8の字描いて転がって

くりかえすことのここちよさとつまらなさ

無表情の、その先に

2014-08-29 17:01:21 | 映画
塩田明彦監督の映画「害虫」を初めて観たのはシネリーブル神戸という劇場で、奇しくもその
日が最終上映日。館内は私を含め2,3人しか客がおらず、なんとも広々した空間でひとりふつ
ふつ熱くなりながら画面を凝視したことを今でも覚えている。

映画における演出とは何か。
そのことを初めて意識したのは、もしかしたらこの作品で、かもしれない。

主人公サチはほとんど言葉を発しないのだけれど、ある日教室で同級生の男子に、小学校時代
の担任教師との関係を問われる。その時、サチはどう行動したか。

黙って、机を引きずり、大きな不協和音をたてる。ただそれだけ。
それだけなのだけれど、その瞬間のサチの怒りと悲しみが観客には痛いくらいに伝わってくる
のだ。自分にとっての雑音を、分断する強いエネルギーの放出の瞬間。カットも割らず、過剰
な台詞もない。

映画は、車の中でサチが「なんでもない」と呟いて唐突に終わる。
エンドロールが流れる中、サチの鼻歌だけが微かに聴こえる。
楽しいのか、悲しいのか。泣いてるのか、笑ってるのか。
彼女の行く末はハッピーエンドか、デッドエンドか。
分からない。分からないけれど、観ている側は暗い気持ちにならなくてむしろ爽快感さえ漂って
くるから不思議だ。それはきっと、乾いた演出のせい。

なぜ急にそんなことを思い出したのかというと塩田監督の「映画術ーその演出はなぜ心をつかむ
のか」を読んだからだ。
まだまだ人生は長い。
これでいい、自分はこれでいいんだ、なんて限界を決めて自分の見たいものしか見ないなんてこ
とはやめよう。もっともっとあらゆることに目を開いてゆかねばと、強く思わされる一冊だった。

感情を上手く表現できる人ばかりじゃない。
不器用な人の方がむしろ多くて、だからみんな悩んでうろたえて。
映画を観て救われた気分になるのは、こんなふうに複雑な人間がきちんと描かれているせいにち
がいない。
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車輪の下

2014-08-24 01:33:48 | こども
子ども乗せ自転車を買ってはや3ヶ月。
すっかり運転にも慣れ、ブイブイとまではいかないけれど
息子を乗せて近所をのろのろ走っている。

車道と歩道の段差を走る時は、怖がりの息子がビックリしないように
必ず「ガッタンくるよー、それ、ガッタン!」と
合図を出すようにしているのだが・・・。

つい先日、暑くて暑くてどうにもやりきれず
居間に敷いている畳の上にごろんと大の字のなって寝ていると、
3輪のバイクにまたがった息子がのそのそ近づいてきた。

「おやおや」と思ったその瞬間、
母のお腹の上にバイクの車輪がずしり。
あろうことか、息子がバイクに乗ったまま
母の身体を乗り越えようとしているではないか。

慌てて起きあがって「コラー、なにしとるんじゃい!」と怒ると
「ガッタンしたいー!」と息子号泣。
なるほど、母の身体がちょうどいい障害物だったのね。
ふむふむ、そうかそうか、そうだよなあ・・・。
無理矢理自分を納得させるも、一抹の寂しさが拭えない。

まさか自分の息子にバイクで轢かれるなんて、ね。
盗んだバイクで走り出す、15の夜が空恐ろしい今日この頃。






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鉄子の部屋

2014-08-16 00:26:47 | こども
「まさか!」と聞いて何を連想するか?

正解は「ロマンスカー」。
もちろん、小田急線のである。

すっかり電車好きになった息子とともに、
「のりもの大集合1000!」という本を毎日くりかえし眺めている。
のりもの大集合というだけあって、
車や船、飛行機などもたくさん載っているのだけれど、
電車以外にはまったく興味を示さず、鉄道ONLY LOVEである。

付属のDVDで見た電車は少しずつ名前を覚え始めたようで、
「あしょぼい(あそぼーい)」「かぜ(はやとの風)」
などなど、ちょっとだけ得意げな顔で教えてくれて
「よく覚えてるねえ」とほめるとうれしそうな表情をする。
上記のロマンスカーなども、パッと聞いただけでは
「まさか」と言っているようにしか聞こえないのだけれど、
精一杯伝えようとしている様子がなんとも愛おしい。

