わらず発作はつづく。
何ひとつ変わっちゃいない。
この徒労感に今朝はさすがに参ってしまった。
ようやく帰ってきた、ほっと一息・・・くらいつかせてくれよ。

神さまはいない。
そんなこととっくに知ってるけど。

吉本ばななさんの「満月ーキッチン2」という小説に
こんな一節がある。

「うまく口に出せないけれど、本当にわかったことがあったの。
口にしたらすごく簡単よ。世界は別に私のために
あるわけじゃない。だから、いやなことがめぐってくる率は
決して、変わんない。自分では決められない。
だから他のことはきっぱりと、むちゃくちゃ明るくした
ほうがいい、って」

そのとおりだと思う。
むかし読んだ時はそんなもんなのかなとしか思わなかったが、
今ならよくわかる。

世界はわたしのためにあるわけじゃない。
わたしだけは大丈夫なんて、そんなはずはない。
まさかわが子が・・・という現実が起こる。
どれだけ絶望しても終わりがない。
絶望して絶望してほんの少し光が見えてもまた絶望。
そのくりかえし。

だからこそ、一瞬の輝きを忘れないようにしよう。
分け合ったカップ焼きそばの味や、
ルールもよくわからずにやったオセロのこと、
お風呂でぬいぐるみをジャブジャブ洗って洗面器に浮かべたこと。
その他、数えきれないほどの些末な出来事を積み重ね、
胸に秘め、つなげて、永遠の光に変えてやる。
今は欠けた三日月でも、すこしずつ時間を経ていつかは満月になるのだ。
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絶望と短い希望と

2020-07-14 23:10:40 | 音楽
今年に入って4度目の娘との入院生活。
今回はコロナウィルスの影響で外出、面会一切禁止。
病院に缶詰めなのだ。
病室が窓際なのがせめてもの救いで、カーテンを大きく開け放って
いつも外をながめている。
娘は薬の副作用で眠ってばかり。
悲しいかな、梅雨空からはめったに光が差さず、
よどんだ気分により一層拍車をかけ、
よどんよどんよどんと悪い方向へと思考が走ってしまって
これはまずい。
何かしよう。
頭を空っぽにして集中できること。

好きな歌の歌詩をノートに書くことにした。
ひとつめは星野源さんの「知らない」
もうひとつは中村一義さんの「ショートホープ」

「知らない」がラジオから流れてきた時、
あるフレーズに強い既視感を感じた。

「その手貸して」

なんだろう、この感じ、どこかで聴いたことがある。
突然語りかけてくるような、引っ張られような強い感じ。
ぐるぐると頭の中で記憶をひっぱり出してようやく見つけた。

「ショートホープ」
この曲にも出てくるのだ。

「その手をかして」

20代前半の頃、縋るようにして聴いていた
中村一義さんのアルバム「ERA」。
その中の必殺の一曲「ショートホープ」に
私は生かされた。
語りかけてくるやさしいことばと、
たたみかけるメロディーの美しさ、
そして遠く遠くどこまでも連れ出してくれそうな
力強い歌声。
臆病な自分が少しずつでも前に進んでいけたのは
この曲のおかげなのだ。

「知らない」と「ショートホープ」
どちらにも共通してあるのは、絶望感。
けれど、絶望したまま前を向いて歩いていて、
同じ絶望を背負っている人にそっと手を差し出す。
つないで行こう、一緒に行こう。
絶望の先になにがあるか、見に行こうよ、と。

今の自分には絶望しかない。
日々どれだけ希望を見出し、
その小さくて短くてささやかな希望を
積み重ねても、たった一瞬で砕け散ってしまう。
人生は残酷だ。あまりにも残酷だ。

それでも光り輝く一瞬に永遠を見、
そのちっぽけな永遠を胸に明日も生きてゆくのだ。
あきらめてたまるか。
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