中には面白い覚え方をしているものもあって、
鉄人28号に似ている「南海ラピート」は「てちゅじん」、
走ってくる時に警笛の音が聞こえる「スーパー白鳥」は「ぷあん」。
どうやらプアーンという音の響きの方が、名前よりも耳に残ったらしい。

寝ても覚めても電車電車の毎日。
踏切前で息子と電車が来るのを心待ちにし
カンカンカンという音が流れてきた瞬間、胸が高鳴る。
運転手さんが手を振ってくれた日には、感激で涙がポロリ。

うーん・・・これじゃまるでアイドルの追っかけだ。

黄色がいいかな、オレンジの方がいいんじゃない?
この緑カッコいい!青がさわやかだねえ。

そんな会話を交わしながら、今日も息子と二人電車を眺める。
ときめきは加速する。





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否否!

2014-08-11 15:39:16 | こども
魔の2歳児、イヤイヤ怪獣・・・。
うわさには聞いていたけれど、2歳を前に我が息子も
ついに怪人否否に変身してしまった。

ある日の怪人否否の行動。

午前中、母と二人自転車で図書館へ。
思いの外たくさん絵本を借り、少し重くなったリュックを背負う母。
額に汗が光る。

和気あいあいと昼食をとった後、
普段はいかない大きなスーパーで食材をたんまり買い込む。
1つ95円で買った母の好物の桃と、
割れやすい卵だけそっとリュックに入れて、いざ自転車置き場へ。
ちょっと買いすぎかなあと、ずっしり肩にのっかった買い物バッグを見ながら
反省しつつ、よろめきよろめき歩く、真夏の真っ昼間。
シャワシャワ蝉の声が響き渡る。
さあ、帰るぞ!と勢い込んだ瞬間、

「自転車こわい!」

え?
母は我が耳を疑った。
行きはあんなにもサイクリングを楽しんでたのに。
「Go!」なんて母のかけ声にも応えてくれてたじゃないの。
そんな思いとは裏腹に、響き渡る怪人の叫び声。

「こわいこわいこわい!いやだいやだー!ウオー!」

おいおい、なんで今。この絶妙なタイミング。
どれだけなだめすかしても逃げ回り、激しい抵抗。
となると、強行策しかない。
チャイルドシートに無理矢理乗せて、
暴れようともむぎゅむぎゅベルトをカチリと止める。
まるで「やめろー、ショッカー!」の仮面ライダー(またはノリダー)のよう。

強引に走り出したものの、
怪人の泣き声はおさまるどころかさらにヒートアップし、
すれ違う人々の視線が突き刺さる。
嗚呼、泣きたいのはこっちだよ。

仕方なく、コンビニの隅っこに自転車を止めて再度説得にかかる。
が、泣き止むどころか、まさかの「おっぱい!」
なんでここで・・・絶望。
野菜ジュースでごまかそうと慌てて自販機で買ってきたものの、
缶では上手く飲めずに「出ない!(飲めない)」とさらに不機嫌に。

途方に暮れて、こそこそ隠れて授乳をし、いざ!とばかりに
再度自転車に無理矢理乗せてペダルを漕ぐ。
今度は何があっても止まらないと強く決意しながら。

母が背負っていたリュックをバシバシたたきながら
あきらめず泣き叫び続ける息子。
それでも母は無情にもゆるりとした上り坂を必死で漕ぎ続け、
黄色いペンギン(ドン・キホーテのキャラクター)が目に入った辺りで
怪人は涙を浮かべながらついに眠りにおちた。無念。

帰宅後、リュックから取り出した母の好物の桃はつぶれていた。
図書館で借りた「機関車トーマス」が「卵が無傷だったのは幸いでしたね」と
微笑みかけてくれ、その無邪気な笑顔に癒された。

後で振り返ってみると、なんとも滑稽で
どうしてお互いあんなに必死になっていたのかと思うくらいのことだけれど、
渦中にあると冷静ではいられず、ムキになったり、腹を立てたり。
そんな自分を嫌になったり。

子育ての道は長く険しい。
まだまだ始まったばっかだ。
嗚呼、否否。

ーーー
この日記をはじめてから、ちょうど1年が経った。
毎月、最低でも4つは書こうと決めているのだけれど、
そのせいで記事の投稿が月末に集中するのはなんともバランスが悪く
できるだけ週に1つは書きたいところなのだが、なかなか難しい。

たくさんの情報が溢れるこの時代において、
この日記に目をとめてくださった方々にささやかなありがとうを。

そして、これからもどうぞよろしくお願いします。












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